ある時計台の運命

丑三とき

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王都

ある古文書の中の物語

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古代文字は昔の人が書く崩し文字のような読みにくさがあり、長い文章を解読するのは思ったより時間がかかった。
今日はあらかじめノートに現代語へと翻訳しておいた古文書の内容を、図書館でオグルィ先生に伝えることになった。


「題名は、『樹木日記(案文)』。書き出しはこうです。
『残された我々始祖人は、悲惨なる運命を遂げた先祖”人間”に敬意を表し、この日記を後世に伝える。二度と同じ悲しみの起きぬよう祈りを込めて』。
題名から察するに、ここに書かれているのは樹木の中での生活です。案文だから、たぶん人間が残した日記みたいなものを、始祖人が書き写したのでしょう」


「なるほど、つまり樹木の中で捕らえられていた人間が言葉を残しとったという訳じゃな?」

「はい」

「して、何と」

「最初は……『どれほどの時間が経過したか分からない。彼ら・・は一体何だ。なぜ私は彼らの言葉が分かるのだろう。動物のような鳴き声に過ぎないあの声が、なぜ言葉に聞こえるか、分からない。怖い』と……」

「………続けてくれ」

「『私は既に三人の子を生んだ。子は皆彼らに連れて行かれた。私は用済みなのだろうか』……次のページです。『不自由はない。ここは空気も良く、食べる物も美味しい。彼らが育てる作物はどれも、今まで食べたどんなものよりも美味しい。住処も清潔で、至って健康だが、心は貧しい』」

綴られているのは、生々しい言葉の数々。
オグルィ先生も難しそうな顔で僕の言葉に耳を傾ける。
静かな館内に、紙の捲る音が鈍く鳴る。

「『彼らは何日かに一度ここへ来る。私はここから出してもらえないが、彼らと寄り添う時間は嫌いではない』
……驚きました。召喚された人間は、皆が始祖を恐れ、憎んでいたのだとばかり」

「始祖と人間の間にも、情が芽生えとったと言う訳か」

「そのようです」

「続けます。『私は戻れるのだろうか。彼らは憎い。憎いが愛おしい。彼らはいつも悲しそうな顔で私を見る。後悔の念に駆られているような顔だ。私はなぜ、彼らの表情が分かるのだろうか』。次のページは絵があります」

見開きの片側に書かれたのは、蛇のような体に、大きな翼と鋭い目と牙。ごくごくシンプルな線画だった。

「ドラゴンじゃな」

「はい。もう片側のページはドラゴンの説明みたいです。『体躯は個体によるが、少なくとも私の四、五倍はあろうか。皮膚は硬く、鱗で覆われている。彼らは飛ぶ。広げた翼は、空を覆い尽くすかのように大きい』
……次のページはユニコーンで、その次は、バジリスク、かな?最後に、おそらくフェニックス。……これで終わりみたいです」

「ふむ、樹木の中に閉じ込められておったと言うのは言い伝え通りじゃが、これまでの印象とは少々相違がある。」

先生はしばらくの間考え込んだ。
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