ある時計台の運命

丑三とき

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王都

雨の音

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夜。
部屋に戻ってジルさんの帰りを待っていると、ポツポツと水滴が窓を打ち出した。雨粒はだんだんと強くなり、あっという間に蛇口を捻ったような土砂降りになってしまった。

天井からは、風に乗った雨がものすごい勢いで駆け抜けてゆく音が聞こえる。

ソファに座って、激しい音を立てる天井をぼーっと見上げる。
雨は好きではない。あまり明るい気持ちになれないのだ。
お風呂に行くのもなんだか億劫になってきた。


ジルさん、早く帰って来ないかなあ。

……

よし、楽しいことを考えよう。


演習の見学は楽しかった。
今までは隊員の人たちとすれ違った時に挨拶をしたり、食堂で挨拶をしたり。
……挨拶しか交わして来なかったけど、今日はクリスさんとジルさんのおかげでいろんな人たちと話すことができた。

休憩の後も演習は続いた。

皆さんが、アキオ殿、見ててくださいね!などと優しく声をかけてくれるから、僕もつい応援に熱が入ってしまった。こんなにもウキウキして拳を握ったことはあっただろうか。

また見学に行けたらいいな。




楽しいことに思いを馳せているはずなのに、一向に止まない雨が耳の中をぐるぐる漂っているのが煩わしい。

それにしても急だ。
ついさっきまで晴れてたのに。


「つい先程まであんなに晴れていたのにな」

「っ、ジルさん」

びっくりした。心の声が出せるようになったのかと思った。
もちろんそんなことはなく、声の主は、天井を見上げる僕の背後にいつの間にか立っていたジルさんだった。


「驚かせてしまってすまない。一度声をかけたのだが、どこか上の空だった」

「あ…ごめんなさい。ぼーっとしてました」

「今日は屋外で過ごす時間が長かったからな。疲れたのだろう。ゆっくり休みなさい」

「ありがとうございます」

やっぱりジルさんといると落ち着く。
さっきまで雨音に占め尽くされていた頭に少しゆとりができた。


「例の話もヴェインから聞いた。無理をして欲しくないが、アキオがやりたい事なのだろう?」

あのこととはおそらく古文書のことだろう。
ジルさんは心配するだろうと思っていた。
でも、きっと許してくれるだろうとも思った。その気持ちに甘える形にはなるけれど、僕はどうしても知りたい。

「はい。許可してくださった王様に、何とお礼を言ったら良いか」

「ヴェインもアキオに同じことを思っていた。礼を言っても言い足りないとな」

「そんな……」

「あまり気負うな。困ったことがあれば何でも言ってくれ。私に出来ることがあるか分からんが、力になると約束する」

頭を撫でられるたびに、ジルさんが僕の心の中へと溶け込んでいくみたいだ。ジルさんと一緒に居られる時間は、1秒ずつがとっておきの宝物のように感じる。大事にしなければ。


「……ジルさん、今日は一緒にお風呂に入りませんか?」

せっかく一緒にいられる時間は、ひとときも離れたくないと感じてしまう。
これってもしかして、「重たい」って言うやつかな?
あまりしつこいと呆れられるかもしれないのに、それでも甘えちゃう。メテさんはそれで良い、どんどん行けって言うけど、本当に良いのかたまに不安になる。

ジルさんは予想通り快く承諾してくれた。

まぁ…考えても仕方ないことを考えるより、お風呂タイムを楽しもう。

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