ある時計台の運命

丑三とき

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王都

真実を解き明かす②

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「王様。古代の文献、僕に読ませてください。僕がこの世界の言葉を理解できる理由も、この世界に来た理由も、言い伝えに無かった始祖時代の事実や当時の生活だって、もしかしたら全部わかるかもしれません」

「アキオ殿。もしそれがわかれば世界を揺るがす大発見だ。歴史を暴くと言うことは、それだけ危険が伴うんだぞ?」

「でも王様……知りたいのですよね?」

「っ!」

「さっきからずっと顔にそう書いてあります。
確かに危険を伴うけど、歴史を明らかにすることは同じ過ちを繰り返さないため大切なことです。国民全員に正しい歴史を伝えたい。きっとそう思っていらっしゃるはずです。
でも僕に危険が及ぶ可能性を考えて、その気持ちを押し殺してくれているのではないですか?」

「アキオ殿……」

「僕も知りたいです。言い伝えではない真実を知りたいです」

ああ、困らせている。
王様は眉間の皺を限界まで深くして、複雑そうに声にならない唸りを上げている。

やっぱり余所者の僕がこの世界の歴史を解き明かすなど、あってはならない事なのかもしれない。
部屋には再び重苦しい空気が立ち込める。

………が、



「ああああ、わたくしとしたことが!!自らの欲を自制できずアキオ様に無礼を働いてしまうなど!アキオ様の魅力はどんなに素晴らしい絵師であっても表現しきれますまい。
申し訳ございませんアキオ様……許してくださいとは申しません。何なりと!何なりと処罰をくださいませ!もう煮るなり焼くなり」


「……………ユリッタ!!!」

「失礼いたしました」

スンッ


空気にそぐわぬ叫びを上げたユリは痺れを切らした王様に声を荒げられる。急に真顔に戻って姿勢を正したユリが面白くて思わず吹き出してしまいそうになるけど、なんとか堪えた。


「……はぁ、全く。
分かった。お前らが頼りになるのは俺が一番理解してる。サザ、ユリッタ。このことはジルとオグルィ講師にも伝えるが、それ以外の者には口外するな。古文書の解読なんて、万が一知れ渡ったら何が起こるかわからん」

「はい、それが良いでしょう。広く知らせるにはまだリスクがある」

「分かりました」

返事をしたサザさんとユリの口元は、先ほどよりも少しだけゆるんでいた。

「アキオ殿…本当に良いのか?」

「はい!ありがとうございます」

「礼を言うのはこちらの方だ。
平和を唱えているだけでは平和は手に入らない。どんな歴史も受け入れ、先へ伝えていくのが我々の役割だ。アキオ殿の言う通り、始祖の起こしたような過ちを二度と繰り返さないためには、言い伝えでない事実を知る必要がある。私はそれを、ずっと知りたいと思っていた。
アキオ殿、本当にありがとう」


今までどれだけの重圧に耐えて来たのだろう。
五歳で父親を亡くして、悲しむ間も無く王座について。
僕にできることならどんな小さいことでもやりたい。でも、僕を受け入れてくれた王様やこの国のために何ができるかまだ分からない。まずは”知る”ことが必要だ。

「王様、僕からもいくつか質問して良いですか?」

「何でも聞いてくれ」

「この時計台は今、どんな世界と繋がっているのですか?
ジルさんから聞いたんです。魔力の強い人なら、時計台から異界の映像が流れ込んでくるって。王様は知ってるんですよね?見たことあるんですよね?どんな景色が見えますか?」

「アキオ様、落ち着いてください……」

ユリが背中に手を添え、自分が身を乗り出していたことに気がつく。
興奮気味に問い詰めてしまったせいか王様は困惑気味に視線を下に落として、こう答えた。

「……すまないアキオ殿。約130年前の召喚未遂事件からこちら、時計台の観測は原則禁止となった。というより、“出来なくなった”と言った方が正しいだろうか。興味を持つ者が出て来ぬよう、当時王の座についていた私の高祖父が観測できないようにしたらしい」

なるほど。これまで当然に出来ていたことを禁止してしまうほど、召喚につながる可能性を排除したかったんだ。

「そうですか……もうひとついいですか?」

「ああ」

「…こんなことを聞くのは失礼かもしれませんが、なぜ誰にも解読できない古文書が、未だに図書館にあるのでしょうか。今まで誰も処分しようとはしなかったのですか?」

僕の質問に、王様は数秒考えた。


「歴代の王が何を考えたのかは私には分からない。私が処分しない理由も、これという物がはっきりある訳ではない。
ただ……心のどこかで待っていたのかもしれないな。アキオ殿のような人がいずれ解明してくれるのではないかと」

僕にプレッシャーをかけまいと慎重に言葉を選びながらも、待ち望んだ可能性の出現に落ち着きの取れていない心を曝け出す。
僕は少しでも王様の心の拠り所になれているのが嬉しかった。

「ほーら、やっぱ知りたかったんじゃないですか。さっきは『ダメだ。』なんて見栄をお張りになって……」

感動していると、またサザさんが軽口を叩く。

「……お前のそのよく動く口、切り落としてやろうか」

「あーらま、我が国の国王といったら、なんとまあ怖い怖い」

両手で自分を抱きしめて震えるふりをするサザさん。
いい加減本当にキレられそう……
でもなんだか言い合ってる2人は楽しそうだ。


王様は今までで一番鋭くサザさんを睨みつけたあと、こう続けた。

「そうだ。私にもアキオ殿ことを教えてくれ」

「僕のことですか?」

「ああ。例えば……元の世界ではどんな仕事をしていたんだ?ジルからは『新聞記者』と聞いたが、貴族か官僚だったのか?」

「いいえそんなまさか、全くもって一般市民です」

「一般市民!?アキオ様の世界では、一般市民が新聞を発行できるのですか!?」

ユリは大きな目をさらに丸くして驚いている。

「う、うん。でも僕が個人的に発行していたわけじゃないよ。新聞を作っている会社があって、そこにどんな情報を扱うか決める人や、記事を書く人、紙面のデザインを決める人とかがいて、みんなで作っていくんだ」

「それは興味深い……」

王様とサザさんも腕を組みながら不思議そうに僕を見る。
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