ある時計台の運命

丑三とき

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王都

真実を解き明かす

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「やはりな。アキオ殿、これが読めるのか?」

「読めますが、何の本ですか?」

「城の図書館の最上階にあったものを適当に一冊拝借してきた」

「最上階、ということはこれって……」

「ああ。古代文字で書かれている文献だ。
今アキオ殿が読んだ文字は、私たちにはただの不可思議な模様にしか見えない」

本から顔を上げると、ユリもサザさんも驚きながら小さく頷いていた。

「私が言った可能性というのは、アキオ殿が古代文字を解読できる可能性だ」

「…どうして、その可能性があると思ったんですか?」

「あらゆる世界から召喚された人々が皆同じ言語を扱っていたとは考えにくい。
もし始祖との間で意思を交わせていたのなら召喚という過程を経た異世界人には、元々使用していた言語に関わらずこの世界のいかなる者とも意思疎通できるような、そういう何らかの魔術が働いているのではないかと思った。それが何なのかは全く分からないがな」

王様は、お手上げといったふうに苦笑いを漏らす。

「そういえば、僕まだ図書館の本は読んだことありませんでした。まして上階にある本は読めないと思って興味を持ったことも無くて……まさか古代の文字を読めるなんて」

「正直私も動揺して、何と言っていいかわからない。これは今まで、誰にも……」

複雑な表情で考え込む王様。その感情の揺れ動きを、ユリとサザさんが見つめている。

どうしよう。
また皆を困らせてしまった。
異世界人というだけでもそれが知れ渡れば国民に混乱を招くだろうに、古代文字の解読までできてしまうなんて想像もしなかった。

「ヴェイン様。そのように申されますとアキオ様が困ってしまいますよ」

「………そうだな。すまない、不安にさせた」

「いいえっ、そんな、頭を上げてください」

王様は謝罪の言葉を述べるとともに頭を下げた。その張りのない声に胸が締め付けられる。


「それに、これは好機ではありませんか。この国に知識をもたらしてくださるのですよ?
今まで明らかになっていなかった古代の生活を解き明かせる可能性がある。これほど喜ばしいことは無いでしょう」

「サザさん……」

「そうれはそうだが……!俺らは良くてもアキオ殿にどのようなリスクがあるか分からんうちは、古文書の解読などさせる訳には……ダメだ。アキオ殿、すまんが図書館の古文書はこちらで保管させてもらう。触れることも許さん。
……読ませておきながら勝手を言って申し訳ない。結局君を不安にさせただけだったな」

王様の厳しい言葉と深い謝罪に、いつも元気なユリも難しそうな顔をして静かに耳を澄ましている。
すると、張り詰めた空気に痺れを切らしたようにサザさんが切り出した。

「あらあら、あ~そうですか、何があってもアキオ様はこの国で必ずお守りすると、わたくしは貴方の口から確かにそう伺った気がするのですが、あれは幻聴だったのでしょうか?」

ピキィ
と、王様の額に青筋が浮かぶ。

「お前、誰に向かって」

「おや、『礼儀は無し』では無かったのですか?」

「……チッ」

煽るような口調のサザさんに、王様はばつが悪そうに舌打ちをする。
ガンを飛ばすガラの悪い王様を見つめながら、サザさんは優しい声で続ける。

「ヴェイン様、きっと大丈夫ですよ。ジルルドオクタイ最高司令官やユリッタハーツフェルドだけでも十分頼もしいですが、ここに居るのは貴方が見定めた優秀な人物ばかり。それは貴方が一番分かっているでしょう?」

「………ほお、その『優秀な人物』とやらには、お前も入っているのか?」

「ええもちろん!」

「自分で言うな気色悪い」

「わたくしほど貴方をお慕いしている人間もおりますまい。貴方が決めたことに付いて行くまでです」

「言葉を慎めオタンコナス。今俺を否定したじゃないか」

「わたくしが?いつ?」

「……ムカつく」


2人のやりとりにずっと張り詰めていた空気が少しゆるんだ。
やっぱりこっちの口が悪いのが本当の王様なんだ。
イガさんが「良い意味で庶民的」って言った意味が分かった気がする。

それにしても、もしかしてこの2人って……

「ふふっ」

大切な話の最中にもかかわらず、気がついたら僕は2人の子供みたいな言い合いに笑ってしまっていた。

「………ア、ア、アァアキオ様がお声を出してお顔をお綻ばせに……!?!?っまばたき!わたくし今、まばたきをしてしまったぁ!いますぐこの素晴らしき瞬間を一枚の絵におさめなければ!しかしわたくしに絵など描けません。そうだ絵師!絵師を雇いましょうよ国王陛下!
いいえ少々お待ちください…アキオ様の尊きお姿を紙一枚の上に簡単に表現してしまってよいものでしょうか。それはもしや、侮辱罪に当たるのでは…!?」

「うるさいユリッタ!」

ユリは涙を流しそうな勢いで妄想を繰り広げている。
よかった。いつものユリに戻った。
僕はゆるんだ空気に背中を押され、自分がやるべきことを示すべく王様に頭を下げた。
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