ある時計台の運命

丑三とき

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王都

ジルさんとランチ

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「検査をよく頑張ったな」ということで、お昼は念願の食堂に連れて来て貰った。
ジルさんの食堂出現頻度は激レアなのか、周りの隊員たちはざわざわしている。

「何が食べたい?」

テーブル着いて、ジルさんはこのざわざわを意にも留めずに僕に聞く。

食べたい物か。
昨日来た時もユリが注文してくれたし、いざ自分で決めるとなるとすごく難しい。

「何にしよう…何がありますか?ジルさんが作ってくれた料理もありますか?みなさん何を召し上がっているのでしょう…どれも美味しそう…料理長のおすすめとか、聞いてみたいな」

僕も僕で、ジルさんと食堂で一緒にご飯を食べられるということにワクワクが抑えきれなくてつい興奮していると

「ちょっと待っていろ」

と言って彼は近くを通った隊員さんを呼び止め何かを伝え、隊員さんは「かしこまりました!」と元気よく返事をして急いでどこかへ行ってしまった。


「ジルさん?」

「今呼んだ」

呼んだ。
誰を?

きょとんとしていると、突然後ろから

「おぉこれはこれは最高司令官殿!珍しい来客じゃねぇか」

という声が近づいて来た。

振り返ると、そこには白い大きな三角巾を頭に締めて、白いシャツに白いエプロンを身に着けた男性。
40歳くらいだと見受けるが、僕がそう思うということはもっと上なのかもしれない。

「ガシモワ料理長。こちら”客人”のスワ・アキオだ。
アキオ。こちらは城の食堂を切り盛りするラコバ・ガシモワ料理長だ。食べたいものはなんでも言うといい」

ジルさんが「客人」と言った。
つまり異世界の件はまだ伝わっていないと思っていいのかな。

「スワ・アキオです」


今日はたくさん自己紹介をする日だ。

「おぉ!あんたがアキオ殿か!噂通りめんこいなぁ。息子が子供ん頃を思い出すぜ。
食いてぇもんがあれば何でも言いな。いっぱい食べて大きくなれよ!」


「ありがとうございます。食べたいもの…ええと」


隣のテーブルの人はなんかスープみたいなのとかお肉とか食べてる。あれも美味しそう。
後ろのテーブルの人はサラダとか煮込み料理みたいなやつとかパンとか。
色々あるんだ…。

わ、お腹がすいてきた。

どれも気になる。

「……ガシモワ料理長。貴方のおすすめを2つ頼む。アキオのは少し量を少なめにして欲しい」

「はいよ!待ってな、すぐ持ってきてやる!」

「ありがとうございます」

優柔不断を発揮していた僕を見かねてジルさんがスマートにやってくれた。
料理長のおすすめなんて、高級レストランみたい。まさか異世界で体験できるとは思わなかった。




料理が来るまでしばし談笑した。


「アキオ、隊員たちとはもう話したか?」

「はい。クリスさんとニーソンさんという方たちと一度。ちゃんとお話したのはまだお二人だけです」

「そうか。皆君と話したがっているようだ。勉強もいいが、食堂へ来て隊員達と交流することがアキオにとって気分転換になるのなら、自由に利用して構わないからな」

「本当ですか?」

それはなんとも嬉しい。
僕が一人で食堂に来ることをユリは渋っていたけど、ジルさんが良いって言うなら良いのだろう。
いっぱい来ちゃお。

「ダメです!!」

「わ、びっくりした。ユリ、いつの間に……。
宮廷のお仕事に行ったんじゃないの?」

「アキオ様が医務室や食堂でそのご尊顔を無償公開して回っているという噂を聞きつけ参ったのです!今日はお部屋に居てくださいと申したでしょう!」

園内を散歩させられるポニーみたいに言わなくても。


いつのまにか僕たちのそばに立って周りの注目も気にせず捲し立てるユリをジルさんがたしなめる。

「すまないユリッタ。私が医務室に連れ出したのだ。先ほど受診が済んだのでここへ連れてきた。今日は部屋で何か予定でもあったのか?」

「えっ、あ、そういう訳では無いのですが……」

「な、なんでも無いですジルさん。僕が迷ってしまったらいけないと思って心配してくれていたんです。ね、ユリ??」

「そ、そうですそうですー、ねーアキオ様~」

見ていられないほど顔が赤かったから外出禁止令を出されていたなんて口が裂けても言えない。



「そうか」

「しかし!先ほどのお話はいただけません、ジルルドオクタイ最高司令官。アキオ様をこんなむさ…屈強な軍人たちばかりがうじゃ…利用する食堂にお一人で自由に行き来など!何かあったらどうするんですか?
今だってほら、こーんなに注目を浴びて!!」

ユリはこちらを見ている隊員さんたちをガッツリ指差して叫ぶ。
注目を浴びているのはユリのせいだよ……。

「隊員たちのことは皆信頼している。
アキオにはすでに不自由を強いている。城の中だけでも自由に過ごしてほしい。君も同じ考えだろう?」

「それは、そうですが!」

「万が一客人であるアキオに手を出そう者がいたならば、そいつは”隊員”では無い。ここにそのような愚かな人間は居ないからな」





ピシッ!!



食堂全体が凍りつき、一瞬で食堂の空気が変わった。そこに居たおそらく全員がゴクっと生唾を飲み、顔を青くしている。



「まあ、司令官がそこまで仰るなら……」


あ、ユリが負けた。珍しい


「わたくしもできる限りそばに居たいと思っております。アキオ様は必ずお守りします」

「頼もしい限りだ」

「では、仕事がありますのでこれで」


そう言うとユリは発光して、あっという間に消えてしまった。
嵐みたいだったな。

仕事を抜け出してまで来てくれたのか。


「そういえば、お城の中で転移魔法を使っている隊員さんってあまり見かけないのですが。皆さん殆ど歩いて移動していますよね」

そこらじゅう発光人間が居てもおかしくないのに。もし僕が魔法を使えたなら、楽してずっと転移しちゃいそう。

「ここには転移を、というよりは魔術を使う際の決まり事がいくつかある。
例えば朝昼晩の人が多くなる時間帯の転移や、定時後の居住塔への転移などは原則禁止だ。
往来の多い場所への転移は魔力の細かい調整が必要になるからな。
それが得意な者も居れば不得意な者も居る。
万が一のトラブルを避けるために規則を設けているんだ」

「なるほど。ぶつかっちゃったりしたら危ないですものね」

「そういうことだ」
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