ある時計台の運命

丑三とき

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王都

お勉強の時間②

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「そんな時にジルが入隊した。
始祖人でも安心して働ける体制を軍がいち早く整えて、差別など必要ない事を国民に示すべきだと説く彼の熱意はあまりにも強うてな。上の人間も頭を抱えておったとはいえ、彼に何か希望のようなものを見出しとったに違いない」

先生は当時の様子を思い出しているのか、窓の外を眺めながら面白そうに声を弾ませた。

「徐々に始祖人の軍人が増え、ジルが最高司令官に就いた2年前、ドラゴンを中心とする飛行部隊を発足させたという訳じゃ」



すごすぎる。
思ったよりすごすぎた。
上司部下関係無く周りの人達を説得し、組織の体制を自分から変えていくなんて。
伝説の称号は伊達じゃない。


「ジルさんって、やっぱり優秀な方なんですね…」

「ああ、ジルはやりおるよ。近頃では伝説などと呼ばれておるらしいが、彼ほどその言葉が似合う者もおるまい。わしでも為し得んかった軍の立て直しを次々と実現させたんじゃからの」

自分の生徒を自慢するような誇らしげな口ぶりに、なぜだか僕も誇らしくなってしまう。




ん?
………わしでも?



「それは、オグルィ先生をはじめとする戦後の歴代最高司令官の方々が積み重ねて来られたご尽力があったから。たまたま私の時に運良く改革の機会が巡って来ただけのことです」

「ジルさん!?」


先生の一言を気に留めていると、聞き慣れた声が近くで響いて思わず肩が跳ねる。振り向いた先にはジルさんが立っていた。いつの間に…

「先生、勉強中に申し訳ございません。
コーデロイ医師の手が空いたのでアキオをお借りしたいのですが、よろしいでしょうか」

「ああ、わしは構わんよ」

「ありがとうございます。
アキオ、楽しみにしていたのに中断してすまない」


椅子に座る僕の隣に跪き、視線を合わせる。
その近さに危うく昨日の事を思い出しそうになる。
落ち着いて、平常心、平常心………。


「いえ……
ジルさん、お仕事は」

「代わりの者に任せてきた。
今から医務室に行く。専門の医師にきちんと診てもらった方がいいと思ってな」


その言葉に、今までかけてきた迷惑の数々が思い出される。僕が弱いせいでたくさん困らせてしまった。
泣き喚いちゃったこともあるし、それに旅の最中にジルさんから聞いた話が本当なら、自分で意識していないところでも魂が抜けたように震えていたことも何度かあったみたいだし。
ジルさんのおかげでようやく自分の不安定な心を自覚することができた。

……治るのかな。いや、治さなきゃ。
脚も。早くひとりで歩けるようにならないと。いつまでも周りの人たちの力を借りるようではだめだ。


「大丈夫だ。私もついている」

「…はい」

「ではアキオ殿。しっかり診て貰いなさいね」

「ありがとうございます、オグルィ先生」



短い授業時間だったけど、思わぬ情報も得られたし非常に充実した時間だった。

また一緒にお勉強してもらう事を先生と約束し、僕はジルさんに抱えられて医務室に転移した。
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