ある時計台の運命

丑三とき

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王都

図書館②

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「アキオ様はっっ…絵もお描きになられるのですか…!?!?
わたくしをどれだけ魅了すればお気が済むのでしょう!その白魚のように美しい指先から繰り出される魔法のような芸術に、胸の高鳴りがおさまりません!
千年に一度起こる美しい自然現象のような奇跡に立ち会えた思いでもうこの気持ちをなんと表現して良いか」

本当に大袈裟なんだから。

杖を返してもらい、我ながら上手くかけたことに満足しながら騒ぐユリを注意する。

「ユリ、図書館では大きな声出しちゃだめだよ。しっ」

「シッッ!?」

ーーーバタンッ!

「えっ!うそ、大丈夫!?」

どうしよう。ユリが勢いよく倒れてしまった。

人差し指を口に当てて『静かに』のジェスチャーをしたら、僕の指から何かのビームが出たのか、ダメージを食らっている。


そっか。僕の世界の常識に当て嵌めて注意してしまったけど、よく考えたらここはで別に『図書館は静かにしなきゃいけないところ』という訳では無いかも知れないのに。
子供にやるみたいに「しっ」なんて失礼だったかも。


「あの…褒めてくれたのに、ごめ」


ーーースッッ!

「失礼。取り乱してしまいました」

勢いよく立ち上がったユリ。
その無駄のない動きに感動する。
体幹がすごいんだなあ。


「そちらの塔では、噛み砕いて言うなら『政治』が行われております」


「なるほど…官僚の方達がお仕事をしているところ、って感じ?」

「はい。昔はその屋敷に居住エリアがあった様なのですが、現在はお役所的役割を果たしています。
他にも、隊員たちが軍人としての素養を身につけるための講義が開かれる講堂や、医務室、客間などもこちらに」

「なるほど。色々するところ、って感じだね」

「そう思っていただくのが分かりやすいでしょう。
そして、こちらの塔は訓練施設となっております。様々な場面を想定したシミュレーションができるエリアもあるんですよ」

そう言ってユリはロの字の右の『|』部分に並ぶ四角い三つの塔を指す。

「シミュレーション…?」

「はい、例えば業火や豪雨の中での人命救助や、戦闘訓練など。訓練生だけで無く、新人からベテランまで隊員皆が訓練を積む場所です」

「ユリもここで訓練していたの?」

「はい!」

へぇ、ユリが訓練した場所見てみたいな。
隊員の人は皆ってことは、ジルさんもそこで訓練を重ねているのだろうか。
ますます見てみたい。


「もし見学される際は必ず、必ず!わたくしかジルルドオクタイ最高司令官と一緒に!ですよ?お一人では決して行かないように!」

「見学してもいいの!?」

「ご覧になりたいもの、されたいこと、アキオ様のお望みはこのわたくしが何でも叶えて差し上げます!ただし、危険なこと以外は、ですが!」

「ありがとう。じゃあ…ぜひ行ってみたいな」

「では、早速明日にでも行ってみましょうか?」

「本当に?楽しみ!」

「………明日を待ちきれないとばかりにわくわくしておられるアキオ様、あぁ麗しい…」

両手でお祈りポーズをして上を見上げるユリは、はっと何かを思い出したようにこちらを向く。

「アキオ様。明日からはいよいよお勉強が始まります。いつでも資料が用意できるよう図書館で行おうと考えておりますが、いかがでしょうか?」

「本当に?こんな素敵な場所でお勉強できるなんて贅沢だなあ。
……でもここって、皆さん使うところじゃないの?邪魔にならないかな」

「アキオ様が、邪魔!?そんなこと天地がひっくり返ってもあり得ません!
それに、図書館はあまり人が来ない場所です。書籍や資料は専門家や権威のある方々が、同じく専門家や権威のある方々向けに書かれたものばかりなので、ほとんどの人間は内容が難しくて理解できませんから」

「じゃあ、一般の人向けの本ってあまり無いの?」

「はい。アキオ様の世界では、一般の民間人も本を読まれるのですか?」

「うん。子供も大人もみんな」

「子供も、ですか!?この世界では考えられません…本当に素敵な世界からいらっしゃったのですね…。
ではアキオ様も、ここにある本はどれでも好きにお読みになってくださいね!」

「ありがとう」

なるほど、本を読む人がいないから、ここには誰もいないのか。
確かによく見ると本の並べ方や雰囲気が図書館というよりも『書庫』って感じだ。

「講師はオクサナ・オグルィという者が担当する予定です。とても優しい先生なんですよ」

「オク、サナ…おぐ、おぐ?」

「オグルィ先生です」

「オグルィ先生、オグルィ先生、オグルィ先生……よし、覚えた」

「んぅ、もう、お可愛らしいっ!!」
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