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王都
給仕のお仕事
しおりを挟む「あんなに癒しの無いところだとは思いませんでした…!」
苦虫を噛み潰したような表情のユリ曰くこうだ。
幼い頃、孤児だったユリは施設で育った。
ある時、施設の行事で軍城の城門広場を訪れ、軍人や軍用動物(といっても動物兵器のようなものではなく、警察犬とか移動用の馬とかそんな感じっぽい)と触れ合うイベントに参加した時、動物たちの愛くるしさに雷に打たれたような衝撃を受け、そこから可愛いものに”目覚めた”らしい。
軍用動物のお世話係がしたいがために軍人を目指し(可愛い)、軍の訓練生になって約1年間、全ての科目で首席だったにもかかわらず(すごい)、脳みそが筋肉で構成されている武骨な軍人たちのむさ苦しさに耐えられなくて(原文ママ)辞めたという。
「地獄でした。わたくしが一生懸命頑張ったのは、うさぎさんやお馬さんをもふもふする為であって!決してゴツい男たちの汗を浴びるためではありません!」
「……ユリらしいね」
「まあ…当初わたくしは今よりも未熟でしたから、自分のことしか考えていなかったのです。
しかし訓練を積むにつれて、民間人のために役立ちたいと考えるようになったのも事実。ちょうどその頃に王からの打診があり、給仕になったという訳です」
「王様から直接…すごい…」
「ユリッタさんに関しては、給仕というより『何でも屋さん』ですよね。定期的に町へ出て、民間人の相談窓口になっているとか」
イガさんが関心したように言う。
「そんなこともユリがしてるの?」
「王は、ご自身の回りのことはご自身でされないと気が済まないお方です。元来給仕など必要ないとお考えのようですが、そういう訳にはいきません。
つまり『王宮の給仕』という立場の人間は、まあ言ってしまえば皆手持ち無沙汰なのです」
「またそんなこと言っちゃって。アキオ君の前だからって照れ隠しは良くないよ」
「照れ隠しなどっっ!!
アキオ様に隠し事などするはずがないでしょう!」
「いや別に、そういう意味じゃ無いんだけど…」
ユリの意外な経歴にびっくりするような、納得するような。
見た事ないけど間違いなく辛いであろう軍の訓練を首席で、とか…。「アキオ様」なんて言ってる場合じゃない気がする。
「実際、ユリッタのやってることは誰にでも出来ることじゃないと思うよ。自分の足で民間人の声を聞いて回って、それを直接王に伝えるんだから」
「民間人にとって、国に自分の声が届くなんて今までなら夢のまた夢でしたからね。ユリッタさんの活躍がどれだけの人を救ってきたか」
「しかし、まだ不十分です。貧困や飢餓で喘いでいる人々が居なくなるまでは、わたくしはわたくしにできることを全うします」
「ユリ………」
「ま、まあ!
町を回るのは、地上の動物小屋に通うついでですが!!」
ユリは顔を少しだけ赤くして早口で捲し立てる。
なるほどこれが照れ隠しか。
だんだんわかってきた気がするぞ。
イガさんとメテさんも微笑ましく見てる。
やっぱりすごい人だったんだな、ユリ。
僕もがんばらないと。
それにしても、『ガー』とか『グースィ』だけでなく、馬やうさぎなど地球上と同じ生物もいるらしい。
そういえば馬車は馬が引くって言ってたな。
動物小屋、いいな。地上にあるのか。
今は町へ出られないから動物小屋まで行けないけど、いつか僕も馬やうさぎをもふもふしたい。
「では!わたくしは昼食の用意をして参ります。
アキオ様、こちらで召し上がりますか?」
ばっっとユリが立ってこちらに問う。
「お、いいじゃんいいじゃん!宿の時みたいに一緒に食べようよ」
「いいんですか?」
「もちろんですアキオ君。ぜひご一緒しましょう」
「はい!ありがとうございます」
それから昼食を待つ間、ユリの訓練生時代のエピソードを聞いたり、長期出張明けで1週間の休みに入ったイガさんとメテさんの休暇中の過ごし方を一緒に考えたりした。
結果、特に何も決めずのんびり過ごすことになったらしい。
そうこうしているうちにユリが昼食を運んでくれた。
「ユリは一緒に食べないの?」
「ええ、わたくしは王宮の仕事がありますので。またお迎えにあがります」
「そっか」
そうだった。僕はのほほんとしてるけど、ユリはずっとお仕事中だったんだ。
大変なのに僕の世話係まで…。
ごめんね、なんて言ったらきっと悲しい顔をしてしまうから、ありがとうと言ってユリと別れる。
というか、ユリ絶対忙しいじゃん。
全然手持ち無沙汰じゃないじゃん。
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