ある時計台の運命

旅路

未来②

ーーーーーーーーside METEメテーーーーーーーー

司令官が地中から救出したアキオ君を見た時は、正直生きているのか死んでいるのか分からなかった。
布に包まれていても隠しきれないか細さ。
触っただけで崩れてしまいそうなほど憔悴している。

ーーーまた助けられなかった。

そう思った。
軍人としてある程度の経験を積んでいると、悔しくて仕方がない場面に直面する事も少なく無い。
そのたびに言い表せない絶望が襲う。

でも、アキオ君は生きていてくれた。


約1週間後に再会した時、健康的にはなっていたものの、あまり身体の成長が見られない様子に不安を覚えた。しかも10代半ばだと思っていたアキオ君は実は24歳だと言う。
栄養が足りてないのか？いや、司令官と一緒にいてそんなことはまず無い。でももしかしたら精神的苦痛から食事を受け付けないのかも知れない。
もしくは病気で栄養が行き届かないとか？


疑問と不安は思わぬ事実により解消した。

アキオ君は異世界からやってきて、元いた世界では平均身長だと言うのだ。

異世界という言葉に一瞬驚きはしたものの、自分の中では大した問題じゃ無かった。
それよりも、病気でも発育不良でも無いと分かったことに何よりの安心を覚えた。

これからアキオ君に降りかかるのは、良いことばかりでは無いだろう。
それはこの世界の歴史が物語っている。
異世界からの召喚が禁忌となったこの世界において、アキオ君の存在を良く思わない人間も出てくると思う。

アキオ君の出自をどこまで伝えるかは王や宰相の判断に委ねるしか無いだろうが、何があっても守る。イガさんとの間でそう決めた。



旅の序盤は表情が乏しかったアキオ君。
まあ、今も基本的には真顔で、表情が豊かかと言われるとそういう訳ではないが、声が出るようになってからは、その声色から喜んでいるのかなとか、何か考え込んでいるのかなとか、だんだんと掴めるようになった。


そしてアキオ君は恋をした。

恋をしてからのアキオ君は驚くべき成長を見せてくれた。

最初は自分の中に芽生えた感情を自覚していなかったみたいだけど、俺の素晴らしいアシストもあり素直に気持ちを打ち明けてくれるようになった。


そして今や小悪魔に成長しつつある。

司令官の理性が心配ではあるが、俺としてはむしろ理性など崩し去っていただきたい。
そうでも無いとあの2人はいつまで経ってもあんな感じのままだと思う。

直感第一、思い立ったら即行動派の俺としてはウズウズして仕方が無いけど、本人たちのペースもあるだろうし、何よりアキオ君自身の行動で事態を動かさないと意味がない。

そのための手法を説いてみると、翌日、何と実践したとの報告を受けた。


この子すごい。

何がすごいって誘惑してる自覚無いところがすごい。
あの鈍いイガさんですら俺を誘惑する時はしっかりとその目で『誘ってます』と訴え、恥ずかしがりながらも、たまに何故かキレながらもちゃんと自覚を持って俺を刺激して来る。


ますます面白くなってきた。

さらに司令官への贈り物を買いたいと健気に頼んできた。
もう、そういうの大歓迎です。



イガさんからはやりすぎだと注意を受けるが、イガさんだってちょっと楽しんでいるのを俺は知っている。

アキオ君が楽しそうに何かを話せば、イガさんの心も明るく変化していく。
俺と違って無駄口を叩かないイガさんだけど、彼もアキオ君と司令官にぜひ良い関係になってもらいたいと願っているのは見ていれば分かる。

王都に着いてからのアキオ君の生活について、王がどのような判断を下すかはまだ分かりかねるが、きっと悪いようにはならない。これからも変わらずアキオ君との関係を維持していける。そういう根拠の無い自信がある。

なぜならばそうでないと困るからだ。

これからも2人の進展を近くで見守れないのは面白くない。
もじもじウズウズしながら少しずつ進んでいく2人の関係を見ていたい…！

と、まあこれは個人的な欲望に過ぎないのだが、普通に恋して、普通に人のあたたかさに触れて、普通に人の真心を感じて、普通に人を愛して、そういう簡単な様で難関な世界が少しずつ広まって、いつか本当の『普通』になってくれたら俺たち軍人も救われるってもんじゃないだろうか。

アキオ君は戦争も戦後も経験していないらしいけど、彼の周りを取り巻いていた世界は決して平和ではなかったと分かる。

人を愛して愛されるということがアキオ君にとって『普通』では無い、そんな気がしていた。

だから変わることができて本当に良かったと思う。

これからもそんなアキオ君を、イガさんと一緒に見守っていきたい。そう思っている。

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