ある時計台の運命

丑三とき

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旅路

戦利品①

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「お兄さん、お菓子もください。あ…メテさん、いいですか?」

お財布係のメテさんにうかがうと「もちろん!」とお許しが出た。

「道中のおやつ用にも買って行きましょう」

僕は自分にとっても懐かしいカルメ焼きを選んで籠に入れ、あとはイガさんとメテさんに任せる。2人は「これと、これと、」と次々手に取り、籠の中は色とりどりのお菓子が盛られていく。

「なんかすまねえな…気を遣わせちまったみたいで」

申し訳なさそうにするお兄さんに、イガさんが答える。

「いいえ、そんな気を遣っただなんて。とても懐かしかったので、隊員たちにも配りたいんです。王都にも卸されるのですよね?たくさん宣伝しておきます」

「そうかそうか、ありがとな!軍の兄ちゃんたち!」

良い情報を教えてくれたお兄さんにこちらこそとお礼を言い、1区画先の練り油屋さんを目指して歩き出した時、「坊主、坊主」と僕だけ呼び止められる。

「これはおまけだ。取っときな。杖つきながらの移動は大変だろう?疲れた時に食べるといい。疲労回復に効く」

お菓子屋のお兄さんは、僕に飴玉を渡してきた。

最初はまた子供扱いされたのだと思ったけど、杖の僕を心配してくれたらしい。
本当に、優しい人が多いなあ。

「ありがとうございます。大切にいただきます」

たまに甘いものが食べたくなるからすごく嬉しかったし、何よりその心遣いに気持ちが暖かくなった。
王都でここのお菓子を見かけたら、絶対自分のお金で買おう。




練り油屋に向かって歩いていると、メテさんがいきなり口を開いた。

「で?アキオ君」

それだけ言って僕の返答を待つ。

え?
何が?

メテさんの目を見て何とか以心伝心を試みるも、全く意図がわからない。
頭を捻っていれば、
「司令官への思いは変わらない?」
と問われる。

その問いに気持ちが揺らぐことなく、ただ一つの答えを真っ直ぐに持てている自分を誇らしく思う。

「はい、変わりません。僕はジルさんが好きです。本人に伝えるのは、まだもう少し勇気と自信が必要だけど、でもいつか、いつか…」

「その調子です、アキオ君!私はいつだってあなたの味方です。不安になることもあるでしょうが、アキオ君なら絶対に大丈夫です」

「そうそう、そうやって自信を持っていれば、いつか司令官に対しても気持ちを伝える勇気がきっと湧いてくるから!」

僕は大きく頷いて、2人の力強い鼓舞に応えた。

「ところでさ、やっぱり司令官って、イイ男?」

メテさんはまた先程のニヤけ顔に戻ってそんなことを聞いてくる。
イガさんはとても呆れた顔をしている。

「そうですね…はい、とっても。
出発前の生活でも毎日ご飯を作ってくれて、僕が歩けるように練習に付き合ってくれたり杖を作ってくれたり。何より、一緒にいるととても安心するんです」

ジルさんを好きになった理由は、他にも言葉に出来ないものを含めると沢山あるが、簡潔にそう伝える。

「そっかそっか。言ったでしょ?司令官は優良物件だって」

「優良…そう言う意味だったんですか?」

ペカンの町出発後、湖でお昼ご飯を食べた後にそんな事を言われた気がする。
あの時からメテさんは僕とジルさんを、つまり、そういう『想う想われる』の関係だと気づいていたってことだろうか。
僕でさえあの感情が何なのか分からなかった時に。…恐ろしい、さすが先生。

あ、そうだそうだ。
ちゃんと先生に実績を報告して評価を貰わねば。

「あの、メテさんに教えてもらったことも実践しました。腕を絡ませる…というのは少しハードルが高くて、服の裾を掴むので精一杯だったのですが、しっかりと目を見ることも出来ました」

「え、本当に?すごいすごい!
それで、何かお願いしたの?」

「はい。昨日はひとりで寝るのが心細かったので、一緒に寝てください、とお願いをしました」

「へぇ…一緒に寝てください、って?」

「はい」

「服の裾を掴んで?」

「はい」

「上目遣いで司令官を見つめて?」

上目…まあ、必然的にそうなるか。

「はい」

「アキオ君……君なかなかやるね」

おお、講師のメテさんに褒めていただいた。
これは嬉しい。

「ありがとうございます。……ん?」

褒めてくれたのに、2人はなんだか微妙な表情になってしまった。驚いているような苦笑いのような、そんな表情。
小さな声で話している内容はよく聞こえないけど、断片的に「司令官」とか「理性」とか「我慢」とか聞こえる。

「あの…もしかして、失礼だったでしょうか。ジルさんは優しいから怒らなかったけど、もしいけないことだったら教えてください。僕、分からないから、変なことしてしまってたら困るから」

「いやいやいやいやアキオ君100点満点だよ!今後もその調子で好きに甘えなさい!」

「もう…メテ、知りませんからね」

イガさんは少し困り顔だけど、最終的にはアキオ君の思うように、と言ってくれたので、自分が無礼を働いた訳ではないのだと胸を撫で下ろす。

「良かった。
あと、ジルさんに僕の国のおまじないもかけました。『痛いの痛いのとんでいけ』っていうちょっと子供騙しなおまじないなんですが、あっちじゃ結構一般的なんです。お腹の傷と、あとほっぺたが赤かったのでつい口から出てしまって。これも、大丈夫でしたでしょうか?」

「アキオ君、無自覚でそれは恐ろしいです」

「え?」

「あぁいいえ!何でも…。大丈夫です!なんの問題もありませんよ、恐らく…」

「うん、さすが俺の生徒。その調子でどんどん行っちゃって。もう好きにやっちゃって」

「はい、分かりました」
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