ある時計台の運命

丑三とき

文字の大きさ
上 下
64 / 171
旅路

プレゼント大作戦②

しおりを挟む
ノリ気になったメテさんが盛大な拍手を送ってくれる。
大作戦…。そこまでのつもりは無いけれど、せっかく贈るなら喜んでもらえるものがいい。

「この世界の方には、何を贈るのがいいでしょうか?」

元の世界でも誰かに贈り物なんてしたことがなかった。
職場のホワイトデーにも、退職する人への花束にも、全員分で割ったお金を出すだけ。
自分で選んだことなんて一度もないので、この世界のどころかプレゼントに対する常識的なもの自体が欠けているのだ。

もしかしたら人にあげては失礼になるものなどもあるかも知れない。そういったマナーも分からない。

「そうですねえ。好みも人それぞれですし…」

イガさんが頭を悩ませる。

「ジルさんは、何がお好きなんでしょう」

「好きなもの、かあ。司令官の私生活に関しては何も知らないからなあ」

「仕事一筋で謎めいているお方、という印象が強いので、正直なんとも…」

やはりジルさんのプライベートは軍内でも謎めいているのか。
そんな気はしていたけど。

「ぶっちゃけアキオ君が贈ったものなら何でも嬉しいと思うけどね」

「それは一理ありますね。とにかく市場に行きましょう。物色しているうちに何か見つかるかもしれません」




3つ目の町ともなると、ワープしても体に何の違和感も感じられないほどに慣れてきた。

市場はやっぱり塩漬けの屋台が多い。
その他には、「新鮮な野菜はいかが?」と八百屋さん、「焼きたてだよー!」とパン屋さん、「目玉商品が入ったぜ!」と家具屋さん、「坊主、甘いものはどうだい?」とお菓子屋さん。

お菓子か…。お菓子でも良いかも。
元の世界ではお歳暮とか手土産にお菓子は定番だったし、お世話になっています、いつもありがとう、といった感謝のメッセージがプリントされているのも見たことがある。
この世界にはそういう『ちょっとした贈り物』用みたいなのあるのかな?

「イガさん、メテさん、ここ見ても良いですか?」

「ええ、良いですよ」

「へぇ懐かしい~。ターツリーじゃん」

メテさんが懐かしいと言って手に取った袋には、薄茶色くて丸い、手のひらよりも少し大きい煎餅みたいなお菓子が入っている。

「ターツリー?」

「本当、懐かしいですね。昔は年祝いなどの特別な日に食べていました。今では普通に売られていますが、あの頃は贅沢品に感じたものです。甘くて、老若男女問わず人気があるんですよ」

ターツリーと呼ばれたそれは、よく見ると所々に気泡やひびがあって持ってみるととても軽い。
これは、日本のカルメ焼きだ。
理科の授業で作った事がある。

「ジルさん、これ好きかな」

「嫌いという人はあまり聞いた事が無いので、無難ではありますね」

うーんそうだよなあ。やっぱりそうなっちゃうんだよ。
差し障りのないものとか無難なものに落ち着きそうな予感はしていたけど、でもやっぱり贈るからにはその人のことを思って贈りたいしな…。

お菓子屋さんを物色すると、カルメ焼きやマフィンといった焼き菓子、ゼリーの様な生菓子、キャンディまで様々な種類が揃っている。

「新作もあるから好きに見てってくれよ」

屋台のご主人が威勢よく言う。

「これ、全部おじ…お兄さんが作ったのですか?」

危ない。この世界の人は見た目では年齢が分からないのだった。
青年に見えておじさん、中堅に見えて若者という事例は何度か見てきたので、言動は慎重に。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

王道にはしたくないので

八瑠璃
BL
国中殆どの金持ちの子息のみが通う、小中高一貫の超名門マンモス校〈朱鷺学園〉 幼少の頃からそこに通い、能力を高め他を率いてきた生徒会長こと鷹官 仁。前世知識から得た何れ来るとも知れぬ転校生に、平穏な日々と将来を潰されない為に日々努力を怠らず理想の会長となるべく努めてきた仁だったが、少々やり過ぎなせいでいつの間にか大変なことになっていた_____。 これは、やりすぎちまった超絶カリスマ生徒会長とそんな彼の周囲のお話である。

全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話

みき
BL
全寮制男子校でモテモテな男の子の話。 BL 総受け 高校生 親衛隊 王道 学園 ヤンデレ 溺愛 完全自己満小説です。 数年前に書いた作品で、めちゃくちゃ中途半端なところ(第4話)で終わります。実験的公開作品

私の事を調べないで!

さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と 桜華の白龍としての姿をもつ 咲夜 バレないように過ごすが 転校生が来てから騒がしくなり みんなが私の事を調べだして… 表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓ https://picrew.me/image_maker/625951

すべてはあなたを守るため

高菜あやめ
BL
【天然超絶美形な王太子×妾のフリした護衛】 Y国の次期国王セレスタン王太子殿下の妾になるため、はるばるX国からやってきたロキ。だが妾とは表向きの姿で、その正体はY国政府の依頼で派遣された『雇われ』護衛だ。戴冠式を一か月後に控え、殿下をあらゆる刺客から守りぬかなくてはならない。しかしこの任務、殿下に素性を知られないことが条件で、そのため武器も取り上げられ、丸腰で護衛をするとか無茶な注文をされる。ロキははたして殿下を守りぬけるのか……愛情深い王太子殿下とポンコツ護衛のほのぼの切ないラブコメディです

主人公の兄になったなんて知らない

さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を レインは知らない自分が神に愛されている事を 表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346

愛され末っ子

西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。 リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。 (お知らせは本編で行います。) ******** 上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます! 上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、 上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。 上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的 上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン 上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。 てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。 (特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。 琉架の従者 遼(はる)琉架の10歳上 理斗の従者 蘭(らん)理斗の10歳上 その他の従者は後々出します。 虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。 前半、BL要素少なめです。 この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。 できないな、と悟ったらこの文は消します。 ※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。 皆様にとって最高の作品になりますように。 ※作者の近況状況欄は要チェックです! 西条ネア

表情筋が死んでいる

白鳩 唯斗
BL
無表情な主人公

処理中です...