ある時計台の運命

丑三とき

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旅路

ドキドキお風呂タイム④

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「さあ、話し込んでいては冷えてしまう。温まろう」

・・・そういえば、服脱いでる途中だったんだ。

「そ、そうですね」


現実に引き戻され、自分がほぼ裸だったことに気付き心が折れそうになるが、恥など知らぬわ、えいやっ、と脱ぎ捨て浴室に入る。

ジルさんの背中を流したり、流されたりしながら洗い終え、待ちに待った湯船に浸かる。
脱衣所で話し込んでしまったから体の末端が冷え冷えになっていて、湯のあたたかさが骨身に染みる。

ジルさんは傷の部分をゴシゴシと、まるで傷なんか無いみたいに洗い、シャワーも直で勢いよく当てるので、その度に「あ!」と僕が言うと、まるで親に怒られた子供のようにバツが悪そうな顔をして手つきを緩めた。
だって、そんなにゴシゴシしてたら悪化しそうなんだもの。

そして前回と同じように、湯船に入る時だけ傷を空気で覆っている。
やっぱりお湯の事を気にしてくれているんだな。

・・・その、お腹の方を見ると、自然と、自然と!彫刻のように勇猛なそれが目に入ってきて思わずぎゅっと目を瞑った。

この前一緒に入った時は特になんとも思わなかった・・・訳ではないけど、ちょっと小っ恥ずかしくはあったけど、見てはいけないものを見てしまったような、こんな破廉恥な背徳感に苛まれたのは初めてだ。


「アキオ、湯加減はどうだ?」

「と、とっても良いです。極楽極楽~、です」

「ごく・・・、何だ?まじないか?」

思考を浄化するべく肩まで浸かり、伸びをしながらお風呂の決まり文句を言うと、隣に浸かるジルさんは首をかしげた。

そっか、今まで重たい話ばかりで、元の世界の何気ない話とかちょっとした文化の違いの話とか、しようしようと思っていて実際まだあまり話したこと無かったっけ。

ジルさんにはこの世界のことを沢山教えてもらったから、今度は僕が自分の世界の事を教えたい。


「僕の世界の、僕の国では、お風呂に入る時はこう言うんです。『極楽浄土』っていうのがわかりやすく言えば苦しみの無い楽しいだけの世界、って事なんですけど、あたたかいお風呂に浸かると嫌なこと忘れて『はぁ~気持ち良い』ってなるじゃないですか。簡単に言えばそういう事です」

「なるほど、ごくらく、か」

「元々お風呂は宗教的な儀式らしくて、そう言う発端も関係しているみたいです。極楽浄土も宗教用語なので。
でも現代の人はそんな事知らない人も多いし、僕も詳しい由来は分からないのですが。もう決まり文句みたいなものです」

まあ、一人暮らしでは口から「極楽」などと出る機会も無かったから初めて言ったのだけど。

「他には無いのか?もっとアキオの世界を知りたい」

ジルさんはこんなどうでもいい話を興味深そうに聞いてくれるので、僕も嬉しくなって得意げになってしまう。

「僕の国では、スプーンやフォークよりも箸をよく使います」

「なるほど、それで箸の使い方が上手かったのか。ではここの食事は口に合わないのではないか?箸を使うような食文化ではないからな」

「そんなことはありません。これまでは食事にあまり興味が無かったし、好きなものも嫌いなものも無かったのですが、ジルさんが作ってくれたものがどれも美味しかったので食べるのが好きになりました。屋台の料理も食堂の料理も全部美味しいです」

「そうか。それなら良かった」

放った声が浴室に反響し、自分の耳に戻ってくる。いつになく弾んでいるのを感じる。
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