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旅路
ドキドキお風呂タイム①
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イガさんとメテさんが自分の部屋に戻った後、部屋には僕とジルさんの2人きりになった。
ほんの約半日とはいえ、こんなに長い時間ジルさんと離れて過ごすのは初めてだったので、この状況に懐かしささえ感じる。
「辛い時に留守にしてすまない。体調はどうだ?」
いつもよりお堅めの服装のジルさん。上着を脱いで胸元のボタンを緩める仕草にすら心臓が反応して、鼓動が身体全体に響き顔までバクバクと音を立て始めた。
今日は2人と色んな話をしたせいか、僕のジルさんセンサーが敏感になっている。今まで大して気に留めなかった仕草のひとつひとつが、急に縁取られたように鮮明に脳に飛び込む。
「イガさんとメテさんに看病していただいて、もうだいぶ良くなりました」
どれどれ、と言わんばかりにジルさんは僕の顔を覗き込み、おでこに手を当てて来た。
「顔色も良くなったし、熱も下がったな。まだ少し熱いが・・・」
熱いのは多分このドキドキのせいだ。冷たい手が僕のどこか一部に触れるだけでみるみる熱くなっていくんだから、たまったもんじゃない。
「だ、大丈夫です。明日は出発できそうです。1日遅らせてしまってすみません」
「そうか。しかし、出発しても無理は禁物だ。道中気分が優れなかったら遠慮なく言いなさい」
「はい、ありがとうございます」
ぎごちなくなっていないか、平常心を装えているか、自分のことばかりに意識が行ってしまってジルさんの言葉がうまく入って来ない。
こんな調子で大丈夫か?と不安にはなるけれど、2人に宣言したからには、写真の件、今日のうちに勇気を出して聞いてみようと思っている。
・・・のに、全っ然切り出すタイミングが掴めない。
「夕飯は食べたか?」
「夕方くらいに遅めのお昼と夕食を兼ねました。宿の食堂のものを部屋でいただいたんですが・・・ジルさんは?」
「私も駐屯地の食堂で隊員達と済ませてきた」
「へえ・・・駐屯地にも食堂があるのですね」
「簡易的なものだがな。
戦後の軍再編に伴い各地の駐屯地も整備し直されたそうだが、理想とするものには程遠い。王都に近いこのカオの町でさえ、まだ充分な人員配置が叶わない状況だ。
だが、設備や人手が整えられない中でも皆良くやっている。私も気を抜いていられないな」
ジルさんはそう言って目を細める。
復興が進んでいるとはいえまだまだ戦争の影響は色濃く、盗賊や人攫い、奴隷商がはびこるこの国。情勢も安定せず大変だろうに、軍人という立場に誇りを持ち、ひとつひとつの業務に誠意を以って遂行している。
そんなジルさんが気を抜いている場面なんて見た事ないけど、本人的にはまだまだ鍛錬不足とか思ってそうだな。
「視察にも行かれたのですよね。町の方はどうでしたか?」
「ああ、実に賑やかだった」
仕事の話をするジルさんは何だか楽しそうだ。
「住民のみなさんともお話されたのですか?」
「塩漬けの加工場や市場、学校などを訪問した。皆良く働き、良く学び、良く遊び、非常に明るい住民達だ。
・・・しかし表向きはそう見えても、問題というのは常に潜んでいる。
例えば発展が進むこの町でも、学校に通えるのは所得に余裕のある家庭だけだ。働かざるを得ない子供もまだ多い。
国の想いとしては、子供が生活の事など気にする事なく、学びに集中できる環境を早く整えたい。国や世界の歴史を知り、政治を知り、知識を増やしていずれ自らの生きる道を自由に選択できる世の中にしたいと思っている」
ジルさんは、間違いなくこの国にとって大事な人間だ。ジルさんが言うならどんなに難しいことでも実現できる。何の根拠も無いけどそんな気がする。
もしかしたら、僕が惚れて良い相手では無いのかもしれない・・・ってやっぱ考えちゃうけど、だめだめ。卑屈にならないと決めたからにはポジティブに、ポジティブに。
「すまない。私の話ばかりしてしまった」
僕が黙りこくっていたから気を遣わせたのだろう。ジルさんが慌てた様子で謝る。
「いいえ・・・!あの、もっと聞きたいです。この世界のことも、ジルさんのことも」
「私の?」
「はい。ジルさんは、えっと、その」
どうしよう。意図せず写真の事を切り出せそうな空気になってしまったけど、僕の言語野が追いついていない。頭をフル稼働して会話の流れを構築しようとするも、気の利いた喋り出しが1つも思い浮かばない。
時計、カッコいいですね?
写真の人は誰ですか?
綺麗な人がタイプですか?
ジルさん恋人いますか?
いやいやまずは勝手に時計を見たことを謝らないと。
えっとー・・・あー・・・
「アキオ?」
「一緒にお風呂入りませんかっ?」
あああ。間違えた。
緊張して口が言うことをきかなくなって変な言葉を発してしまった。
10秒前に戻りたい。
「そうだな。だが、まだ君は病み上がりだ。のぼせないように気をつけるんだぞ」
ほんの約半日とはいえ、こんなに長い時間ジルさんと離れて過ごすのは初めてだったので、この状況に懐かしささえ感じる。
「辛い時に留守にしてすまない。体調はどうだ?」
いつもよりお堅めの服装のジルさん。上着を脱いで胸元のボタンを緩める仕草にすら心臓が反応して、鼓動が身体全体に響き顔までバクバクと音を立て始めた。
今日は2人と色んな話をしたせいか、僕のジルさんセンサーが敏感になっている。今まで大して気に留めなかった仕草のひとつひとつが、急に縁取られたように鮮明に脳に飛び込む。
「イガさんとメテさんに看病していただいて、もうだいぶ良くなりました」
どれどれ、と言わんばかりにジルさんは僕の顔を覗き込み、おでこに手を当てて来た。
「顔色も良くなったし、熱も下がったな。まだ少し熱いが・・・」
熱いのは多分このドキドキのせいだ。冷たい手が僕のどこか一部に触れるだけでみるみる熱くなっていくんだから、たまったもんじゃない。
「だ、大丈夫です。明日は出発できそうです。1日遅らせてしまってすみません」
「そうか。しかし、出発しても無理は禁物だ。道中気分が優れなかったら遠慮なく言いなさい」
「はい、ありがとうございます」
ぎごちなくなっていないか、平常心を装えているか、自分のことばかりに意識が行ってしまってジルさんの言葉がうまく入って来ない。
こんな調子で大丈夫か?と不安にはなるけれど、2人に宣言したからには、写真の件、今日のうちに勇気を出して聞いてみようと思っている。
・・・のに、全っ然切り出すタイミングが掴めない。
「夕飯は食べたか?」
「夕方くらいに遅めのお昼と夕食を兼ねました。宿の食堂のものを部屋でいただいたんですが・・・ジルさんは?」
「私も駐屯地の食堂で隊員達と済ませてきた」
「へえ・・・駐屯地にも食堂があるのですね」
「簡易的なものだがな。
戦後の軍再編に伴い各地の駐屯地も整備し直されたそうだが、理想とするものには程遠い。王都に近いこのカオの町でさえ、まだ充分な人員配置が叶わない状況だ。
だが、設備や人手が整えられない中でも皆良くやっている。私も気を抜いていられないな」
ジルさんはそう言って目を細める。
復興が進んでいるとはいえまだまだ戦争の影響は色濃く、盗賊や人攫い、奴隷商がはびこるこの国。情勢も安定せず大変だろうに、軍人という立場に誇りを持ち、ひとつひとつの業務に誠意を以って遂行している。
そんなジルさんが気を抜いている場面なんて見た事ないけど、本人的にはまだまだ鍛錬不足とか思ってそうだな。
「視察にも行かれたのですよね。町の方はどうでしたか?」
「ああ、実に賑やかだった」
仕事の話をするジルさんは何だか楽しそうだ。
「住民のみなさんともお話されたのですか?」
「塩漬けの加工場や市場、学校などを訪問した。皆良く働き、良く学び、良く遊び、非常に明るい住民達だ。
・・・しかし表向きはそう見えても、問題というのは常に潜んでいる。
例えば発展が進むこの町でも、学校に通えるのは所得に余裕のある家庭だけだ。働かざるを得ない子供もまだ多い。
国の想いとしては、子供が生活の事など気にする事なく、学びに集中できる環境を早く整えたい。国や世界の歴史を知り、政治を知り、知識を増やしていずれ自らの生きる道を自由に選択できる世の中にしたいと思っている」
ジルさんは、間違いなくこの国にとって大事な人間だ。ジルさんが言うならどんなに難しいことでも実現できる。何の根拠も無いけどそんな気がする。
もしかしたら、僕が惚れて良い相手では無いのかもしれない・・・ってやっぱ考えちゃうけど、だめだめ。卑屈にならないと決めたからにはポジティブに、ポジティブに。
「すまない。私の話ばかりしてしまった」
僕が黙りこくっていたから気を遣わせたのだろう。ジルさんが慌てた様子で謝る。
「いいえ・・・!あの、もっと聞きたいです。この世界のことも、ジルさんのことも」
「私の?」
「はい。ジルさんは、えっと、その」
どうしよう。意図せず写真の事を切り出せそうな空気になってしまったけど、僕の言語野が追いついていない。頭をフル稼働して会話の流れを構築しようとするも、気の利いた喋り出しが1つも思い浮かばない。
時計、カッコいいですね?
写真の人は誰ですか?
綺麗な人がタイプですか?
ジルさん恋人いますか?
いやいやまずは勝手に時計を見たことを謝らないと。
えっとー・・・あー・・・
「アキオ?」
「一緒にお風呂入りませんかっ?」
あああ。間違えた。
緊張して口が言うことをきかなくなって変な言葉を発してしまった。
10秒前に戻りたい。
「そうだな。だが、まだ君は病み上がりだ。のぼせないように気をつけるんだぞ」
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