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旅路
大切な感情①
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次の日、僕は見事に風邪を引いた。
王都はもう目の前というところまで来ているのに、出発を1日遅らせることになってしまった。
少々しんどくたって大丈夫だし、ジルさん達を足止めさせることになるのが居た堪れなったけど、万が一何かあっては余計に迷惑をかけてしまうのでこの際大人しく休むことにする。
ジルさんは町に常駐している軍人さん達に呼ばれたらしい。朝から何やら騒がしく出て行ってしまった。
この町のように王都から近いいくつかの町には軍の駐屯地があるようで、最高司令官であるジルさんの滞在延長を聞きつけた隊員達がこぞって目を輝かせながら宿に押しかけてきたとのこと(メテさん談)。
この機会だから町の視察や会議を一緒にして欲しいと言う隊員。ジルさんは僕を心配してここから離れるのを渋っていたが、流石に仕事となると行かないわけにもいかないだろう。「安静にしているんだぞ」「辛くなったらイガとメテに遠慮なく言え」と何度も振り返りながら出て行くジルさんはちょっと可愛かった。
◆
「アキオ君、薬は効いてきましたか?」
「水分持ってきたからここに置くね」
「すみませんイガさん、メテさん。ありがとうございます」
僕の部屋にお見舞いに来てくれた2人はジルさん並に甲斐甲斐しく世話を焼いてくれて、昼頃にはすっかり気分も良くなった。
起き上がって伸びをすると、腕や肩など凝り固まった筋がメキメキと悲鳴をあげていく。
ジルさんが居ないのは僕にとってむしろちょうど良かった。なぜなら、2人だけ・・にどうしても聞かなければいけない事があるからだ。
「・・・アキオ君、なんだかスッキリした顔してるね。何かあった?」
メテさんはたまに軒並み外れた嗅覚で人の心情を炙り出す。
多少のきまり悪さはあるが、この先の話題を切り出すのに話さないわけにもいかないだろうと昨日の失態を告白した。
「・・・それが、昨日ジルさんに色々と恥ずかしいところをお見せしてしまいまして」
「恥ずかしいところ!?」
メテさんは持っていたタオルや水筒を落としそうな勢いでこちらを振り返り、驚きながらも心なしか少し嬉しそうにしてベッドに腰掛けてきた。
「うっぷんをぶちまけてしまった上に、情けなく泣き喚いてしまいました」
「ああなんだ。そう言う事か」
びっくりしたーと胸を撫で下ろすメテさん。何を想像したんだろうか。
「そう言われれば、どこか吹っ切れたように見えますね」
イガさんもベッドに腰掛ける。まるで真っ昼間から修学旅行の夜を繰り広げているようだ。
「僕のストレス発散にジルさんを巻き込んでしまって、なんだか申し訳ないです」
「アキオ君はそう思ってるかもしれないけど、司令官は安心したと思うよ」
「安心、ですか?」
「ええ。きっとそうでしょうね。アキオ君が頼りにしてくれたんですから。
何があったか聞きませんが、アキオ君いつも淡々としてて平気そうな顔をしているので、心配だったんです。やっぱりこんな状況に置かれて全く平気な人は居ませんからね。何か抱え込んでるんじゃ無いかと思って」
「気持ちを吐き出せて良かった。アキオ君、辛いことや苦しいことは我慢しないでね。俺たちもアキオ君の力になりたいんだ。いつでも頼ってくれると嬉しい」
「イガさん、メテさん・・・。本当にありがとうございます」
この2人と話していると、なんだかほわほわした気持ちになる。こんな優しい人たちのそばにいられるなんて僕は本当に恵まれているな。
イガさんのこともメテさんのことも大好きだけど、やっぱりジルさんを好きだと思う気持ちとはちょっと違う気がする。
「そっかそっか、それで、司令官を好きってやっと自覚したからスッキリしたんだね」
「「へ!?!?」」
僕の声にイガさんの驚いた声が重なった。不意打ちでメテさんは何を言い出すんだろうか。そんなに分かりやすかっただろうか。確かに、ジルさんへの感情にひとつの可能性が浮かんだのは本当だ。まだ自分でも曖昧な気持ちを他人に気付かれるなんて。メテさん何者・・・?
とはいえこれから話そうとしていた話題そのものだったので、自ら切り出す手間が省けたのは良かった。
「イガさんまで・・・もう、本当に鈍感なんだから」
「アキオ君、そうなんですか?」
「・・・そう、なんでしょうか」
期待はずれの返答に、2人はズルっと肩透かしを食らってしまったようだ。そりゃそうだ。そうなんでしょうかって何だ。自分の気持ちにすら責任を持てないなんて情けないけど、でも、この気持ちの正体が知りたい。
「あの、その質問に答える前に、お二人にどうしても聞きたい事があって」
「うん。なんでも聞いてよ」
メテさんは明らかに楽しんでるけど、イガさんもちょっと楽しそうなのは気のせいじゃないと思う。
「人を好きになるって、どういう感情なんでしょうか。どんな気持ちですか?お二人は何故お互いのことを好きだと分かるんですか?」
2人は拍子抜けしながらも真剣に答えてくれた。
「俺は・・・一目見た瞬間にビビッ!っと来たからなあ。言葉で説明しろと言われると難しいけど、イガさんのそばにずっといたい、離れたくない、どうしてもイガさんにも同じ気持ちになって欲しい。そういう想いがどんどん大きくなって、抑えが効かなかった」
「抑えようとも思ってなかったじゃないですか」
「イガさんは?」
僕が尋ねるとイガさんは一瞬戸惑ったように目を泳がせたが、すぐにいつもの穏やかな笑みを浮かべた。
「そうですね。いつの間にかこの筋肉バカに絆されていたので、どの瞬間にどういう気持ちが芽生えたかと問われると難しいですが・・・。今となっては、彼からの愛情が生き甲斐になっています。嫌いになられたら、力ずくでも好きにさせます」
最後の方の笑顔はちょっと黒かったけど、メテさん的には大満足の返答だったようで静かに感動している。
堂々と自分の気持ちを話す2人がカッコ良くて、少し羨ましい。
王都はもう目の前というところまで来ているのに、出発を1日遅らせることになってしまった。
少々しんどくたって大丈夫だし、ジルさん達を足止めさせることになるのが居た堪れなったけど、万が一何かあっては余計に迷惑をかけてしまうのでこの際大人しく休むことにする。
ジルさんは町に常駐している軍人さん達に呼ばれたらしい。朝から何やら騒がしく出て行ってしまった。
この町のように王都から近いいくつかの町には軍の駐屯地があるようで、最高司令官であるジルさんの滞在延長を聞きつけた隊員達がこぞって目を輝かせながら宿に押しかけてきたとのこと(メテさん談)。
この機会だから町の視察や会議を一緒にして欲しいと言う隊員。ジルさんは僕を心配してここから離れるのを渋っていたが、流石に仕事となると行かないわけにもいかないだろう。「安静にしているんだぞ」「辛くなったらイガとメテに遠慮なく言え」と何度も振り返りながら出て行くジルさんはちょっと可愛かった。
◆
「アキオ君、薬は効いてきましたか?」
「水分持ってきたからここに置くね」
「すみませんイガさん、メテさん。ありがとうございます」
僕の部屋にお見舞いに来てくれた2人はジルさん並に甲斐甲斐しく世話を焼いてくれて、昼頃にはすっかり気分も良くなった。
起き上がって伸びをすると、腕や肩など凝り固まった筋がメキメキと悲鳴をあげていく。
ジルさんが居ないのは僕にとってむしろちょうど良かった。なぜなら、2人だけ・・にどうしても聞かなければいけない事があるからだ。
「・・・アキオ君、なんだかスッキリした顔してるね。何かあった?」
メテさんはたまに軒並み外れた嗅覚で人の心情を炙り出す。
多少のきまり悪さはあるが、この先の話題を切り出すのに話さないわけにもいかないだろうと昨日の失態を告白した。
「・・・それが、昨日ジルさんに色々と恥ずかしいところをお見せしてしまいまして」
「恥ずかしいところ!?」
メテさんは持っていたタオルや水筒を落としそうな勢いでこちらを振り返り、驚きながらも心なしか少し嬉しそうにしてベッドに腰掛けてきた。
「うっぷんをぶちまけてしまった上に、情けなく泣き喚いてしまいました」
「ああなんだ。そう言う事か」
びっくりしたーと胸を撫で下ろすメテさん。何を想像したんだろうか。
「そう言われれば、どこか吹っ切れたように見えますね」
イガさんもベッドに腰掛ける。まるで真っ昼間から修学旅行の夜を繰り広げているようだ。
「僕のストレス発散にジルさんを巻き込んでしまって、なんだか申し訳ないです」
「アキオ君はそう思ってるかもしれないけど、司令官は安心したと思うよ」
「安心、ですか?」
「ええ。きっとそうでしょうね。アキオ君が頼りにしてくれたんですから。
何があったか聞きませんが、アキオ君いつも淡々としてて平気そうな顔をしているので、心配だったんです。やっぱりこんな状況に置かれて全く平気な人は居ませんからね。何か抱え込んでるんじゃ無いかと思って」
「気持ちを吐き出せて良かった。アキオ君、辛いことや苦しいことは我慢しないでね。俺たちもアキオ君の力になりたいんだ。いつでも頼ってくれると嬉しい」
「イガさん、メテさん・・・。本当にありがとうございます」
この2人と話していると、なんだかほわほわした気持ちになる。こんな優しい人たちのそばにいられるなんて僕は本当に恵まれているな。
イガさんのこともメテさんのことも大好きだけど、やっぱりジルさんを好きだと思う気持ちとはちょっと違う気がする。
「そっかそっか、それで、司令官を好きってやっと自覚したからスッキリしたんだね」
「「へ!?!?」」
僕の声にイガさんの驚いた声が重なった。不意打ちでメテさんは何を言い出すんだろうか。そんなに分かりやすかっただろうか。確かに、ジルさんへの感情にひとつの可能性が浮かんだのは本当だ。まだ自分でも曖昧な気持ちを他人に気付かれるなんて。メテさん何者・・・?
とはいえこれから話そうとしていた話題そのものだったので、自ら切り出す手間が省けたのは良かった。
「イガさんまで・・・もう、本当に鈍感なんだから」
「アキオ君、そうなんですか?」
「・・・そう、なんでしょうか」
期待はずれの返答に、2人はズルっと肩透かしを食らってしまったようだ。そりゃそうだ。そうなんでしょうかって何だ。自分の気持ちにすら責任を持てないなんて情けないけど、でも、この気持ちの正体が知りたい。
「あの、その質問に答える前に、お二人にどうしても聞きたい事があって」
「うん。なんでも聞いてよ」
メテさんは明らかに楽しんでるけど、イガさんもちょっと楽しそうなのは気のせいじゃないと思う。
「人を好きになるって、どういう感情なんでしょうか。どんな気持ちですか?お二人は何故お互いのことを好きだと分かるんですか?」
2人は拍子抜けしながらも真剣に答えてくれた。
「俺は・・・一目見た瞬間にビビッ!っと来たからなあ。言葉で説明しろと言われると難しいけど、イガさんのそばにずっといたい、離れたくない、どうしてもイガさんにも同じ気持ちになって欲しい。そういう想いがどんどん大きくなって、抑えが効かなかった」
「抑えようとも思ってなかったじゃないですか」
「イガさんは?」
僕が尋ねるとイガさんは一瞬戸惑ったように目を泳がせたが、すぐにいつもの穏やかな笑みを浮かべた。
「そうですね。いつの間にかこの筋肉バカに絆されていたので、どの瞬間にどういう気持ちが芽生えたかと問われると難しいですが・・・。今となっては、彼からの愛情が生き甲斐になっています。嫌いになられたら、力ずくでも好きにさせます」
最後の方の笑顔はちょっと黒かったけど、メテさん的には大満足の返答だったようで静かに感動している。
堂々と自分の気持ちを話す2人がカッコ良くて、少し羨ましい。
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