46 / 171
旅路
生い立ち①
しおりを挟む
あー・・・、やってしまった。盛大にやってしまった。こんなのは初めてだ。
気が付いたらお風呂でジルさんに揺すられていた。
嫌なこと思い出してパニックになっちゃったし、過呼吸起こしたし、寒いし、そんなことよりも何よりも、ジルさんに思い切り抱きついて何か恥ずかしいことを呟いたことに大ダメージを受けている。
あーー、もうやだー、穴があったら入りたいーー。
今はというと、すっかり落ち着いてもう1回お風呂で温まり直して(ジルさんの見張り付き)、ちゃんと服を着て(ジルさんの見張り付き)、大人しくベッドに入っている(ジルさんのベッドに)。
だって僕のベッドはびしょびしょになってしまったんだもの。仕方ないじゃない。
隣で一緒に布団に入って、ぽんぽんと優しく胸を叩いてくれているジルさんの手を目で追いながら、羞恥と罪悪感に耐える。一緒に寝るの久しぶりだなあ、なんて、1人で寝たのは昨日一度だけなのに、この感覚が懐かしくて内心では舞い上がってしまう。
ジルさんに触られるのは相変わらず何故かどきどきするけど、段々と、どきどきよりも安心感の方が上回っていた。
それに、あんな姿見せてしまった後だからこれくらいお茶の子さいさいだ。
でも、きちんと謝らなきゃ。
僕は躊躇する声帯を叩き起こし、意を決して口を開いた。
「昨日も迷惑かけたのに、本当に、いつもいつもごめんなさい」
昨日は夢に魘され、今日は嫌な記憶に過呼吸を起こした。昨日の今日で、絶対めんどくさいやつだと思われた。ここで置いていかれたら生きていく自信は無いけど、早速切り捨てをくらいそうな行動の連発は我ながら呆れる。
僕がやっとのことで振り絞った言葉に、ジルさんは、
「昨日のことを覚えているのか?」
と、驚いたような顔で問うて来た。
「え・・・?」
そりゃ覚えてますとも。忘れられたらどんなに良かったことか。
だって、寝ていたであろうジルさんを起こし、僕が寝付くまでお守りをさせたのだから。
僕、そんなに意識朦朧としてたのかな?覚えてないと思われるくらい。
困惑する僕にジルさんはこう言った。
「君は小屋で生活している時から魘されることが何度かあった。夜だけでなく、食事中にいきなり震え出し私の呼びかけに全く答えない事もあった」
「え?僕、全然・・・」
何だそれ?そんなの覚えてない。
覚えてたらこんなに気持ち良く旅行気分で楽しめていないと思う。
僕は意識をしていないところでも、ジルさんに迷惑をかけていたというのか。
「覚えていないのだろう?
いつも意識が戻れば何もなかったように普段通りのアキオに戻るので、私も触れずにいつも通り振る舞っていた。昨日のことも、覚えていないものだと・・・。
私がもっと早くに対処していれば、こんなに苦しい思いをする事は無かったかもしれない。本当にすまない」
「そんな・・・!」
何で僕はジルさんに謝らせてるんだろう。
申し訳ないのと、自分が憎いのと、悲しいのがごちゃ混ぜになってよく分からない感情が生まれた。
どういう言葉を発していいのか分からなくて、もごもごと音にならない息だけが洩れる。
「アキオ。君は勇気を出して私に異世界から来たことを打ち明けてくれた。しかしそれとは別に、まだ抱え込んでいることがあるのではないか?」
「・・・そういう、訳じゃ」
つい先程まで頭をぐるぐる駆けていた記憶が、喉元まで出かかった。
「私では頼りにならないか?」
「違いますっ!!!」
思わず出た大きな声に、僕自身も驚いてはっと我に返る。
興奮したらまた息苦しくなってしまう。
気持ちくらい自分で落ち着かせなければ。
「す、すみません・・・」
「アキオ。もう充分だ。君は充分1人で頑張った。私にも、君のことを守らせて欲しい」
こんな切ないジルさんの顔、初めて見た。
充分守られてる。充分支えられてる。ジルさんの優しさを、貰い過ぎなくらい貰っている。
僕は無意識に小さく頭を振っていた。
「違うんです。そうじゃ無いんです。
僕はジルさんに呆れられるのが怖くて逃げていただけで・・・。1人で頑張ったとか、そういうんじゃないんです」
「なぜ私に呆れられると?」
そうか、僕は、この人に呆れらるのが怖いんだ。この人の隣にずっと居たいと思っているんだ。
『元の世界に帰されるかもしれない』とか、『異端者として何か処罰が下るかもしれない』とか、この先どうなるか分からない、ってそればっかり考えてた。どうなっても受け入れるつもりだった。
でも、僕自身はどうしたい?
そう考えた時、どうしようもなくこのあたたかい場所から離れたく無い自分が主張を始めた。
負い目を感じたままでは嫌だ。呆れられてもいい。自分を偽って迷惑をかけるより100倍マシだ。
そして、多分無理かもしれないけど、ジルさんが向けてくれる優しさに少しは相応しい人になりたい。
僕の覚悟は自然と決まっていた。
「ジルさん、僕の今までのこと、話してもいいですか?」
「ああ」
ジルさんは、天上を仰ぐ僕の目にかかっていた前髪を避け、再び胸元に手を置いた。
「僕の世界では、男女の間に子が生まれるのは知っていますよね?僕にも、父と母が1人ずつ居ました。
物心ついた頃から、2人は僕に興味が無いということに、なんとなく気付いていました」
気がつけば自分でも驚くほどにしっかりとした強い足取りで言葉を走らせていた。
ジルさんはただただ静かに、僕の人生の傍観者として耳を澄ませてくれていた。
気が付いたらお風呂でジルさんに揺すられていた。
嫌なこと思い出してパニックになっちゃったし、過呼吸起こしたし、寒いし、そんなことよりも何よりも、ジルさんに思い切り抱きついて何か恥ずかしいことを呟いたことに大ダメージを受けている。
あーー、もうやだー、穴があったら入りたいーー。
今はというと、すっかり落ち着いてもう1回お風呂で温まり直して(ジルさんの見張り付き)、ちゃんと服を着て(ジルさんの見張り付き)、大人しくベッドに入っている(ジルさんのベッドに)。
だって僕のベッドはびしょびしょになってしまったんだもの。仕方ないじゃない。
隣で一緒に布団に入って、ぽんぽんと優しく胸を叩いてくれているジルさんの手を目で追いながら、羞恥と罪悪感に耐える。一緒に寝るの久しぶりだなあ、なんて、1人で寝たのは昨日一度だけなのに、この感覚が懐かしくて内心では舞い上がってしまう。
ジルさんに触られるのは相変わらず何故かどきどきするけど、段々と、どきどきよりも安心感の方が上回っていた。
それに、あんな姿見せてしまった後だからこれくらいお茶の子さいさいだ。
でも、きちんと謝らなきゃ。
僕は躊躇する声帯を叩き起こし、意を決して口を開いた。
「昨日も迷惑かけたのに、本当に、いつもいつもごめんなさい」
昨日は夢に魘され、今日は嫌な記憶に過呼吸を起こした。昨日の今日で、絶対めんどくさいやつだと思われた。ここで置いていかれたら生きていく自信は無いけど、早速切り捨てをくらいそうな行動の連発は我ながら呆れる。
僕がやっとのことで振り絞った言葉に、ジルさんは、
「昨日のことを覚えているのか?」
と、驚いたような顔で問うて来た。
「え・・・?」
そりゃ覚えてますとも。忘れられたらどんなに良かったことか。
だって、寝ていたであろうジルさんを起こし、僕が寝付くまでお守りをさせたのだから。
僕、そんなに意識朦朧としてたのかな?覚えてないと思われるくらい。
困惑する僕にジルさんはこう言った。
「君は小屋で生活している時から魘されることが何度かあった。夜だけでなく、食事中にいきなり震え出し私の呼びかけに全く答えない事もあった」
「え?僕、全然・・・」
何だそれ?そんなの覚えてない。
覚えてたらこんなに気持ち良く旅行気分で楽しめていないと思う。
僕は意識をしていないところでも、ジルさんに迷惑をかけていたというのか。
「覚えていないのだろう?
いつも意識が戻れば何もなかったように普段通りのアキオに戻るので、私も触れずにいつも通り振る舞っていた。昨日のことも、覚えていないものだと・・・。
私がもっと早くに対処していれば、こんなに苦しい思いをする事は無かったかもしれない。本当にすまない」
「そんな・・・!」
何で僕はジルさんに謝らせてるんだろう。
申し訳ないのと、自分が憎いのと、悲しいのがごちゃ混ぜになってよく分からない感情が生まれた。
どういう言葉を発していいのか分からなくて、もごもごと音にならない息だけが洩れる。
「アキオ。君は勇気を出して私に異世界から来たことを打ち明けてくれた。しかしそれとは別に、まだ抱え込んでいることがあるのではないか?」
「・・・そういう、訳じゃ」
つい先程まで頭をぐるぐる駆けていた記憶が、喉元まで出かかった。
「私では頼りにならないか?」
「違いますっ!!!」
思わず出た大きな声に、僕自身も驚いてはっと我に返る。
興奮したらまた息苦しくなってしまう。
気持ちくらい自分で落ち着かせなければ。
「す、すみません・・・」
「アキオ。もう充分だ。君は充分1人で頑張った。私にも、君のことを守らせて欲しい」
こんな切ないジルさんの顔、初めて見た。
充分守られてる。充分支えられてる。ジルさんの優しさを、貰い過ぎなくらい貰っている。
僕は無意識に小さく頭を振っていた。
「違うんです。そうじゃ無いんです。
僕はジルさんに呆れられるのが怖くて逃げていただけで・・・。1人で頑張ったとか、そういうんじゃないんです」
「なぜ私に呆れられると?」
そうか、僕は、この人に呆れらるのが怖いんだ。この人の隣にずっと居たいと思っているんだ。
『元の世界に帰されるかもしれない』とか、『異端者として何か処罰が下るかもしれない』とか、この先どうなるか分からない、ってそればっかり考えてた。どうなっても受け入れるつもりだった。
でも、僕自身はどうしたい?
そう考えた時、どうしようもなくこのあたたかい場所から離れたく無い自分が主張を始めた。
負い目を感じたままでは嫌だ。呆れられてもいい。自分を偽って迷惑をかけるより100倍マシだ。
そして、多分無理かもしれないけど、ジルさんが向けてくれる優しさに少しは相応しい人になりたい。
僕の覚悟は自然と決まっていた。
「ジルさん、僕の今までのこと、話してもいいですか?」
「ああ」
ジルさんは、天上を仰ぐ僕の目にかかっていた前髪を避け、再び胸元に手を置いた。
「僕の世界では、男女の間に子が生まれるのは知っていますよね?僕にも、父と母が1人ずつ居ました。
物心ついた頃から、2人は僕に興味が無いということに、なんとなく気付いていました」
気がつけば自分でも驚くほどにしっかりとした強い足取りで言葉を走らせていた。
ジルさんはただただ静かに、僕の人生の傍観者として耳を澄ませてくれていた。
21
お気に入りに追加
375
あなたにおすすめの小説
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
愛され末っ子
西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。
リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。
(お知らせは本編で行います。)
********
上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます!
上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、
上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。
上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的
上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン
上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。
てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。
(特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。
琉架の従者
遼(はる)琉架の10歳上
理斗の従者
蘭(らん)理斗の10歳上
その他の従者は後々出します。
虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。
前半、BL要素少なめです。
この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。
できないな、と悟ったらこの文は消します。
※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。
皆様にとって最高の作品になりますように。
※作者の近況状況欄は要チェックです!
西条ネア
【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
私の事を調べないで!
さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と
桜華の白龍としての姿をもつ
咲夜 バレないように過ごすが
転校生が来てから騒がしくなり
みんなが私の事を調べだして…
表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓
https://picrew.me/image_maker/625951
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる