ある時計台の運命

丑三とき

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旅路

市場でモーニング

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全て話すことができて肩の荷が降りたからか、目覚めは案外すっきりしていた。
しかし色々と曝け出したことによる照れくささは消えておらず、ジルさんを直視できるまで起床後約20分ほどかかった。

僕が異世界から来たということは、道中を共にするイガさんとメテさんにはタイミングを見て話そうということになった。
でもトラブルが起きてはいけないので、王都に着くまでそれ以外の人にはバレないように過ごすことも念を押された。
この世界での身の振り方は僕1人じゃ決められないし、ジルさんの言う通りにすればきっと大丈夫なので、しっかり言いつけは守ろうと思う。


眠気まなこを擦りながら身支度をしていると「昨日の男は無事ダリタリの町に着き、御子息の治療も順調らしい」と教えてくれた。これから本格的に支援体制を整えるんだそうだ。

さて、市場に行きたいという僕のわがままを3人に聞いてもらったため、集合は午前5時だ。僕はずっとポケ~っと馬車に座っていただけだからいいが、皆さんちゃんと休めただろうか。
ジルさんはいくら朝が早かろうと言うまでもなく厳然とした佇まいだが、イガさんとメテさんはもっと寝たかったんじゃないかな。

そう思いながら宿の外に出ると、二人がこれでもかというほど爽やかに談笑しながら僕たちをを待っていた。朝5時とは思えないくらい清々しい。周りにキラキラが見える。


一度ワープを経験すると耐性が付くらしい。
宿のある上部から中腹あたりまでワープしてすぐ近くの市場にやってきたが、体にほとんど異変はなかった。少し立ちくらみがしたくらい。

切り口から移動して公道に入ると、そこは階段状になっていて、下りながら移動していく。階段での杖使いにもだいぶ慣れてきた。

それにしても朝早いのに人出が結構多い。この世界の人たちは朝が早いのかな。僕・・・暮らしていけるかな?

市場までの短い距離でも通行人は振り返り、カッコイイ軍人たちに熱い視線を送る。

あまりの熱烈さにイガさんとメテさんは苦笑いを浮かべている。


「やっぱり、軍人さんはどこに行っても人気者なんですね」


「え!?あぁ・・・いや、それもあるけど・・・アキオ君が、ね」

僕の言葉に即座に反応したメテさんが、可哀想なものを見るみたいな目でこちらを見てくる。

「僕、ですか?」

「アキオ君の顔立ちは、この国じゃ珍しいですから」

続けてイガさんもメテさんと同じような表情で振り返り、説明してくれた。

顔・・・。確かに、ジルさんもイガさんもメテさんも、昨日の男の人も、あまり思い出したくはないが地下室のメガネ男もヒゲ男も、この世界で出会った人々は皆欧米人のような彫りの深さがある。
そういえば町ゆく人たちもそんな感じだ。

なるほど、うすーい顔が珍しいのか。

よくよく周りを見たら確かに僕の方に視線を向けている人が多く、目が合っては逸らされ、合っては逸らされ。特に男性からの視線が熱い。動物園で園内を散歩させられるポニーになった気分だ。
注目されるのは苦手だ。でも3人の大きな体が僕を囲うように歩いてくれているから全然苦じゃない。
ジルさんは何故かいつもより顔が怖めで眉間の皺も深いのが謎だけど、軍人3人が味方ってめちゃくちゃ心強い。


しばらく歩くと市場に着いた。
道幅は狭いにしろ、両サイドに所狭しと屋台や店が立ち並ぶ様子は日本でもありそうな光景だ。木の中を歩いているなんて、言われなければわからない。言われても信じられないけど。


旅行みたいでワクワクするな。
何を食べよう。3人は何が好きなんだろう。お金さえ持っていたら僕が皆にご馳走したいけど、財力の欠片も無いのでありがたく奢ってもらうしかない。

「アキオ、気になるものがあったら言ってくれ」

「はい」

「イガさんイガさん、今日も司令官の雰囲気が柔らかいです!!こりゃもうアキオ君パワーっすね!」

「メテ、うるさいです」

メテさんが興奮した様子でイガさんに報告し、一蹴されている。

メテさんって、大きくてマッチョで『カッコいい系』なのに何だか犬みたいな愛らしさもある。僕の脳内ではメテさんの背後にシベリアンハスキーがチラついた。
対するイガさんはアメリカンショートヘアとかの美しい猫って感じ。実際はユニコーンだけど。


「あの、昨日言っていた燻製が食べてみたいです」

「燻製ならもう少し行ったところにいろんな屋台が並んでるよ。塩漬けとかグースィの卵とか・・・まあ、たくさんあるから見てみよう!」

そうだ。グースィの卵が気になっていたんだ。

卵といえば思い浮かべるのは鶏卵だけど、何もかも大きなこの世界だから、卵もダチョウサイズだったりして。

「ジルさんも好きですか?」

「ああ。この町の燻製は王都にも卸されているからな」

話しながら歩く間にも、周りでは店の人たちの活気のある声が響いている。

「兄ちゃんたち!見てきなよ!」
「今なら焼き立てだよ~」
「新鮮な野菜はどうだい?」

果物や野菜、串焼き、パン、ファストフード、飲み物など様々な店がひしめきあう市場を興味深く観察するうち、フランクフルトみたいに串に刺さったソーセージが目に入った。燻された香ばしいにおいに、つい釘付けになってしまう。


「ジルさん、あれ、美味しいですか?」

「腸詰めの燻製か。ああ、美味いぞ。見てみるか?」

「はい」

ハムが塩漬けならソーセージは腸詰めか。わかりやすくて助かる。

腸詰めの屋台では20代後半くらいの男性が威勢よく売っていた。

そういえばさっきから2、30代の若い人が多く、中年やお年寄りの人はあまり見かけない。
この世界は平均寿命は120歳と聞いていたから、後期高齢社会みたいな光景をイメージしていたけど、全然『若者の町』って感じだ。

「軍人の兄ちゃん!安くしとくよ!
お!またずいぶん美人な子を連れてるな。兄ちゃんの子かい?」

腸詰め屋台の男性が僕たちに意気揚々と声をかけた。

兄ちゃんって、ジルさんのこと?兄ちゃんの、子?
僕ジルさんの子供だと思われたの?

「ああ、いや・・・この子は軍で保護している民間人です」

イガさんが困り顔で説明する。

すると、
「ん?・・・あぁ!あんた、よく見たら国軍の最高司令官じゃねえか!!」

ご主人はそう言ってジルさんにぐいっと顔を近づけた。
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