31 / 171
旅路
のんびりお風呂タイム②
しおりを挟む
「ジルさん、座って下さい」
「・・・私が座るのか?」
「そうです。背中流します」
「そんなことをしてもらっていいのだろうか」
「いいんです。早く早く」
お風呂椅子は日本のよりも高くて、僕はギリギリ足が床につくくらい。うろたえるジルさんを「さぁさぁ」と座らせると、ちょうど立っている僕の目の前に背中が来た。
背中にまでゴツゴツした筋肉がついている。薄い傷跡もたくさん残っていて、『軍人』って感じがすごい。傷はおそらく人攫いに監禁されていた時のものだろう。
備え付けの石鹸を泡立てて大きな大きな背中を洗っていく。人の背中を流すのなんて初めてだ。力加減がわからない。丈夫そうだし少し強めでも大丈夫かな?
あ、肩甲骨にほくろある。
「痒いところはありませんか?」
「ああ。とても心地がいい」
なんだかこの背中を独り占めできていることに優越感を感じてしまう。そんなこと言ったら、ここ一週間ほどはずっと彼自身を独り占めしていたのだけれど。
まんべんなく洗い終えて泡を流そうと思ったが・・・
「流しても大丈夫ですか?傷が」
「このくらいなら問題ない」
絶対問題なさそうだけど。
本人が良いと言うのだから良いのだろう。
「そうですか?じゃあ流します」
流しながら前を見ると、あぁー、お湯が傷に掛かってしまっている。見ているだけで痛そうだ。
あの技やらないのかな?あの水跳ね除ける技。
顔が一つも歪んでいないかところを見ると、やっぱり痛みには強いのかもしれない。
よし、次は頭だ。
人の頭ってどうやって洗えばいいんだろう。
「ジルさん、目を瞑っていてくださいね」
「わかった」
とりあえずシャワーヘッドを手にして、髪の毛を濡らしてみる。
次は泡で髪の毛を揉み込んでジルさんの頭をもふもふにして・・・何だか面白いな、これ。美容師さんがやっているように、頭皮をむにむにとマッサージしてみる。髪の毛が結構柔らかい。意外と猫毛だな。
友達や上司と『裸の付き合い』というものをしたことがないので少し緊張していたが、自分の手で相手が満足してくれることがすごく嬉しくてもっと色々世話を焼きたくなる。ジルさんも僕に対してこういう気持ちなのかな。だったら嬉しいな。
ピカピカになったジルさんに先に湯船に浸かってもらい、僕も自分の体と頭を洗う。
心配そうな視線が突き刺さって非常にやりにくいが、広い湯船に浸かりたい一心で何とか洗い終え、「失礼します」と隣に体を沈める。
僕サイズの人間なら三人は余裕だろう。肩まで浸かって足を伸ばすと、溜まった疲れが染み出し、極楽浄土へ誘いざなわれる。アパートでもシャワーで済ますことの方が多かったが、やはり根は日本人のようだ。思わず顔がクタクタにふやけてしまう。
ふとバキバキの腹筋を盗み見すると、傷の周りだけ空気がプクッと張っていた。
さっきは発動していなかったのに。もしかしたら、お湯が汚れてしまうからと気を遣ったのかな?
「それは、魔法ですか?精霊ですか?」
気になりすぎたので聞いてみた。
「これか?精霊の力で、空気がこの周りを囲っている。生傷が多過ぎると小言を言われながらな」
精霊も小言言うんだ。
聞いてみたい・・・!!
「アキオ、明日の朝は市場に行くか?」
そうだった。今日は疲れすぎてどこにも出歩けそうにない。せっかく街を楽しみにしていたのに。
こうなったら明日市場を満喫し尽くそう。
「行ってみたいです」
「ではそこで朝食をとろう。朝市には屋台飯も多く出店する。気に入ったものがあるかもしれない」
聞けば屋台で色々見繕って、そこらへんでピクニックするのが主流らしい。
なんだそれ。絶対楽しいじゃないか。
「ジルさんは、好きな食べ物は何ですか?」
この世界の仕組みについては色々教えてもらったけど、そういえばジルさんのパーソナルな部分をあまり掘り下げていなかったなと思い、小学生のような質問をぶつけた。
「私は腹に入れば何でもいいが、肉は力になるのでよく食べる」
腹に入れば?
嘘だ。あんなに料理上手な人が、腹を満たすだけの食事をすると思えないけど。
「料理、とても上手なのに?」
「あれは隊員たちに食べさせるためだ。イガのように几帳面な者もいるが、放っておくと碌な食事をしない奴ばかりなんでな」
ジルさん、寮母さんじゃん。
「作ってくれた料理、全部美味しかったです。まだちゃんとお礼を言っていませんでした。ありがとうございます」
「それは良かった。アキオは何でも美味そうに食べてくれるので作り甲斐がある。苦手なものは無いのか?」
「はい。ありません」
「そうか。好き嫌いせず食べて偉いな」
やっぱり、24歳って言ったの忘れているのかもしれない。
「苦手な物も無いですが、特に好きな物もありませんでした。でも、今はジルさんの料理が好きです」
「アキオにそんなことを言われるなんて、私は幸せ者だな」
ジルさんは大袈裟だな。でも自分の言葉に幸せを感じてくれるのが嬉しい。
軍の人たちにもこういうこと言ってるんだろうか。もしかして相当な人たらしなんだろうか。だんだん複雑な気持ちになってしまう。
ジルさんの軍生活のことについては、イガさんとメテさんに聞くのがいいだろう。特にメテさんは何でも話してくれそうだ。僕は意外なジルさん情報を求めて明日の朝食時会話のネタを考えつつ、その後も好きなパンの話や塩漬け肉の調理方法などについて語った。
「・・・私が座るのか?」
「そうです。背中流します」
「そんなことをしてもらっていいのだろうか」
「いいんです。早く早く」
お風呂椅子は日本のよりも高くて、僕はギリギリ足が床につくくらい。うろたえるジルさんを「さぁさぁ」と座らせると、ちょうど立っている僕の目の前に背中が来た。
背中にまでゴツゴツした筋肉がついている。薄い傷跡もたくさん残っていて、『軍人』って感じがすごい。傷はおそらく人攫いに監禁されていた時のものだろう。
備え付けの石鹸を泡立てて大きな大きな背中を洗っていく。人の背中を流すのなんて初めてだ。力加減がわからない。丈夫そうだし少し強めでも大丈夫かな?
あ、肩甲骨にほくろある。
「痒いところはありませんか?」
「ああ。とても心地がいい」
なんだかこの背中を独り占めできていることに優越感を感じてしまう。そんなこと言ったら、ここ一週間ほどはずっと彼自身を独り占めしていたのだけれど。
まんべんなく洗い終えて泡を流そうと思ったが・・・
「流しても大丈夫ですか?傷が」
「このくらいなら問題ない」
絶対問題なさそうだけど。
本人が良いと言うのだから良いのだろう。
「そうですか?じゃあ流します」
流しながら前を見ると、あぁー、お湯が傷に掛かってしまっている。見ているだけで痛そうだ。
あの技やらないのかな?あの水跳ね除ける技。
顔が一つも歪んでいないかところを見ると、やっぱり痛みには強いのかもしれない。
よし、次は頭だ。
人の頭ってどうやって洗えばいいんだろう。
「ジルさん、目を瞑っていてくださいね」
「わかった」
とりあえずシャワーヘッドを手にして、髪の毛を濡らしてみる。
次は泡で髪の毛を揉み込んでジルさんの頭をもふもふにして・・・何だか面白いな、これ。美容師さんがやっているように、頭皮をむにむにとマッサージしてみる。髪の毛が結構柔らかい。意外と猫毛だな。
友達や上司と『裸の付き合い』というものをしたことがないので少し緊張していたが、自分の手で相手が満足してくれることがすごく嬉しくてもっと色々世話を焼きたくなる。ジルさんも僕に対してこういう気持ちなのかな。だったら嬉しいな。
ピカピカになったジルさんに先に湯船に浸かってもらい、僕も自分の体と頭を洗う。
心配そうな視線が突き刺さって非常にやりにくいが、広い湯船に浸かりたい一心で何とか洗い終え、「失礼します」と隣に体を沈める。
僕サイズの人間なら三人は余裕だろう。肩まで浸かって足を伸ばすと、溜まった疲れが染み出し、極楽浄土へ誘いざなわれる。アパートでもシャワーで済ますことの方が多かったが、やはり根は日本人のようだ。思わず顔がクタクタにふやけてしまう。
ふとバキバキの腹筋を盗み見すると、傷の周りだけ空気がプクッと張っていた。
さっきは発動していなかったのに。もしかしたら、お湯が汚れてしまうからと気を遣ったのかな?
「それは、魔法ですか?精霊ですか?」
気になりすぎたので聞いてみた。
「これか?精霊の力で、空気がこの周りを囲っている。生傷が多過ぎると小言を言われながらな」
精霊も小言言うんだ。
聞いてみたい・・・!!
「アキオ、明日の朝は市場に行くか?」
そうだった。今日は疲れすぎてどこにも出歩けそうにない。せっかく街を楽しみにしていたのに。
こうなったら明日市場を満喫し尽くそう。
「行ってみたいです」
「ではそこで朝食をとろう。朝市には屋台飯も多く出店する。気に入ったものがあるかもしれない」
聞けば屋台で色々見繕って、そこらへんでピクニックするのが主流らしい。
なんだそれ。絶対楽しいじゃないか。
「ジルさんは、好きな食べ物は何ですか?」
この世界の仕組みについては色々教えてもらったけど、そういえばジルさんのパーソナルな部分をあまり掘り下げていなかったなと思い、小学生のような質問をぶつけた。
「私は腹に入れば何でもいいが、肉は力になるのでよく食べる」
腹に入れば?
嘘だ。あんなに料理上手な人が、腹を満たすだけの食事をすると思えないけど。
「料理、とても上手なのに?」
「あれは隊員たちに食べさせるためだ。イガのように几帳面な者もいるが、放っておくと碌な食事をしない奴ばかりなんでな」
ジルさん、寮母さんじゃん。
「作ってくれた料理、全部美味しかったです。まだちゃんとお礼を言っていませんでした。ありがとうございます」
「それは良かった。アキオは何でも美味そうに食べてくれるので作り甲斐がある。苦手なものは無いのか?」
「はい。ありません」
「そうか。好き嫌いせず食べて偉いな」
やっぱり、24歳って言ったの忘れているのかもしれない。
「苦手な物も無いですが、特に好きな物もありませんでした。でも、今はジルさんの料理が好きです」
「アキオにそんなことを言われるなんて、私は幸せ者だな」
ジルさんは大袈裟だな。でも自分の言葉に幸せを感じてくれるのが嬉しい。
軍の人たちにもこういうこと言ってるんだろうか。もしかして相当な人たらしなんだろうか。だんだん複雑な気持ちになってしまう。
ジルさんの軍生活のことについては、イガさんとメテさんに聞くのがいいだろう。特にメテさんは何でも話してくれそうだ。僕は意外なジルさん情報を求めて明日の朝食時会話のネタを考えつつ、その後も好きなパンの話や塩漬け肉の調理方法などについて語った。
21
お気に入りに追加
375
あなたにおすすめの小説
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
愛され末っ子
西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。
リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。
(お知らせは本編で行います。)
********
上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます!
上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、
上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。
上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的
上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン
上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。
てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。
(特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。
琉架の従者
遼(はる)琉架の10歳上
理斗の従者
蘭(らん)理斗の10歳上
その他の従者は後々出します。
虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。
前半、BL要素少なめです。
この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。
できないな、と悟ったらこの文は消します。
※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。
皆様にとって最高の作品になりますように。
※作者の近況状況欄は要チェックです!
西条ネア
主人公の兄になったなんて知らない
さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を
レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を
レインは知らない自分が神に愛されている事を
表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346
真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~
シキ
BL
全寮制学園モノBL。
倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。
倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……?
真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。
一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。
こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。
今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。
当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。
【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる