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幕開けのツリーハウス
壊れそうな少年◉sideJILL
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目の前で死んだように眠る少年は、青白い額に汗を浮かべ、呼吸をするのにも精一杯の様子。しばらく目は覚まさないだろう。
起きた時に食べられるもの・・・。あまり咀嚼に苦労しないものが良い。スープの用意をしておこうか。
しかし、2ヶ月という長期間の潜入により食物庫のものはほとんど痛んでしまっている。少しでもマシなものがないか漁り、潜入前に拵えておいた干し肉を引っ張り出す、食べられそうなところを刻んで、それから、外に自生していたケソ茸と、乾燥させておいた香草も使えそうだ。
私と一緒に捕らえられていた人たちは、外に待機していた隊員たちと一緒に馬車で王都へと向かわせた。王都までの道のりは長い。隣の部屋で私とほぼ同じ期間虐げられていたであろうこの子の体にはとても耐えられるものではないと判断し、潜入先の近くに簡易的にあつらえたこの小屋に連れ帰ったのだ。
体は清潔に保たれていたが、四肢の筋肉は弱りきり、あばらなどは見ていられない。
意識を失った時に手から滑り落ちた短刀で傷ついたのだろう、胸の真ん中あたりにひと筋の切創ができている。深くはないが痛々しいそれに処置を施している時も、儚く頼りない身体がぽきりと音を立てて壊れてしまわないか、気が気でなかった。
国境近くの森に簡易的にあつらえた小屋でできることは限られている。屋根裏の寝室を気にかけつつも、自分が今すべきことに集中した。少々面倒くさかったが、寝室だけ屋根裏に設置しておいてよかった。起きていきなり見知らぬ男が目に入ったのでは、怯えてしまうかもしれない。
無事に目を覚ましてくれることを祈りながら鍋に湯を沸かし、干し肉とケソ茸で出汁をとってみる。コトコト揺らぐ湯を、頼むから美味くなってくれ、と思いながら眺める。
とは言え気になる少年の様子を見に上がって汗を拭ったり、下に降りて鍋を覗き込み、美味くなくともせめて食べられるものになってくれ、と願ったり、何度も寝室と調理場を往復して過ごした。
少年の顔色はいつまで経っても悪いままだ。
香こうでも炊いておいたらもう少し安らげるだろうか。いや、好みの匂いでなかったらむしろ気分が悪くなってしまうかもしれない。
かすかに動いた眉に、確かに生きていることを感じて安堵する。
隣室に捕らえられたこの少年の存在に気付いていたにも関わらず、目の前の人たちの解放を優先し、結果少年の救助が遅れてしまった。これほどまで彼を弱らせた原因は自分にもあるのだ。
あまりにも痛い現実から目を背けるように再び調理場へ降り、心を無にして鍋に向き合う。
気持ちをぶれさせてはいけない。済んだことを後悔しても仕方がない。今しなければいけないことは、このスープを少しでもみすぼらしくない味に整えることだ。
無心になって味の正解を模索するうち、少しずつ頭が冷えてくる。
しばらくして、バタン、と心細くも重みのある音が真上から響いた。
落ち着きを取り戻しかけていた思考がザァっと青ざめていく。
起きた時に食べられるもの・・・。あまり咀嚼に苦労しないものが良い。スープの用意をしておこうか。
しかし、2ヶ月という長期間の潜入により食物庫のものはほとんど痛んでしまっている。少しでもマシなものがないか漁り、潜入前に拵えておいた干し肉を引っ張り出す、食べられそうなところを刻んで、それから、外に自生していたケソ茸と、乾燥させておいた香草も使えそうだ。
私と一緒に捕らえられていた人たちは、外に待機していた隊員たちと一緒に馬車で王都へと向かわせた。王都までの道のりは長い。隣の部屋で私とほぼ同じ期間虐げられていたであろうこの子の体にはとても耐えられるものではないと判断し、潜入先の近くに簡易的にあつらえたこの小屋に連れ帰ったのだ。
体は清潔に保たれていたが、四肢の筋肉は弱りきり、あばらなどは見ていられない。
意識を失った時に手から滑り落ちた短刀で傷ついたのだろう、胸の真ん中あたりにひと筋の切創ができている。深くはないが痛々しいそれに処置を施している時も、儚く頼りない身体がぽきりと音を立てて壊れてしまわないか、気が気でなかった。
国境近くの森に簡易的にあつらえた小屋でできることは限られている。屋根裏の寝室を気にかけつつも、自分が今すべきことに集中した。少々面倒くさかったが、寝室だけ屋根裏に設置しておいてよかった。起きていきなり見知らぬ男が目に入ったのでは、怯えてしまうかもしれない。
無事に目を覚ましてくれることを祈りながら鍋に湯を沸かし、干し肉とケソ茸で出汁をとってみる。コトコト揺らぐ湯を、頼むから美味くなってくれ、と思いながら眺める。
とは言え気になる少年の様子を見に上がって汗を拭ったり、下に降りて鍋を覗き込み、美味くなくともせめて食べられるものになってくれ、と願ったり、何度も寝室と調理場を往復して過ごした。
少年の顔色はいつまで経っても悪いままだ。
香こうでも炊いておいたらもう少し安らげるだろうか。いや、好みの匂いでなかったらむしろ気分が悪くなってしまうかもしれない。
かすかに動いた眉に、確かに生きていることを感じて安堵する。
隣室に捕らえられたこの少年の存在に気付いていたにも関わらず、目の前の人たちの解放を優先し、結果少年の救助が遅れてしまった。これほどまで彼を弱らせた原因は自分にもあるのだ。
あまりにも痛い現実から目を背けるように再び調理場へ降り、心を無にして鍋に向き合う。
気持ちをぶれさせてはいけない。済んだことを後悔しても仕方がない。今しなければいけないことは、このスープを少しでもみすぼらしくない味に整えることだ。
無心になって味の正解を模索するうち、少しずつ頭が冷えてくる。
しばらくして、バタン、と心細くも重みのある音が真上から響いた。
落ち着きを取り戻しかけていた思考がザァっと青ざめていく。
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