2 / 2
決意
しおりを挟む
ふと、普通の人間とは何だろうと考えた。
普通という言葉はよく使われる。普通にしろとか、普通じゃないとか、会話での汎用性はとても高い。しかし、『普通』と単語だけにした途端、人は言葉の迷宮に放り出される。その理由は、定義の曖昧さだろう。普通の意味だけを答えるなら至って簡単。一般的であるとか、どこにでもあるとか、そういう意味だ。しかし、その意味は、『不確定な人の尺度』によるものでしかない。全国民に、これは普通か?と尋ねれば、それが普通かどうかは判別つくだろう。しかし、そんなこと簡単に出来るはずがない。だから基本的に人は「普通の考えができる自分が普通と感じたもの」を、普通だと言っているのだろう。
では、普通の人とはなんだろう。
これはもっと分からない。この人は普通だ、なんて言っても、解釈の仕方が何通りもある。なので、最も広い意味での『普通の人』とは、どういう基準なのかを考える
一般常識が備わっている人間だ。という仮説を立てた。
しかし、仮説を立てたところで、それを証明まで持っていく技法が分からなかったからボツ。
次に、普通じゃないと思う人を思い浮かべて、その人の特徴と世間一般認識を照らし合わせることで普通の人というものに答え出せるのではないか、と考えた。
普通じゃない人? 勿論、ハリウッドスター並みの美貌を持っていながら、友達を自称する変質者に堕ちる人間は普通じゃないだろう。
「どうした友よ。浮かない顔をしているようだが」
ついでに言えば、自覚症状がないのも普通じゃない。
この色男、駅で別れたと思っていたのに、普通に電車に乗ってきて、普通に私の隣に座って、普通に話しかけてくるし、普通に距離が近いし、ていうか普通に肩当たってるし、普通に良い匂いがして普通に堕ちそう。
やっぱ汎用性高いな、普通って。
「離れてくださいっ」
これ以上は精神的にも周囲の視線的にもまずいと思った私は、この男と距離を取ろうと必死に男の肩を押した。
「この程度のスキンシップ、別に普通ではないか?」
男はさらに肩を押し付けてくる。ってか力強っ!いくら押してもピクリともしない!
「普通に普通じゃないからぁ! セクハラだから!」
声を上手く抑えて叫ぶ。車両内の人は見たところほとんどイヤホンを着けていた。加えて電車の音で掻き消されるので、多少うるさくしても迷惑になることはないだろう。
「言ってることがよく分からん。 もう少し分かりやすく説明してくれ」
「説明するからっ! 説明するから、まず離れろぉ!」
そう言うと、男の肩から力が抜けた。すかさず、男を通路側に押し離つ。
「離れたぞ。では説明してくれ」
なんだろう…変態に主導権握られるとか…
「というか、駅でいきなり訳わかんないこと言ってきて、そのうえ電車の中まで付き纏うとかホンットやめてください! 警察呼びますよ」
「はっはっは。電車内にどうやって警察が来ると言うのだい?」
「電車を降りたら投降してもらいますよ」
「私が全力で走れば、一般人は追いつけないと思うよ?」
罪の意識がない系の不審者かと思いきや、完全に犯罪者のセリフを吐く男。もう訳が分からん…
「しかし、このままでは話が進まんな。かなり早い気がするが、本題に移させてもらおう」
男は少し考える素振りを見せた後、そう言った。
本題? この話の流れで出てくるには、少しひっかかる言葉だと思った。
「友よ、次の駅で降りてもらえるか? 安心していい。私は君に危害は加えないから」
男の口車に乗せられたようで釈然としないが、男は至極真剣な表情で語るし、話したいこととやらも気になった。
***
「君、学園の生徒だよね?」
「あ、はい」
まぁ、そうだろうなとは思った。だって制服着てるのに、そことは全然遠い無い駅に降りるんだから。普通に怪しまれるだろう。
例の男は電車を降りるなり、私を見向きもせず先行していった。ここで足止めされている間にも、男との距離は離れているだろう。
「ごめんなさい! 急いでるので!」
「あっ、ちょっと!」
呼び止める駅員を振り返らず駅を走り出す。男は確かここを右に行った。角を曲がり、男の姿を確認するために目を凝らした。しかし、男の後ろ姿は視界のどこにも映っていなかった。
「わっ」
「ひいぃぃぃ! 何すんだボケェ!!」
後ろから肩を叩かれ、本能のままに絶叫する。その一瞬の間だけ、私は女ではなくなった。
「あっ、なんかすまん。もっと可愛らしい反応を期待してんたんだけど…」
「…フォローになってない」
醜態を晒し、フォロー(追い討ち)を掛けられ、私は虚しくて涙を飲んだ。
「あっ、ほら! 人間皆裏の顔ってあるだろ! それがたまたま露見してしまっただけのことさ! 勿論、私は引いたりしないし、掘り返したりしないからさ! それはそうと、ここで時間を浪費するのは勿体無い! この先の河川敷なら人も少なからずいるから、君も安心できるだろう! さぁ、ついてきてくれ!」
そう言って、男は歩き始める。これでフォローしたつもりなんだろう。
私は決心した。あんな恥ずかしい姿を見られたんだ。責任を取ってもらわないと、私は一生心に傷を負ったまま生きることになるだろう。
「こいつ殺す…」
「ん? 何か言ったかい?」
「なーんでもっ」
精一杯の笑顔で誤魔化し、男の後頭部目がけて鞄を振り落とした。
普通という言葉はよく使われる。普通にしろとか、普通じゃないとか、会話での汎用性はとても高い。しかし、『普通』と単語だけにした途端、人は言葉の迷宮に放り出される。その理由は、定義の曖昧さだろう。普通の意味だけを答えるなら至って簡単。一般的であるとか、どこにでもあるとか、そういう意味だ。しかし、その意味は、『不確定な人の尺度』によるものでしかない。全国民に、これは普通か?と尋ねれば、それが普通かどうかは判別つくだろう。しかし、そんなこと簡単に出来るはずがない。だから基本的に人は「普通の考えができる自分が普通と感じたもの」を、普通だと言っているのだろう。
では、普通の人とはなんだろう。
これはもっと分からない。この人は普通だ、なんて言っても、解釈の仕方が何通りもある。なので、最も広い意味での『普通の人』とは、どういう基準なのかを考える
一般常識が備わっている人間だ。という仮説を立てた。
しかし、仮説を立てたところで、それを証明まで持っていく技法が分からなかったからボツ。
次に、普通じゃないと思う人を思い浮かべて、その人の特徴と世間一般認識を照らし合わせることで普通の人というものに答え出せるのではないか、と考えた。
普通じゃない人? 勿論、ハリウッドスター並みの美貌を持っていながら、友達を自称する変質者に堕ちる人間は普通じゃないだろう。
「どうした友よ。浮かない顔をしているようだが」
ついでに言えば、自覚症状がないのも普通じゃない。
この色男、駅で別れたと思っていたのに、普通に電車に乗ってきて、普通に私の隣に座って、普通に話しかけてくるし、普通に距離が近いし、ていうか普通に肩当たってるし、普通に良い匂いがして普通に堕ちそう。
やっぱ汎用性高いな、普通って。
「離れてくださいっ」
これ以上は精神的にも周囲の視線的にもまずいと思った私は、この男と距離を取ろうと必死に男の肩を押した。
「この程度のスキンシップ、別に普通ではないか?」
男はさらに肩を押し付けてくる。ってか力強っ!いくら押してもピクリともしない!
「普通に普通じゃないからぁ! セクハラだから!」
声を上手く抑えて叫ぶ。車両内の人は見たところほとんどイヤホンを着けていた。加えて電車の音で掻き消されるので、多少うるさくしても迷惑になることはないだろう。
「言ってることがよく分からん。 もう少し分かりやすく説明してくれ」
「説明するからっ! 説明するから、まず離れろぉ!」
そう言うと、男の肩から力が抜けた。すかさず、男を通路側に押し離つ。
「離れたぞ。では説明してくれ」
なんだろう…変態に主導権握られるとか…
「というか、駅でいきなり訳わかんないこと言ってきて、そのうえ電車の中まで付き纏うとかホンットやめてください! 警察呼びますよ」
「はっはっは。電車内にどうやって警察が来ると言うのだい?」
「電車を降りたら投降してもらいますよ」
「私が全力で走れば、一般人は追いつけないと思うよ?」
罪の意識がない系の不審者かと思いきや、完全に犯罪者のセリフを吐く男。もう訳が分からん…
「しかし、このままでは話が進まんな。かなり早い気がするが、本題に移させてもらおう」
男は少し考える素振りを見せた後、そう言った。
本題? この話の流れで出てくるには、少しひっかかる言葉だと思った。
「友よ、次の駅で降りてもらえるか? 安心していい。私は君に危害は加えないから」
男の口車に乗せられたようで釈然としないが、男は至極真剣な表情で語るし、話したいこととやらも気になった。
***
「君、学園の生徒だよね?」
「あ、はい」
まぁ、そうだろうなとは思った。だって制服着てるのに、そことは全然遠い無い駅に降りるんだから。普通に怪しまれるだろう。
例の男は電車を降りるなり、私を見向きもせず先行していった。ここで足止めされている間にも、男との距離は離れているだろう。
「ごめんなさい! 急いでるので!」
「あっ、ちょっと!」
呼び止める駅員を振り返らず駅を走り出す。男は確かここを右に行った。角を曲がり、男の姿を確認するために目を凝らした。しかし、男の後ろ姿は視界のどこにも映っていなかった。
「わっ」
「ひいぃぃぃ! 何すんだボケェ!!」
後ろから肩を叩かれ、本能のままに絶叫する。その一瞬の間だけ、私は女ではなくなった。
「あっ、なんかすまん。もっと可愛らしい反応を期待してんたんだけど…」
「…フォローになってない」
醜態を晒し、フォロー(追い討ち)を掛けられ、私は虚しくて涙を飲んだ。
「あっ、ほら! 人間皆裏の顔ってあるだろ! それがたまたま露見してしまっただけのことさ! 勿論、私は引いたりしないし、掘り返したりしないからさ! それはそうと、ここで時間を浪費するのは勿体無い! この先の河川敷なら人も少なからずいるから、君も安心できるだろう! さぁ、ついてきてくれ!」
そう言って、男は歩き始める。これでフォローしたつもりなんだろう。
私は決心した。あんな恥ずかしい姿を見られたんだ。責任を取ってもらわないと、私は一生心に傷を負ったまま生きることになるだろう。
「こいつ殺す…」
「ん? 何か言ったかい?」
「なーんでもっ」
精一杯の笑顔で誤魔化し、男の後頭部目がけて鞄を振り落とした。
0
お気に入りに追加
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】
墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。
主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。
異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……?
召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。
明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。
妻がエロくて死にそうです
菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。
美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。
こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。
それは……
限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?
みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。
なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。
身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。
一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。
……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ?
※他サイトでも掲載しています。
※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。
性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜
mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!?
※スカトロ表現多数あり
※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる