感染~殺人衝動促進ウイルス~

彩歌

文字の大きさ
上 下
1 / 18

プロローグ

しおりを挟む
それは制御のできない衝動だった。
例えるなら煙草、いや、麻薬に対する欲求に近いだろうか。否、そんな生易しいものではない。もっと血肉の着いた生々しいものだ。


はぁはぁと息が荒くなっている。馬乗りになり、首を絞めた相手はもう動かない。抵抗の証に手の甲に爪痕がくっきりと残っている。


こんなはずじゃなかった。
こんなことするつもりなんかなかった。
口論になったとはいえ、彼は親友ではないか。
ははと壊れたように笑いながらカタカタと震える手でスマホを操作する。
119にかけようとして頭を振る。違う。かけるのは110のほうだ。
すぐに電話は繋がり、男は、西野時雨にしのしぐれは告げる。


「親友を、殺しました……」


時雨は電話が繋がったまま意識を手放した。
その端正な顔にはつうと涙が一筋伝っていた。





「へぇ。君は生きてるんだね。はじめての生存者だ。どう?人を殺した感想は?」


目を開けるとそこは知らない場所だった。
消毒液の匂いに病院にいるのだと気づく。
声の主は白衣を着たまだ若い綺麗な女性だった。


「おはよう。起きているかい?わけがわからないという顔をしているね?説明してあげるよ。君はMIPVに感染し、椿遥人つばきはるとを殺害した」
「MIPV…?」

聞きなれない言葉に時雨は首を小さくかしげる。

「Murder Impulse Promotion Virus。ま、直訳すれば殺人衝動促進ウイルスだね。感染者は例外なく殺人を犯し、死んでいく。だが、君は感染者にもかかわらずこうして生きている。実に興味深い。今、このMIPVの感染者による犯罪が増えている。君には協力してもらうよ。拒否権はない」
「あなたは…?」
「自己紹介が遅れたね。私は神代結羽かみしろゆう。研究者で医者だ。で、君には彼女と組んで貰うよ。尤も知らない仲ではないようだけれど」


キイとドアが開いて入ってきたのはよく知る相手だった。ただ向けられる視線は冷たく凍てついている。


「理由はどうあろうと殺人は殺人です。どうして私があなたのような殺人鬼と行動を共にしなければならないのか理解できません」
「……」


昔向けられていたあの笑顔はもうどこにも存在しない。
彼女が、椿雨音つばきあまねが時雨に冷たいのは無理もないことだった。
なぜなら、時雨が殺した相手の名は椿遥人。雨音の兄なのだから。


「雨音。私怨は持ち込むな」
「わかっています、神代さん」
「あと、理解しようとするな。時雨がウイルスに対抗する“鍵”だとお前にもわかるだろう?」


言葉に詰まる時雨に雨音が歩み寄る。


「あなたには協力する義務がある」


あぁと頷き、差し出され握り返した雨音の手はびっくりするほど冷たく、華奢で弱々しかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】Amnesia(アムネシア)~カフェ「時遊館」に現れた美しい青年は記憶を失っていた~

紫紺
ミステリー
郊外の人気カフェ、『時游館』のマスター航留は、ある日美しい青年と出会う。彼は自分が誰かも全て忘れてしまう記憶喪失を患っていた。 行きがかり上、面倒を見ることになったのが……。 ※「Amnesia」は医学用語で、一般的には「記憶喪失」のことを指します。

ハイブリッド・ブレイン

青木ぬかり
ミステリー
「人とアリ、命の永さは同じだよ。……たぶん」  14歳女子の死、その理由に迫る物語です。

カフェ・シュガーパインの事件簿

山いい奈
ミステリー
大阪長居の住宅街に佇むカフェ・シュガーパイン。 個性豊かな兄姉弟が営むこのカフェには穏やかな時間が流れる。 だが兄姉弟それぞれの持ち前の好奇心やちょっとした特殊能力が、巻き込まれる事件を解決に導くのだった。

【完結!】『信長は「本能寺の変」で死ななかった?バチカンに渡り「ジョルダーノ・ブルーノ」になった?「信長始末記」歴史ミステリー!」

あらお☆ひろ
ミステリー
大阪にある、緒狩斗家の4人兄妹による異世界旅行を専門に行う「株式会社オカやんツアーズ」で巻き起こる、「珍事件」、「珍道中」を、新米JKツアコンのミスティーが兄達と協力し知恵と工夫と超能力で、『お客様の希望を満足させます!』のキャッチコピーを守るため、各自の特技と能力をフルに活かしてサービス提供! 「あの人が生きていたら!」、「なぜ、そうなったの?」と歴史マニアだけで無くても、ちょっと気になる「歴史上の人物と事件の「たら」、「れば」を異世界に出かけて事実を確認! 今回の客は、織田信長を追っかける二人のヤング歴女!「本能寺で信長が死なないハッピーエンドの世界が見たい!」との希望にミスティーたちは答えられるのか? 塗り壁バリヤー、式神使いの長男「好耶」、遠隔投資のできるテレパシストでタイムワープ可能な「物質K」を扱う次男「フリーク」、アスポート、パイロキネス能力を持つウォッカ大好きの3男の「メチャスキー」の3人の兄と現役JKプロレスラーの「ミスティー」が、「夏子」、「陽菜」を連れて、信長の謎を解き明かしていく!信長は、本能寺で死ぬのか?はたまた生き残るのか?そしてその結論は? ちょっと笑って、ちょっと納得、ちょっとホロっとする、歴史好きが読んでも楽しい歴史的証拠を積み重ねた「歴史ミステリーワールド」へようこそ!

独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立

水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~ 第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。 ◇◇◇◇ 飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。 仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。 退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。 他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。 おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。 

『焼飯の金将社長射殺事件の黒幕を追え!~元女子プロレスラー新人記者「安稀世」のスクープ日誌VOL.4』

M‐赤井翼
ミステリー
赤井です。 「元女子プロレスラー新人記者「安稀世《あす・きよ》」のスクープ日誌」シリーズも4作目! 『焼飯の金将社長射殺事件の黒幕を追え!』を公開させていただきます。 昨年末の「予告」から時間がかかった分、しっかりと書き込ませていただきました。 「ん?「焼飯の金将」?」って思われた方は12年前の12月の某上場企業の社長射殺事件を思い出してください! 実行犯は2022年に逮捕されたものの、黒幕はいまだ謎の事件をモチーフに、舞台を大阪と某県に置き換え稀世ちゃんたちが謎解きに挑みます! 門真、箱根、横浜そして中国の大連へ! 「新人記者「安稀世」シリーズ」初の海外ロケ(笑)です。100年の歴史の壁を越えての社長射殺事件の謎解きによろしかったらお付き合いください。 もちろん、いつものメンバーが総出演です! 直さん、なつ&陽菜、太田、副島、森に加えて今回の準主役は「林凜《りん・りん》」ちゃんという中国からの留学生も登場です。 「大人の事情」で現実事件との「登場人物対象表」は出せませんので、想像力を働かせてお読みいただければ幸いです。 今作は「48チャプター」、「400ぺージ」を超える長編になりますので、ゆるーくお付き合いください! 公開後は一応、いつも通り毎朝6時の毎日更新の予定です! それでは、月またぎになりますが、稀世ちゃんたちと一緒に謎解きの取材ツアーにご一緒ください! よ~ろ~ひ~こ~! (⋈◍>◡<◍)。✧💖

伏線回収の夏

影山姫子
ミステリー
ある年の夏。俺は15年ぶりにT県N市にある古い屋敷を訪れた。大学時代のクラスメイトだった岡滝利奈の招きだった。屋敷で不審な事件が頻発しているのだという。かつての同級生の事故死。密室から消えた犯人。アトリエにナイフで刻まれた無数のX。利奈はそのなぞを、ミステリー作家であるこの俺に推理してほしいというのだ。俺、利奈、桐山優也、十文字省吾、新山亜沙美、須藤真利亜の6人は大学時代、この屋敷でともに芸術の創作に打ち込んだ仲間だった。6人の中に犯人はいるのか? 脳裏によみがえる青春時代の熱気、裏切り、そして別れ。懐かしくも苦い思い出をたどりながら事件の真相に近づく俺に、衝撃のラストが待ち受けていた。 《あなたはすべての伏線を回収することができますか?》

処理中です...