炎竜の小さな許嫁

yu-kie

文字の大きさ
上 下
6 / 11

6 *山脈は竜の国*

しおりを挟む

 山脈は竜の巣が点在し、その竜を統べるのが炎竜一族である。竜と人の姿を自在に操る彼らは強くなくてはならない。特に雄は大きく強くあることが竜達を従順にさせる事ができるのだ。

 山脈は国境に面して連なる山々より形成され、隣国のグラシア帝国を恐れさせる。グラシア帝国はキーラル国に何度も攻め入ろうとしたが、炎竜率いる竜騎士により阻止されてきた。

 平和で穏やかな人々の暮らすキーラル国があるのは炎竜一族に護られて成り立っていると言っても過言ではなく、山脈は別名『竜の国』と呼ばれ、キーラル国になくてはならない存在である。

 炎竜一族は、そんな人間の国キーラルを護る事を誇りとし、友であるヒリイス家と縁を結べることを素直に喜ぶと同時に、わずかな不安を抱いていた。

 人間は弱い生き物であり、守るべき生き物。族長は、カイに女は護るものだと教えてきた。だが花嫁に迎えるのであれば、自分のみは自分で守れなければならない。

 果たしてそれができる花嫁か…炎竜一族はそんな不安を抱いていた。


     *     *    *

  
 山脈の炎竜城は断崖絶壁に作られた城。

 山脈に伸びる険しい道を馬車は走り、ようやく目的地である炎竜城にたどり着いた。

 馬車から降りたルイはふらふらとして、イロハに支えられながら城の扉へとたどり着けば、空を舞う数体の炎竜達が上陸体制に入り、次々に着陸し、城に待機するコートを手にした兵士達に包まれるように人へと姿を変えた。

 騎士たちは敬礼し、炎竜達を迎える。マントに身を包んだ炎竜だった男達はルイにはまだ気づかず中へと入ってゆき、ルイは降りてきた炎竜をずっと見ていたが、カイと思われる大きな炎竜がいないことに不思議に思った。

「イロハさん、カイはまだ帰ってないのでしょうか。」
「そのようですね、先ほど降りてこられた炎竜様達は族長の弟であるキト様、ルタ様と、血筋の濃い眷属達でございます。後程ご挨拶にまいりましょう。カイ様はどうされたか聞いてみましょうか…誰か、」

 イロハの声かけに、城の外にいた兵士が反応し、イロハのもとへと駆けつけた。

「イロハ様、どうされましたか?お隣のかたは!」

「カイ様の花嫁になるお方です。後程族長よりお話がありますから今はお話いたしませんが、カイ様はまだ見ないようですが?」
「はい、北の砦にいかれています。竜の巣で何かあったようで様子を見に行かれているのです。」
「そうですか、報告ありがとう。花嫁様、そう言うことのようでございます。私たちもお城に入りましょう、中で皆様にご挨拶しながらカイ様を待ちましょう。」
「わかりました。騎士の皆様、護衛をしてくださりありがとうございました。」

ルイは深々とリーラス達に頭を下げ、イロハに連れられ城へと入り、兵士達は馬車からルイのトランクを取り出すと、後を追うように場内へと向かった。

「あのイロハ様と親しくなるなんて、どんな手を使ったのかしら。」

 リーラスは小さく舌打ちをし、城に背を向けると騎士たちをつれ馬にまたがり城を下降した先の中央砦へと姿を消した。

 *

 数時間後。

 中央砦から、1人馬にまたがり城へと戻ってきたリーラスは、断崖絶壁に立つ城の崖側に城を支える積み上げられた石の上に花嫁の姿を見つけた。

 城の外側には人1人通れる小さなスペースがある。山脈の下降が見える崖側に、彼女はためらいなく座り足をぶらぶらとさせ、空を見上げていた。

「花嫁様!危ないです!」
「あっリーラスさん。」

 ルイは気にせず手を振り、崖を飛び降りたように見えた瞬間、ルイはふわりふわり風に乗るように空を歩き、地面へ着地し、リーラスの前にやってきた。

「花嫁様、今のは?」
「魔法です。私は竜人ではないですから、体が弱い代わりに魔法を覚えたんです。ふふふ。魔力だけは自慢できるくらいあるんですよ。ヒリイス家の者の多くは魔導士を志し、その1人が私なんです!」

 ルイは満面の笑みで得意気に胸を張った。

「はあ、びっくりしました。」

 そんなルイを見たリーラスは、か弱いだけではないのだと知り、思わず苦笑いしたのだった。

「ところで、なぜ外にいらしたのです?」
「カイ様をまとうと思ってイロハさん目を盗んで脱け出してきました。ふふふ。」
「花嫁様、もうすぐカイ様は戻って来ると知らせがあったので私は戻ってきた次第です。中に入って待ちましょう。」

 リーラスがルイに手を差し出せばルイは素直にその手を取り二人は城内へと小走りで入って行った。

 ルイはイロハに叱られ、一緒にいたリーラスも巻き込まれて叱られてしまい、リーラスは心の中でルイを恨んだ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

誰もいないのなら

海無鈴河
恋愛
嫌いな彼と秘密の恋人になりました(フリだけど)  ごく普通の高校生――大和朱莉はある日突然許嫁がいることを知ってしまう。  その相手は容姿、家柄、能力、全てにおいて完璧な同じ学校の生徒会長――吉野蒼司だった。  しかし、学校では対立している二人の仲は最悪。  仕方なく仲の良い恋人同士として過ごしてみようと同盟を組んだ二人だが、それには「周囲にバレない」というオプションが付いていた!  右も左も分からない!二人の秘密の結末ははたしてどこに向かっていく……! ---------------- 一応学園×コメディ×ごくまれにラブ ※この作品は他サイトにも掲載しています。 表紙写真は写真AC様よりお借りしました。

裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……

希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。 幼馴染に婚約者を奪われたのだ。 レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。 「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」 「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」 誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。 けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。 レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。 心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。 強く気高く冷酷に。 裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。 ☆完結しました。ありがとうございました!☆ (ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在)) (ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9)) (ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在)) (ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

【短編】悪役令嬢と蔑まれた私は史上最高の遺書を書く

とによ
恋愛
婚約破棄され、悪役令嬢と呼ばれ、いじめを受け。 まさに不幸の役満を食らった私――ハンナ・オスカリウスは、自殺することを決意する。 しかし、このままただで死ぬのは嫌だ。なにか私が生きていたという爪痕を残したい。 なら、史上最高に素晴らしい出来の遺書を書いて、自殺してやろう! そう思った私は全身全霊で遺書を書いて、私の通っている魔法学園へと自殺しに向かった。 しかし、そこで謎の美男子に見つかってしまい、しまいには遺書すら読まれてしまう。 すると彼に 「こんな遺書じゃダメだね」 「こんなものじゃ、誰の記憶にも残らないよ」 と思いっきりダメ出しをされてしまった。 それにショックを受けていると、彼はこう提案してくる。 「君の遺書を最高のものにしてみせる。その代わり、僕の研究を手伝ってほしいんだ」 これは頭のネジが飛んでいる彼について行った結果、彼と共に歴史に名を残してしまう。 そんなお話。

あなたが望んだ、ただそれだけ

cyaru
恋愛
いつものように王城に妃教育に行ったカーメリアは王太子が侯爵令嬢と茶会をしているのを目にする。日に日に大きくなる次の教育が始まらない事に対する焦り。 国王夫妻に呼ばれ両親と共に登城すると婚約の解消を言い渡される。 カーメリアの両親はそれまでの所業が腹に据えかねていた事もあり、領地も売り払い夫人の実家のある隣国へ移住を決めた。 王太子イデオットの悪意なき本音はカーメリアの心を粉々に打ち砕いてしまった。 失意から寝込みがちになったカーメリアに追い打ちをかけるように見舞いに来た王太子イデオットとエンヴィー侯爵令嬢は更に悪意のない本音をカーメリアに浴びせた。 公爵はイデオットの態度に激昂し、処刑を覚悟で2人を叩きだしてしまった。 逃げるように移り住んだリアーノ国で静かに静養をしていたが、そこに1人の男性が現れた。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※胸糞展開ありますが、クールダウンお願いします。  心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。イラっとしたら現実に戻ってください。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

気が合わない許嫁同士だったはずなのに

結城芙由奈 
恋愛
【喧嘩ばかりの許嫁同士がとった最終手段は……?】 子爵令嬢アメリア・ホワイトと同じく子爵令息ニコル・ブラウンは両家が決めた許嫁同士。互いに二十歳になった暁には結婚することが義務付けられていたのだが、この二人会えば喧嘩ばかりだった。そこでこの状況を打開すべく、アメリアはある行動を取ることに…… *他サイトでも投稿中 * 前後編のショートストーリーです

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

処理中です...