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3 *仲直りと花飾り*
しおりを挟む「ルイ…もう泣かないで…。君が強くなってくれたのはわかったから。今度からちゃんと言うよ…ルイと昔はよく街を走り回ったね。君はいつも僕の前を走って、僕と対等に接してくれた。お転婆で負けず嫌い、そして誰よりも優しい。だけど僕は焦っていたのかもしれない。周りから、竜人の男は強くなくてはならない!竜人の伴侶は常に危険にさらされる。女とは弱い生き物だから、男が強くあり、守り包み込まなくてはならない。竜人の男は幼い頃からそう言われ続ける。僕はいつからか、君の事がちゃんと見れなくなっていたのかもしれない。だから…許して。」
18歳を迎える少女ルイは世の中の同世代の女性たちより一回り小さい。そんな小さな少女は、更に小さくなるようにうずくまっていたが泣くのを止め、ようやく顔をあげると、心配そうに顔を寄せる炎竜の顔に目を丸くした。
なぜなら竜の鼻は赤く小さなこぶを作っていたのだ。先程のルイの魔力の暴走による突風を受けたためにできたものだった。
ルイは先程の自分の暴走を今更ながらに恥ずかしく思い。はしたないことをしたと、しおらしくいられなかった事に、自分を攻め、立ち上がるとルイは炎竜の姿のカイの顔を前に深々と頭を下げた。
「炎竜様にご無礼をいたしましたこと、深くお詫び申し上げます!」
「ルイ…名前、呼んで…」
カイはルイに顔を寄せ体に鼻を刷り寄せルイの返事を催促した。
「…カイ…」
「うん。」
ルイは急に恥ずかしくなり顔を赤くしうつむくと、炎竜と花嫁の発表の儀式の準備に、街の女性たちが集まり始め、炎竜姿のカイと小さな少女ルイは取り囲まれた。
◆
集まったカイの両親、ルイの両親に見守られカイは首に絨毯のような滑らかな生地をした銀色の縁取りの赤く長い布を首に掛けられ、ルイは乱れた髪とメイクを整えられ、しゃがみこむ炎竜の首に横向きに座った。
「ルイ…この御披露目が終わったら僕は元の姿に戻るから、そしたら久しぶりに街に出よう。」
「うん!楽しみ!」
「うん、僕も楽しみ。まずはこの御披露目を完璧にやろう。僕らが素敵なカップルに見えるように。」
「うん!そうだね!」
ルイとカイは溜め込んでいたものを互いに出しきったためか、スッキリしたようで、このあとの儀式を真剣に取り組んだのだった。
ルイを乗せた炎竜は街の方角へ空高く舞い上がり上空を旋回した。ルイは持たされた籠から花びらを撒き、花祭りの会場を更に華やかにした。地上に集まる街の人々は歓声をあげ、楽器を持つ集団が演奏を始め、人々は思い思いにステップを踏み踊った。
◆
祭りが終わり、庭園の芝生広場に戻って来たカイは地上へと着地。ルイを降ろすと、人へと姿を戻していった。
待機していた街の男達が竜の首にかけていた布を使い、カイを隠す者、カイに衣服を手渡す者に別れカイの着替えを手伝った。
ルイは久しぶりに会うカイの姿に胸を高鳴らせた。以前よりも更に屈強になり、背丈も伸び、短く切られた銀髪。紅い瞳の色と同じ騎士服を着たカイの姿がそこにはあった。
ルイは身に付けていた花冠と牡丹の花の連なるネックレスを片付けをする女性たちにあげ、二人は御披露目の片付をする街の人々に見送られ、街へデートに向かった。街を歩くと祭りを終えた人々が二人に手を振りながら去って行き、二人は街のファッション雑貨のお店へと足を向けた。
カイはお互いの考えをハッキリと打ち明け仲直りした記念にと、ルイに花飾りをプレゼントした。紅い牡丹の花の髪止め。本物の花ではないその牡丹は木彫りの紅く色を染められた物。開花を始めた花弁とちらりと見える黄色い花粉をつけたおしべがちらりと見え隠れして、まるで本物の花のよう。繊細な細工にルイは息をのみ、先程まで首にかけていたネックレスを思いだし、それを手に取りカイをちらりと見ればカイはそれを手にとるとルイの髪を耳に掛け、その髪止めで左の耳の上にぱちんと留めた。
「店主、これをください。」
「まあ、お目が高い、それは腕のよい職人の作品の中でも精巧にできた1品ものの髪止めだよ。銀貨2枚になります。」
「これでいいかい?」
カイはポケットから黒い袋を取り出し中から銀貨2枚を取り出し店主に渡すと、ルイの手を取り店を出た。
「ありがとうございました。」
店主の声に見送られ、二人は店をあとにした。
足取り軽く、二人は家族の待つ領主の屋敷へと向かった。
ルイはこの時満たされた気持ちになっていたが、この先に待つ花嫁修業で苦労する事に…今はまだ何も知らずにいるのだった。
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