10 / 15
3章・番い編
9
しおりを挟むエクアルト領での調査団の特殊任務を終えた一行は慌しく王都へと帰還した。
以前はベゼルの道楽で作られた一団だと噂されていたが…その噂は今では消え失せ、初始動で功績をあげた青い鳥調査団は知名度がぐんと上がり、国民の多くが注目することになった。
そんなある日、獣人の国の王太子が国王アースの遣いでヘザン国へ訪れた。
ヘザン国での獣人達の護衛について視察とベゼル王女の始めた調査団の見学が目的だった。
***
「カラー王太子殿下、ようこそお越しくださいました。」
お城の来賓を饗す部屋では、ジアス・ヘザン国王と、第1王子アゼル、王女ベゼルの三人が、客人である獣人の国の黒豹の獣人王子カラーを饗していた。
ジアスはお茶の席、ベゼルと歳の近いカラーに、少しでもベゼルに好意を持っていればと…淡い期待を抱きながら挨拶に、続き話しかけた。
「今回の訪問は王女ベゼルの発足した組織に興味を抱かれたと聞いていますが…ベゼルはまだ結婚に興味を持っていないようでしてね~何かとアース国王陛下に相談をしているとか…ご迷惑ではないかとあんじています。」
カラーは紅茶の満たされたカップを2口飲み、小さなため息を付きながらカップをテーブルに戻すとしなりと体を揺らして首を傾げた。
「父はベゼル王女殿下を評価しています…女性であるがゆえに増える障害を乗り越え、幼い頃に決意した国の治安を良くするために組織を発足し、国民に認められるまでになったのですから。」
ベゼルに視線を向けたカラーが小さく微笑んだ。
「カラー王太子殿下、そのように評価して下さりありがとうございます。」
ベゼルはカラーに微笑み返すと、ジアスとアゼルは何度か目を合わせた後、ジアスは咳払いし、カラーに話しかけた。
「カラー王太子殿下、ベゼルの事を花嫁候補に入れてはくれませんか?」
「お父様!」
ベゼルは急に険しい表情になり席を立った。
「ベゼル王女殿下、落ち着いて。僕はわかってますからご安心ください…それに僕には既に近親者の婚約者と結婚の準備中なのです。」
カラーは席を立つベゼルに手を差し出し、席につくよう促すと、テーブルに置いたカップを手に取り2口で飲み干しテーブルに置いて、ちらりとジアスに視線を向けた。
「僕の国では代々国を守る武将を務める一族がいます。王族との遠縁でもある、黒狼の一族です。彼らは子沢山で、一族に備わる強靭な体と力を持て余すことを嫌い常に誰かを守る専属の護衛に着くものが多いのです。僕の友人ワグナーは武将リジャールの次男でして、彼は以前城に使えていましたが、幼き王女に一目惚れしました。彼も立場の違いから多い障害を乗り越え、7年の月日を経てベゼル王女の専属護衛の役を勝ち取って…僕は素敵だなって、思います。」
「殿下…ワグナーと知り合いなのですか。」
「ええ。王女は最近お手紙でワグナーを絶賛していると…国王が申してましたよ?」
ベゼルは恥じらうように顔を赤くし、ジアスとアゼルは目を丸くし、カラーはその様子を楽しむように話を続けた。
「ジアス国王陛下、アース国王が申していました。ベゼル王女がワグナーと公私共に親密な仲ならば、獣人の国にだけある番いの契約をしてはどうかと。王女は結婚を望まれないのはこの地位にいて役に立ちたいのが目的。互いの姓を変えず二人だけの生涯の契約になります。」
「うむ…その件は、二人の意思を聞いて検討しましょう。」
ベゼルは何故だが『番い』のフレーズに部屋の外に控えているワグナーを思い出していた。
(なんてこと?結婚以外にワグナーと夫婦になれると言うのかしら?早速ワグナーに相談しなくちゃ。)
「さて、ベゼル王女殿下。このあと組織の見学の案内をお願いできますか?」
「はい。」
ベゼルは、脳内が花畑になりかけたが、カラーの声に現実へと、意識を戻したのだった。
(だめよベゼル、今はカラー殿下に組織を見てもらわなくてはいけない。)
そう自分に言い聞かせ気合を入れるベゼルであった。
0
お気に入りに追加
64
あなたにおすすめの小説
ずっとあなたが欲しかった。
豆狸
恋愛
「私、アルトゥール殿下が好きだったの。初めて会ったときからお慕いしていたの。ずっとあの方の心が、愛が欲しかったの。妃教育を頑張ったのは、学園在学中に学ばなくても良いことまで学んだのは、そうすれば殿下に捨てられた後は口封じに殺されてしまうからなの。死にたかったのではないわ。そんな状況なら、優しい殿下は私を捨てられないと思ったからよ。私は卑怯な女なの」
大嫌いな幼馴染の皇太子殿下と婚姻させられたので、白い結婚をお願いいたしました
柴野
恋愛
「これは白い結婚ということにいたしましょう」
結婚初夜、そうお願いしたジェシカに、夫となる人は眉を顰めて答えた。
「……ああ、お前の好きにしろ」
婚約者だった隣国の王弟に別れを切り出され嫁ぎ先を失った公爵令嬢ジェシカ・スタンナードは、幼馴染でありながら、たいへん仲の悪かった皇太子ヒューパートと王命で婚姻させられた。
ヒューパート皇太子には陰ながら想っていた令嬢がいたのに、彼女は第二王子の婚約者になってしまったので長年婚約者を作っていなかったという噂がある。それだというのに王命で大嫌いなジェシカを娶ることになったのだ。
いくら政略結婚とはいえ、ヒューパートに抱かれるのは嫌だ。子供ができないという理由があれば離縁できると考えたジェシカは白い結婚を望み、ヒューパートもそれを受け入れた。
そのはず、だったのだが……?
離縁を望みながらも徐々に絆されていく公爵令嬢と、実は彼女のことが大好きで仕方ないツンデレ皇太子によるじれじれラブストーリー。
※こちらの作品は小説家になろうにも重複投稿しています。
【完結】愛していないと王子が言った
miniko
恋愛
王子の婚約者であるリリアナは、大好きな彼が「リリアナの事など愛していない」と言っているのを、偶然立ち聞きしてしまう。
「こんな気持ちになるならば、恋など知りたくはなかったのに・・・」
ショックを受けたリリアナは、王子と距離を置こうとするのだが、なかなか上手くいかず・・・。
※合わない場合はそっ閉じお願いします。
※感想欄、ネタバレ有りの振り分けをしていないので、本編未読の方は自己責任で閲覧お願いします。
夫を愛することはやめました。
杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。
❲完結❳傷物の私は高貴な公爵子息の婚約者になりました
四つ葉菫
恋愛
彼は私を愛していない。
ただ『責任』から私を婚約者にしただけ――。
しがない貧しい男爵令嬢の『エレン・レヴィンズ』と王都警備騎士団長にして突出した家柄の『フェリシアン・サンストレーム』。
幼い頃出会ったきっかけによって、ずっと淡い恋心をフェリシアンに抱き続けているエレン。
彼は人気者で、地位、家柄、容姿含め何もかも完璧なひと。
でも私は、誇れるものがなにもない人間。大勢いる貴族令嬢の中でも、きっと特に。
この恋は決して叶わない。
そう思っていたのに――。
ある日、王都を取り締まり中のフェリシアンを犯罪者から庇ったことで、背中に大きな傷を負ってしまうエレン。
その出来事によって、ふたりは婚約者となり――。
全てにおいて完璧だが恋には不器用なヒーローと、ずっとその彼を想って一途な恋心を胸に秘めているヒロイン。
――ふたりの道が今、交差し始めた。
✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢
前半ヒロイン目線、後半ヒーロー目線です。
中編から長編に変更します。
世界観は作者オリジナルです。
この世界の貴族の概念、規則、行動は実際の中世・近世の貴族に則っていません。あしからず。
緩めの設定です。細かいところはあまり気にしないでください。
✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢
あなたはその人が好きなんですね。なら離婚しましょうか。
水垣するめ
恋愛
お互い望まぬ政略結婚だった。
主人公エミリアは貴族の義務として割り切っていた。
しかし、アルバート王にはすでに想いを寄せる女性がいた。
そしてアルバートはエミリアを虐げ始めた。
無実のエミリアを虐げることを、周りの貴族はどう捉えるかは考えずに。
気づいた時にはもう手遅れだった。
アルバートは王の座から退かざるを得なくなり──。
立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~
矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。
隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。
周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。
※設定はゆるいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる