黒狼の高嶺の花

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3章・番い編

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 エクアルト領での調査団の特殊任務を終えた一行は慌しく王都へと帰還した。

 以前はベゼルの道楽で作られた一団だと噂されていたが…その噂は今では消え失せ、初始動で功績をあげた青い鳥調査団は知名度がぐんと上がり、国民の多くが注目することになった。

 そんなある日、獣人の国の王太子が国王アースの遣いでヘザン国へ訪れた。

 ヘザン国での獣人達の護衛について視察とベゼル王女の始めた調査団の見学が目的だった。

     ***

「カラー王太子殿下、ようこそお越しくださいました。」

 お城の来賓を饗す部屋では、ジアス・ヘザン国王と、第1王子アゼル、王女ベゼルの三人が、客人である獣人の国の黒豹の獣人王子カラーをもてなしていた。

 ジアスはお茶の席、ベゼルと歳の近いカラーに、少しでもベゼルに好意を持っていればと…淡い期待を抱きながら挨拶に、続き話しかけた。

「今回の訪問は王女ベゼルの発足した組織に興味を抱かれたと聞いていますが…ベゼルはまだ結婚に興味を持っていないようでしてね~何かとアース国王陛下に相談をしているとか…ご迷惑ではないかとあんじています。」

 カラーは紅茶の満たされたカップを2口飲み、小さなため息を付きながらカップをテーブルに戻すとしなりと体を揺らして首を傾げた。

「父はベゼル王女殿下を評価しています…女性であるがゆえに増える障害を乗り越え、幼い頃に決意した国の治安を良くするために組織を発足し、国民に認められるまでになったのですから。」

 ベゼルに視線を向けたカラーが小さく微笑んだ。

「カラー王太子殿下、そのように評価して下さりありがとうございます。」

 ベゼルはカラーに微笑み返すと、ジアスとアゼルは何度か目を合わせた後、ジアスは咳払いし、カラーに話しかけた。

「カラー王太子殿下、ベゼルの事を花嫁候補に入れてはくれませんか?」
「お父様!」

 ベゼルは急に険しい表情になり席を立った。

「ベゼル王女殿下、落ち着いて。僕はわかってますからご安心ください…それに僕には既に近親者の婚約者と結婚の準備中なのです。」

 カラーは席を立つベゼルに手を差し出し、席につくよう促すと、テーブルに置いたカップを手に取り2口で飲み干しテーブルに置いて、ちらりとジアスに視線を向けた。

「僕の国では代々国を守る武将を務める一族がいます。王族との遠縁でもある、黒狼の一族です。彼らは子沢山で、一族に備わる強靭な体と力を持て余すことを嫌い常に誰かを守る専属の護衛に着くものが多いのです。僕の友人ワグナーは武将リジャールの次男でして、彼は以前城に使えていましたが、幼き王女に一目惚れしました。彼も立場の違いから多い障害を乗り越え、7年の月日を経てベゼル王女の専属護衛の役を勝ち取って…僕は素敵だなって、思います。」
「殿下…ワグナーと知り合いなのですか。」
「ええ。王女は最近お手紙でワグナーを絶賛していると…国王が申してましたよ?」

 ベゼルは恥じらうように顔を赤くし、ジアスとアゼルは目を丸くし、カラーはその様子を楽しむように話を続けた。

「ジアス国王陛下、アース国王が申していました。ベゼル王女がワグナーと公私共に親密な仲ならば、獣人の国にだけある番いの契約をしてはどうかと。王女は結婚を望まれないのはこの地位にいて役に立ちたいのが目的。互いの姓を変えず二人だけの生涯の契約になります。」
「うむ…その件は、二人の意思を聞いて検討しましょう。」

 ベゼルは何故だが『番い』のフレーズに部屋の外に控えているワグナーを思い出していた。

(なんてこと?結婚以外にワグナーと夫婦になれると言うのかしら?早速ワグナーに相談しなくちゃ。)

「さて、ベゼル王女殿下。このあと組織の見学の案内をお願いできますか?」
「はい。」

 ベゼルは、脳内が花畑になりかけたが、カラーの声に現実へと、意識を戻したのだった。

(だめよベゼル、今はカラー殿下に組織を見てもらわなくてはいけない。)

 そう自分に言い聞かせ気合を入れるベゼルであった。


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