流星の騎士と黒猫

yu-kie

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魔王の子育て

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 魔界。

 上空に突如開いた穴から、フラフラと左右に揺れながら現れた鳥たちは魔王城のバルコニーに着地した。

 身を寄せて着地した鳥たちの背には、褐色の肌と白銀の髪と瞳をもつ赤ん坊が眠っていた。

「魔王様、シュラ様が…我らのせいです。申しわけございません。聖剣をもつ騎士にやられました。」
「ハビスはどうした?」

 バルコニーに、現れた魔王は赤ん坊を抱き上げるとあやしながら、鳥たちに冷たい眼差しをむけた。

「ハビスは…もう魔界に戻らないと…言っていました。今は人間の使い魔になって…」

「まあいい…お前達は去れ…闇の泉で休息をするがいい。人間臭くなったハビスなら…もう無理に奪いにゆく必要もない、今度はこのシュラを育てて愛でるのもよいな。」
「あぶぁ~」

 魔王はシュラを抱いたまま室内へと姿を消し、鳥たちは羽ばたき闇夜に消えていった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 その頃人間たちの世界。

 ミルクはいっときだけ大人に戻ったが、今は極限まで力を使ったため、黒猫へと姿を変えリューイの寮の部屋のベッドで丸くなっていた。

 部屋に戻って来たリューイは1日を振り返り深いため息を漏らした。

 ミルクが少しの時間だけ、あの妖艶な魔女ハビスになった事を思い出していた。

 倒したハビスは生まれ変わったように自分の前に表れ…猫から少女へ姿を変えた。

 今日みた破滅の魔女ハビスは、やはりミルクであった。昔では見たことの無い、柔らかな表情をし、こちらを心配する姿は自分の知るミルク…その妖艶さは柔らかな表情を持つようになった事で、リューイの心を鷲掴みした。

 ベッドに座ったリューイはミルクを撫で、あの時の大人のミルクに間近で見たいと、触れたいと言う思いを深めた。

「ミルク…」
「ご主人様~?」
「また人間になれたりするのか?」
「ふぁ。なれますけど…大人にはまた当分なれません。いつもの、子供の姿にしか…」
「そうか。いや、いい。今日は頑張ったね、ぐっすり眠りなさい。」
「はい…ふにゃ。」

 リューイは猫のミルクを優しく撫でながら、ミルクが大人に戻れる日を、楽しみにするのだった。

「ミルク、どこにも行くなよ?そのままの姿でも…少女の姿でもいいから…」
「にゃふ。」
「この感情はなんだろう…お前がいると安心する。」
「ふにゃん。」

 ミルクは気持ちよさげにベッドの上で背伸びをし、リューイは隣に横になりミルクのお腹を撫でながら、その感情が何か、考えていると…いつの間にか眠り始めていた。

 この感情が恋だと知るのはまだ先になる。魔王の使者はあれから来ることもなくなり、リューイとミルクは騎士団と共に今日も国の平和の為に活躍する。


〈END〉
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