4 / 20
1・森の奥の薬屋
< 3 >
しおりを挟む* * * 森の奥、魔女の家 * * *
青い髪の青年黒炎の騎士と名乗ったガゼラ・ジルマはリュウの家で療養を始めて1週間がたった。
ガゼラはようやく体を動かせるようになった。
しゅん!しゅん!
外に出て剣を持ち素振りをする様子を、リュウは部屋の窓からチラチラと見ながらグレーの着古したワンピース姿に白衣を着て薬ずくりを行っていた。
「お父様以外の若い男性はガゼが始めてだから見ていて飽きない…人間観察するのもいいかもね~。」
一人ぶつぶつ呟きながらリュウは木箱の踏み台にのり、テーブルを見下ろすようにしてすり鉢に入った薬草を棒でゴロゴロとすりつぶしていた。
リュウは見た目は10歳だが中身は18歳。居候中のガゼラは23歳と、二人の年の差は『 5歳』。
少し離れた場所には家庭菜園があり、リュウの母はつばの長い麦わら帽子に、薄いピンクのロングドレスでしゃがみこみ、白いエプロン姿、手には軍手をつけ草をとり、苗の手入れ、土へ肥料と水を与えるといった作業を行いながら、ガゼラの様子を見守り呟いた。
「あの青年…リュウにもよい影響を与えてくれないかしら。フフフ。」
リュウの母はすっと立ち上がり、すたすたと歩く先には井戸とテーブルと椅子がある。
リュウの母はそのテーブルにのせた篭を手にすると、薬草を育てているビニールハウスへ、いつもの作業をするために入った。
ガゼラは庭で素振りのあと、片腕で腕立て伏せを始めると、ログハウスの一階、薬作りをする部屋の窓から乗り出したリュウがガゼラに向けて叫んでいた。
「ガゼー!無理なことしないでください!」
「これくらい、大したことないですよ。」
腕立て伏せを続けるガゼラは右腕から左腕へと支えを変えるとまた腕立て伏せを始め…リュウは窓からエグエグと泣いた。
「なんで言うこと聞いてくれないんですかぁ~」
リュウはガゼラを看病する責任感から感情を爆発させて泣き出し、ガゼラは渋々腕立て伏せをやめ、窓から乗り出して泣くリュウをだっこすると、リュウはお姫様だっこ状態で、泣きながらガゼラの顔をパコパコと子供の弱い力で叩いた。
「すいませんでした。今戻ります。」
泣きわめくリュウをなだめるように抱いたまま、正面玄関から家の中へと入って行った。
* * * * * * * * * * *
< ガゼラの心の声 >
あの日、僕は任務中に森と隣接する山へ行き強敵に遭遇、仲間たちと協力しあい敵と戦い、負傷した。敵は倒し、仲間たちと帰る途中仲間たちの背中を追いながら意識が一瞬途絶えて行くなか、山を転がり落ちた気がした。
山と隣接した魔女の住む森に迷いこまなければ、今ここにはいなかっただろう。しかも、国から定期的に使者が来ているのだから、国が認めているのだろう。信用できる魔女だと思った。
リュウは命の恩人で幼いままの魔女。恐ろしいはずの紅い瞳は、彼女の可愛さを引き立たせている気がする。
そうだ、王都へ戻ったら彼女にお礼にドレスをプレゼントしよう。貴族の子供たちが持つ人形みたいに着飾ったら、きっと可愛いはずだ。
その為にも少しでも早く傷を治さなくては。
* * * * * * * * * * *
0
お気に入りに追加
88
あなたにおすすめの小説
私があなたを好きだったころ
豆狸
恋愛
「……エヴァンジェリン。僕には好きな女性がいる。初恋の人なんだ。学園の三年間だけでいいから、聖花祭は彼女と過ごさせてくれ」
※1/10タグの『婚約解消』を『婚約→白紙撤回』に訂正しました。
【完結】私が貴方の元を去ったわけ
なか
恋愛
「貴方を……愛しておりました」
国の英雄であるレイクス。
彼の妻––リディアは、そんな言葉を残して去っていく。
離婚届けと、別れを告げる書置きを残された中。
妻であった彼女が突然去っていった理由を……
レイクスは、大きな後悔と、恥ずべき自らの行為を知っていく事となる。
◇◇◇
プロローグ、エピローグを入れて全13話
完結まで執筆済みです。
久しぶりのショートショート。
懺悔をテーマに書いた作品です。
もしよろしければ、読んでくださると嬉しいです!
【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
【完結】記憶を失くした貴方には、わたし達家族は要らないようです
たろ
恋愛
騎士であった夫が突然川に落ちて死んだと聞かされたラフェ。
お腹には赤ちゃんがいることが分かったばかりなのに。
これからどうやって暮らしていけばいいのか……
子供と二人で何とか頑張って暮らし始めたのに……
そして………
【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。
文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。
父王に一番愛される姫。
ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。
優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。
しかし、彼は居なくなった。
聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。
そして、二年後。
レティシアナは、大国の王の妻となっていた。
※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。
小説家になろうにも投稿しています。
エールありがとうございます!
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる