白薔薇騎士と小さな許嫁

yu-kie

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 翌日、屋敷に迎えに来たライカは屋敷を警備する兵士により入り口まで運ばれた檻に目がとまった。中にいる狼のキラルに殺意を込めた睨みを向け、キラルはそれに応えるように威嚇した。

 「キラル!!この人は私の許嫁様よ、お利口にして。」

 キラルは婚約者のフレーズに更に興奮し、屋敷の中で大きくなろうとしたため、スティアは両手を広げてキラルの怒りを静めるよう優しく声をかけた。

「キラル。いい子にしようね。」

 檻の外、キラルとライカの間に立つスティアは無意識に両手から青白い光を放ち、無垢な笑顔でキラルを見つめれば、その光の無数の粒はキラルに注がれ、キラルの興奮は収まり、落ち込むように、しゅんとした。

「いい子。」

 スティアは檻に手を差し込み、キラルの顔を撫でると、キラルはキュンキュンと鳴いてその手に頬を擦り寄せ、手のひらをペロペロとなめだした。

「リューイ殿、話は聞きましたが…本当に、この狼とスティア嬢を連れてゆくのですか?」

「ああ、スティアの言うことしか聞かないようだからね。」

 ライカは檻の中のキラルと火花が散るように睨み合った。

「…スティア嬢その狼には気をつけて。」

 ライカは前に遮るように立つスティアの肩に手を伸ばし引き寄せ、再びキラルを睨んだ。

「大丈夫ですよ。」

 スティアは肩に伸ばされたてに自分の手で触れながら上目遣いに見上げれば、ライカは思わず顔を赤くし、見られないよう顔を背けた。

「リューイ殿そろそろ。」
「ハッハッハ。娘は人気者だね。スティア、悪いが荷馬車に乗ってもらうからね。」
「はい。今日は、よろしくお願いします。」

 スティアはピンクのドレスの裾をつまみ白いズロースをわずかに見える状態でペコリと頭を下げた。

 屋敷の扉前では執事と母のルティーに見守られ、布張りの荷台に檻が乗せられ、檻を監視する兵士とスティアも手を引かれて乗り込んだ。

 リューイの乗る馬が先に走り出し、ライカの乗る馬があとに続く。後を追うように荷馬車は走り出した。

 屋敷を出発した一行は広い敷地の道を走りぬけ、要塞の壁を目前にし、開け放たられた門を抜ければ、待機していた騎兵隊がリューイたちの後に続き馬を走らせた。

 人数の増えた一行は塀の外の荒れ地を走りぬけ、目的地である、北の砦近くの集落にたどり着いた。

    ††††

 キラルは魔法を使い…時には人の姿になり、集落を元の姿へと修復していった。

「キラル、私も何か手伝わせて。」

 スティアは少しだけ手伝おうとすれば、人間の姿のキラルがそれを阻んだ。

「スティアお嬢様、私におまかせください。」

 スティアの為に、キラルは休みなく働き、夕方を迎えたのだっ。


 集落を元に戻した頃、監視の為に一部の騎兵隊を残し砦視察でその場から離れていたリューイとライカが様子を見に戻ってきた。

 侍女の姿のキラルは、胸を張り、「やってやったぞ!」と言いたげに威張れば、様子を見ていたスティアがぞろぞろと北の砦に避難していた集落の住民が戻ってきたのを目にし、キラルのもとへと駆け寄った。

「キラル、集落の皆に謝るんですよ。」
「…は…い。」

 キラルはその姿のまま渋々あたまを下げた。

「家をめちゃくちゃにしてすみませんでした!」
「なんだ?誰だ?」

 ざわつき出した住民を前にスティアはキラルに本来の姿になるよう指示をすれば、キラルは大きな体の1角狼へと姿を変えた。

「私の本当の姿です。」
「なんてことだ。」

 皆驚愕し、しばらくフリーズ。時間をかけて理解した住民は家へと戻っていったのだった。



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