8 / 26
8
しおりを挟む翌日、屋敷に迎えに来たライカは屋敷を警備する兵士により入り口まで運ばれた檻に目がとまった。中にいる狼のキラルに殺意を込めた睨みを向け、キラルはそれに応えるように威嚇した。
「キラル!!この人は私の許嫁様よ、お利口にして。」
キラルは婚約者のフレーズに更に興奮し、屋敷の中で大きくなろうとしたため、スティアは両手を広げてキラルの怒りを静めるよう優しく声をかけた。
「キラル。いい子にしようね。」
檻の外、キラルとライカの間に立つスティアは無意識に両手から青白い光を放ち、無垢な笑顔でキラルを見つめれば、その光の無数の粒はキラルに注がれ、キラルの興奮は収まり、落ち込むように、しゅんとした。
「いい子。」
スティアは檻に手を差し込み、キラルの顔を撫でると、キラルはキュンキュンと鳴いてその手に頬を擦り寄せ、手のひらをペロペロとなめだした。
「リューイ殿、話は聞きましたが…本当に、この狼とスティア嬢を連れてゆくのですか?」
「ああ、スティアの言うことしか聞かないようだからね。」
ライカは檻の中のキラルと火花が散るように睨み合った。
「…スティア嬢その狼には気をつけて。」
ライカは前に遮るように立つスティアの肩に手を伸ばし引き寄せ、再びキラルを睨んだ。
「大丈夫ですよ。」
スティアは肩に伸ばされたてに自分の手で触れながら上目遣いに見上げれば、ライカは思わず顔を赤くし、見られないよう顔を背けた。
「リューイ殿そろそろ。」
「ハッハッハ。娘は人気者だね。スティア、悪いが荷馬車に乗ってもらうからね。」
「はい。今日は、よろしくお願いします。」
スティアはピンクのドレスの裾をつまみ白いズロースをわずかに見える状態でペコリと頭を下げた。
屋敷の扉前では執事と母のルティーに見守られ、布張りの荷台に檻が乗せられ、檻を監視する兵士とスティアも手を引かれて乗り込んだ。
リューイの乗る馬が先に走り出し、ライカの乗る馬があとに続く。後を追うように荷馬車は走り出した。
屋敷を出発した一行は広い敷地の道を走りぬけ、要塞の壁を目前にし、開け放たられた門を抜ければ、待機していた騎兵隊がリューイたちの後に続き馬を走らせた。
人数の増えた一行は塀の外の荒れ地を走りぬけ、目的地である、北の砦近くの集落にたどり着いた。
††††
キラルは魔法を使い…時には人の姿になり、集落を元の姿へと修復していった。
「キラル、私も何か手伝わせて。」
スティアは少しだけ手伝おうとすれば、人間の姿のキラルがそれを阻んだ。
「スティアお嬢様、私におまかせください。」
スティアの為に、キラルは休みなく働き、夕方を迎えたのだっ。
集落を元に戻した頃、監視の為に一部の騎兵隊を残し砦視察でその場から離れていたリューイとライカが様子を見に戻ってきた。
侍女の姿のキラルは、胸を張り、「やってやったぞ!」と言いたげに威張れば、様子を見ていたスティアがぞろぞろと北の砦に避難していた集落の住民が戻ってきたのを目にし、キラルのもとへと駆け寄った。
「キラル、集落の皆に謝るんですよ。」
「…は…い。」
キラルはその姿のまま渋々あたまを下げた。
「家をめちゃくちゃにしてすみませんでした!」
「なんだ?誰だ?」
ざわつき出した住民を前にスティアはキラルに本来の姿になるよう指示をすれば、キラルは大きな体の1角狼へと姿を変えた。
「私の本当の姿です。」
「なんてことだ。」
皆驚愕し、しばらくフリーズ。時間をかけて理解した住民は家へと戻っていったのだった。
0
お気に入りに追加
123
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない
ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。
既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。
未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。
後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。
欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。
* 作り話です
* そんなに長くしない予定です

家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
踏み台令嬢はへこたれない
三屋城衣智子
恋愛
「婚約破棄してくれ!」
公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。
春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。
そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?
これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。
「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」
ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。
なろうでも投稿しています。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる