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しおりを挟む父リューイ・メディアンは深手を負って3週間は安静にするよう言われて、療養1週間ほど立つ頃、スティアは毎日庭の隅で隠れるようにして前世の力を発動させるために精神を集中させようと試行錯誤していた。
「どうして。記憶どうりにやってるのに、何もできないの…ひっく。えっぐ。ぐすん。」
スティアが泣き崩れると、ルルとキキがどこからか駆け寄りスティアを挟み寝転がり、もふもふの毛で包みこむとスティアとそのまま眠り始めた。
「健気だな。」
そこに現れたのはライカ・ビルタ。リューイと辺境の地を守る彼は、リューイの様子を見にメディアン邸に訪れていた。窓の外を見れば庭の植木の影に隠れるようにして魔法の練習をしている(そう見えている)スティアの姿が目に入り、思わず庭に足を向けた。
ライカが近くにゆく頃にはスティアは疲れて狼の毛に埋まるようにすやすやと眠っており、ライカは気持ち良さそうに眠るスティアを間近でしゃがみこみ眺めていた。鉄壁無表情なライカは思わず手を伸ばし、恐る恐る人差し指でスティアの頬を優しく突いた。
ワインレッドの長い髪を後ろに束ねた白い騎士服のライカは塀の外では気を抜けずに過ごしていたが、この時ばかりは緊張感もなく、スティアの頬の弾力に思わずくすりと笑みがこぼれる。
「塀の中は今日も平和だな。この平和を守るためにも…もっと強くならなくては…」
ライカは小さくつぶやくと、スティアのまぶたがピクリと動き、ゆっくりと目を開けると、視界に入る鉄壁無表情に戻ったライカがしゃがんだままじっとスティアを見つめていた。
「ほへ?はっ!ライカ様」
「スティア嬢は何をしていたの?」
「見ていたのですか?」
「うん、なんだか魔法の練習をしているように見えたのだけど…?」
「はい。あ、えっと…前世の力を…発動できないかと…。」
ライカは首を傾げ少し考えた後、夢の話かと解釈した。
「スティア嬢、夢の人…否、前世の人はどんな人か知らないけど、発動できないのは今のあなたの体と違うからじゃないかな?」
「あっ。そうかも!前世は人間じゃなかったし、邪悪な力を持っていたからかもしれませんわっ。」
ライカは一瞬言葉を無くし目をぱちくりさせ、脳内では混乱中だった。
(小さくて皆に愛されて育ったお嬢様がどんな夢を見てるんだ?)
「ああ。今のスティア嬢は人間の子供だ。」
「はい、そうです。」
スティアは狼ルルとキキのふわふわな毛から飛び出し立ち上がると目に涙をためうつむいた。
(それにしても、この狼達は本来警戒心が強く、飼うには難しい種類だよ?スティアにはとても懐いているし、屋敷の人間にも危害を加えてはなさそうだし。)
「スティア嬢、この狼達はどうやって懐かせた…?」
「ふぇ?あっ、キキとルルは塀を超えて侵入してお庭にいた私とお友達になってくれたんです!」
「それだけで友達に……?」
「う~ん、両手を広げて…おいでって言ったら私の両手が蒼く光ったきがしますけど…おっきくてもふもふな生き物が好きだからかも。」
「そう…。」
ライカはそれ以上の追求はやめておくことにした。話を聞て解った事はスティアには魔力は感じなかったがそれとは別に…動物を惹き付ける能力があるのは確かだった。
「もう戻らないと…スティア嬢、きっと大丈夫だ…」
ライカはスティアの頭を撫で、立ち上がるとスティアに背を向けてそのまま屋敷を後にしたのだった。
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