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8話【ルイスの家族】*
しおりを挟むヨナの部屋に泊まったその日、ルイス・ガーゼルは部屋を出てきたところを魔導師に見られていた。そのため、本日の業務を中断しとある場所に呼び出されていた。そこは総大将の執務時の部屋。軍を統べる総大将ルカイ・ガーゼルはルイスの父であり、王族とは親戚関係にある人物。ルイスは21歳を迎え婚約者候補もちらほら出始めてもおかしくない時期に『魔女の部屋からの朝帰り、前日の遠征での魔女を抱き締める行動』魔導師の報告と、ルカイの内通者である騎士の報告で明らかになった。
・ * ・* ・ * ・
「ヨナ・ルハン、この魔女は隣の国から派遣されてるそうだな。噂はすぐに広まるぞ?どうするつもりだ。それに、マルスーン国の小さな村出身だと言うじゃないか、お前と釣り合わないんじゃないのか?」
「失礼ですが、マルスーン国では最高位の魔女は王族と同等だとか、ヨナもその末裔。最高位の魔女から認められた存在です。」
父ルカイの言葉にルイスは食い下がるきなど毛頭なく、唯一興味を抱いたヨナを諦めるつもりもなかった。
「だが現在彼女は派遣魔女の身。いつかは国へ戻るだろう?彼女がその後に相応しい状態で現れたら認めてやってもいいだろう。話は以上だ。持ち場にもどれ!」
ルイスは追い出されるように部屋を後にした。
ヨナの派遣任期はこの国の生きた図書をコントロールできるとされるAクラスの魔導師の誕生まで。そして、前任の魔導師が病んでしまいAクラスの魔導師は不在。しかし、現在Bクラスの魔導師数人がAクラスへランクアップするため試験が繰り返されている。ヨナはいついなくなってもおかしくない身。ルイスは壁に拳を当て苛立ちを抑え、また歩きだした。
(今まで女性に限らず、こんなに執着したことなんて初めてだ、絶対に手放したくない!誰がなにをいようとあいつは私のモノにするんだ。)
「絶対に…」
・ * ・* ・ * ・
ルイスと朝を迎えたヨナは一日、使い物にならなかった。恋を始めた少女のように、図書の本達の修理の手がたびたび止まりポォ~っとして、カウンターで順番待ちで積み上げられた本がしびれを切らしヨナの頭に本を広げて被さり『がふがふ』とヨナの頭を挟めばようやく作業が進む。
従魔となった鳩と蝙蝠は朝の状況を知っていたため『人間って面倒だなあー』と思いながら、仕方なくヨナの仕事のサポートをしていた。
ヨナは朝からルイスに押し倒された光景が頭から離れず、おまじないのキスを彼は『誘っている』と思い込み衝動的に押し倒した。ヨナは鼓動か高くなるのを感じ、背を向け去っていったルイスの背中に寂しさを抱いた。
(もう嫌われてしまったのかもしれない)
ヨナは、嬉しいことや不安が入り交じり一日気持ちは激しく浮き沈みを繰り返しながら作業を終えたのは日も暮れた頃。ヨナは物がなくなり広くなったカウンターに突っ伏し、深いため息をついた。
蝙蝠『幸せが逃げるぞ。』
鳩『男性経験がないのね?』
頭に乗っかる蝙蝠と鳩をヨナは振り払うように起きあがる。
「キスくらいあります!」
鳩『元カレのキスよね?って!処~××ぐはっ!』
鳩の言葉を遮り、蝙蝠が羽をばたつかせて鳩の頬をぶち、小さな喧嘩が始まった。
蝙蝠『お前はデリカシーに欠けてる!』
鳩『ぶたなくてもいいでしょ!』
「図書室閉めるよ!二人とも今日はありがとう。私はもう部屋で休みます。じゃあね。」
ヨナは二人?のやり取りを気にすることなく奥にある自分の部屋へと去っていった。
・ * ・* ・ * ・
ある日、ヨナの図書室に総大将が訪ねてきた。
「本を探してる」
「どういったものです?」
カウンター前に現れた総大将ルカイ(ルイスの父)に、カウンター奥椅子に座るヨナは立ち上がるとペコリとお辞儀をして、カウンター横の扉からルカイの前に現れた。
「そうだな、魔女についてわかる本が見たいんだが?」
「はあ、魔女ですか?そうですね、あちらの書棚ですが少し危険な子達がいますから同席させていただきます。」
ルカイは(本だぞ?危ない子達って?大丈夫かこの魔女…)など、ヨナへ不信感を抱きながら奥の書棚へとヨナの案内で向かったのだった。
明かりがあまり届かないその書棚周辺はうめき声や、恨みの声が響き渡りルカイ(ルイスの父)は恐怖のあまり足を止めた。
「なんなんだここは。」
「ん~皆不機嫌ですね、念のためにあなたの回りに呪い避けの魔法をかけておきましょう。」
ヨナはくすりと笑い、右の人差し指をくるくると回せば紫色の光の粒が渦を巻き、ルカイの体をくるくると回り包み込み、光の粒はルカイの体へと染み込んでいった。
ヨナは近くの椅子にルカイを案内し、その前に置かれたテーブルに、棚から降ろしてきた本をルカイの前へと並べていき調べものの『魔女本』はどの本かと聞くと、ルカイは迷うことなく一冊の本を指差した。『マルスーン国の古の魔女と三人の娘』
ヨナはルカイの顔をよく見れば、ルイスとよく似たその鋭い目つきにはっとした。そして、彼がルイスの親だと確信し、ヨナはテーブルにろうそくを灯したランプをおきルカイの前に本を差し出せば、ルカイは心配そうにテーブル越しに立つヨナに声をかけた。
「だ大丈夫なのか?」
「はい、私の先祖たちが記した本ですから、末裔の私が側にいるので大丈夫ですよ。」
ヨナはそう言うと書棚に掛けた梯子を渡り、取り出した他の本をしまっていった。
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