魔女に惚れた冷酷将官の求愛

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1話【誤解と出会い】*

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 いにしえの魔女が1000年前に築いた魔女の国マルスーン。当時国を築いた魔女はなくなるそのとき3人の娘に力を与えた。その後、二人目の娘は国の王に夫を迎え、一人目の娘は母の地位を継承して最高位の魔女として国の象徴となり、魔女の力の継承者を増やすため学校を設立。末の一人は自由奔放に旅に出て所在不明。三人の中で一番魔女の力を宿していたと諸説しょせつあるがさだかではない。わかっているのは、国内の何処かにいるはずということだけ。


それから1000年の時を越え、マルスーン国の魔女学校の卒業生に、いにしえの魔女の血を色濃くもつ容姿の少女がいた。白銀の長い髪に紫の瞳をもつ少女。1000年ほど前、魔女の末の娘が自由奔放に旅に出た先で住み着いた村がある。今は娘の名を継いでルハン村と呼ばれている。少女はその村出身で村長の娘ヨナ。魔女学校を卒業し晴れて魔女となったヨナは、最高位の魔女の勅命のもと、ナハース国の魔力が宿るとされる図書を管理する魔女として派遣されることになったのだった。

・ * ・* ・ * ・

 魔女となった娘たちは卒業前に従魔と契約することになっており、ヨナは狂暴な巨体の白い狼の聖獣と契約を交わした。紫色の魔女の服(丈の長いワンピース)の上には藍色のフードのあるコートを身につけ、契約した…従順な白い巨体の従魔の狼にまたがり王都を抜け荒れ地を移動していた。

 日が沈み、テントを張り野営をした。翌朝には簡単に食事を取り早朝に再び移動を始めた。

 隣国との国境、門前でヨナは立ち止まり検問を受け、コートのポケットから通行証明書を取り出して見せた。

「マルスーン国からの魔女様ですね。確かに確認いたしました。許可いたします。」

開け放たれた門を前に、ヨナは従魔にまたがり門をくぐればそこは荒れ地の広がるナハース国。ヨナをのせた従魔はスキップするように駆け出していた。

その先には戦ってきたのだろう疲れ果てた、武装した部隊と遭遇した。ヨナは素性を隠すようにフードを深く被ると、関わらないようにすれ違う。

従魔の背には荷物ものせているため、すれ違う兵は国へ行商に来た商人かもしれないと思ったのだろう。関心も示さずに通りすぎ、ヨナは兵たちの来た方角へと進む。

その先には、辺りの様子を見て回る別の部隊らしき兵たちと馬にのる数名の騎士がいた。ヨナが、武装した兵隊とすれ違う頃から一人だけ、こちらの様子をずっと見ている騎士がいた。その人物は中将の印である赤い腕章を付けた、その騎士はこちらへと進みヨナを指差し、声を発した。

「怪しいやつがいる。そやつを捕らえろ!」

 周辺を見回していた騎士が真っ先に馬を走らせヨナの周りを取り囲み、従魔はヨナをのせたまま警戒体制になっていた。

「今、このあたりで反乱軍を撤退させた。隠れているものがいないか警戒中である。おとなしくこちらに参られよ。」

「ウ~」

牙をむき出し威嚇する狼にヨナは優しく声をかける。

「ルー、落ち着いて。」

 ヨナは従魔から降りると狼の首もとを優しく撫で落ち着かせると、囲む騎士たちに向け深々とお辞儀をした。

 「マルスーンより参りました、ヨナ・ルハンともうします。只今王都を目指しているところでございます。」

「フードを外せ!」

 ヨナの挨拶の途中、しびれを切らした部隊の中心者の将官らしき男が馬を走らせ駆け寄ると、ヨナの被るフードをシャッ!と切り裂く。フードはハラリと半分に裂け、ヨナの白銀の長い髪が風に靡いて現れ、珍しい髪色にはっとした騎士の一人が呟いた。

「マルスーンの…魔女。」と。

 将官の剣が馬上からヨナの頭上に振り下ろされる直前、将官の男に飛びかかろうと動いた従魔の狼の鼻先をヨナは『きゅっ』と小さな手で掴んだ。

「だめよ。」
「キュ~ン」

 力ない声をだす狼を抑えたまま、裂けたフードから顔を見せたヨナはその宝石のように妖しく輝く紫色の瞳でまっすぐその将官を見つめた。

「何のご用でしょうか?私は国から勅命を受けこのナハース国へ参ったのですが。」

 馬上の将官は、殺気に満ちた表情をしたまま押し黙り、手にもつ剣を腰の鞘へと収めた。

「不審者ではないようだな。」

 将官は馬から降りるとヨナへと歩み寄った。

「この辺りは先程の反乱軍の残党が撤退せずにとどまっている可能性があるため疑ってしまった。私はルイス・ガーゼル中将だ。あなたの事を教えてくれないか?」

「私はヨナ・ルハン。マルスーンの魔女です。お城の図書の管理を任されて参りました。急いでいるので、ご用がなければ失礼します。」

 ヨナは狼の鼻先を撫でながらルイスに答えると、狼のルーはしゃがむようにしてヨナを背中にのせて走り出した。

「コートを弁償させてくれないか?」

ルーが少しだけ前に進み足を止めると、狼の背から振り返るヨナは指をくるくる回せば紫色の小さな星粒が渦を巻き裂けていたフードを修復し、ヨナは笑いながら被ると、手を降った。

「お気遣いなく、これぐらいすぐ直せます。さようなら、中将様。」

 ヨナの藍色のロングコートが風に靡けば、その下に着ている魔女が着る紫色のワンピースの裾がわずかに見え隠れするように、去って行くヨナを無言で見送るルイス。その背後に集まる部下たちは、いつもなら冷酷に不審者を裁くルイスが、ヨナの姿を目にした瞬間から僅に相手を配慮したことに驚きを隠せずにいた。

「ヨナ殿また会おう。無礼を詫びなくては。」

 ルイスは誰にも聞こえない声で小さく呟くと、きを取り直し再び殺気に満ちた表情に戻ると馬にまたがり、指揮を取った。

「さあ、残党がまだ近くにいないかくまなく調べよ!」

「「はっ!」」

 部隊はほぼ同時に返事をすると一斉に捜索に取りかかったのだった。

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