13 / 13
12,酒 その3
しおりを挟む部屋へと戻ったリディアは、身を清めて夜着に着替えた後、寝台の縁に腰を降ろした。
「クラリーチェ様は、一体何が仰いたかったのかしら…………」
リディアがテオをどう考えているか。
その答えがクラリーチェに返したものでないとすると、何が正解なのだろう。
考えれば考えるほど、迷路の奥に入り込んでしまったかのような気持ちになる。
俯いて、じっと握り締めた手を見つめていると、いよいよ目が冴えてきてしまった。
「………このままじゃ、眠れそうにないわ」
テオの事を考えると、気持ちがざわざわとするかのようで落ち着かないのは確かだった。
リディアは立ち上がると、窓辺へと向かい、窓を開け放った。
深まった秋の夜風が冷たくリディアの頬を撫でる。
「テオ様は今、何をしているのかしら…………」
人好きのするテオの爽やかな笑顔を思い浮かべると、また妙に胸のあたりが擽ったいような気がして、リディアはその感覚を押し込めるように月を見上げた。
青白く冴えわたる月は十三夜の月だった。
ひんやりとした月明かりが、不安定に揺れ動くリディアの心の中を見透かすように舞い降りてきた。
「………リディア嬢?」
不意に名前を呼ばれて、リディアは飛び上がった。
慌てて声の主を探すと、窓の下からリディアを見上げるテオの姿を見つけた。
普段は常に周囲に目を配り、微かな気配でも察知できるように神経をとがらせているのに、声を掛けられるまで全く気配に気が付かなかった事に、リディア自身が一番驚いていた。
「すみません、驚かせてしまいましたか?」
「あ、いえ…………」
まるでただの令嬢のように、呆けていたと思われたくなくて、リディアはふいっとテオから視線を外した。
「………夜は冷えます。どうして窓を開けているんですか?」
「目が冴えて、眠れなかっただけです。テオ様こそ何故こんな夜更けに他国の王城の庭を歩き回っているのです?」
「護衛として付いてきているのに夜間の護衛は全てオズヴァルドの騎士に任せるのは申し訳なくて、オズヴァルドの国王陛下の許可を得て、こうして見回りをしているんです」
少しはにかみながら、テオがリディアに視線を向けてくる。
相変わらず呆れるくらいに真っ直ぐな、迷いのない視線だった。
「女性があまり身体を冷やすのは良くないと聞きました。………眠れないのならば、ただ横になって目を瞑っているだけでも疲れは取れるはずですよ」
「………分かって、います」
どうしてこんなにも可愛げのない、素っ気ない返事を返してしまうのだろうと自分で思いながらも、ついそうしてしまうのは、彼の真面目さと、妙な優しさに無性に腹が立つからだとリディアは自分に言い聞かせた。
「テオ様こそ、風邪でも引いて陛下やお兄様に迷惑をかけないで下さいませ。………では、私はこれで失礼します」
「あ…………っ」
テオが何かを言いかけたことに気がついたが、敢えて知らん顔をして、リディアは窓を乱暴に締めた。
どうしてこんなにも、苛立つのだろう。
どうしてこんなにも、悔しいと感じるのだろう。
どうしてこんなにも、彼が気になるのだろう。
「眠れないのは、あなたのせいよ………」
思い通りにならない、暴れる感情を無理矢理呑み込むと、リディアはそのまま寝台へと倒れ伏したのだった。
「クラリーチェ様は、一体何が仰いたかったのかしら…………」
リディアがテオをどう考えているか。
その答えがクラリーチェに返したものでないとすると、何が正解なのだろう。
考えれば考えるほど、迷路の奥に入り込んでしまったかのような気持ちになる。
俯いて、じっと握り締めた手を見つめていると、いよいよ目が冴えてきてしまった。
「………このままじゃ、眠れそうにないわ」
テオの事を考えると、気持ちがざわざわとするかのようで落ち着かないのは確かだった。
リディアは立ち上がると、窓辺へと向かい、窓を開け放った。
深まった秋の夜風が冷たくリディアの頬を撫でる。
「テオ様は今、何をしているのかしら…………」
人好きのするテオの爽やかな笑顔を思い浮かべると、また妙に胸のあたりが擽ったいような気がして、リディアはその感覚を押し込めるように月を見上げた。
青白く冴えわたる月は十三夜の月だった。
ひんやりとした月明かりが、不安定に揺れ動くリディアの心の中を見透かすように舞い降りてきた。
「………リディア嬢?」
不意に名前を呼ばれて、リディアは飛び上がった。
慌てて声の主を探すと、窓の下からリディアを見上げるテオの姿を見つけた。
普段は常に周囲に目を配り、微かな気配でも察知できるように神経をとがらせているのに、声を掛けられるまで全く気配に気が付かなかった事に、リディア自身が一番驚いていた。
「すみません、驚かせてしまいましたか?」
「あ、いえ…………」
まるでただの令嬢のように、呆けていたと思われたくなくて、リディアはふいっとテオから視線を外した。
「………夜は冷えます。どうして窓を開けているんですか?」
「目が冴えて、眠れなかっただけです。テオ様こそ何故こんな夜更けに他国の王城の庭を歩き回っているのです?」
「護衛として付いてきているのに夜間の護衛は全てオズヴァルドの騎士に任せるのは申し訳なくて、オズヴァルドの国王陛下の許可を得て、こうして見回りをしているんです」
少しはにかみながら、テオがリディアに視線を向けてくる。
相変わらず呆れるくらいに真っ直ぐな、迷いのない視線だった。
「女性があまり身体を冷やすのは良くないと聞きました。………眠れないのならば、ただ横になって目を瞑っているだけでも疲れは取れるはずですよ」
「………分かって、います」
どうしてこんなにも可愛げのない、素っ気ない返事を返してしまうのだろうと自分で思いながらも、ついそうしてしまうのは、彼の真面目さと、妙な優しさに無性に腹が立つからだとリディアは自分に言い聞かせた。
「テオ様こそ、風邪でも引いて陛下やお兄様に迷惑をかけないで下さいませ。………では、私はこれで失礼します」
「あ…………っ」
テオが何かを言いかけたことに気がついたが、敢えて知らん顔をして、リディアは窓を乱暴に締めた。
どうしてこんなにも、苛立つのだろう。
どうしてこんなにも、悔しいと感じるのだろう。
どうしてこんなにも、彼が気になるのだろう。
「眠れないのは、あなたのせいよ………」
思い通りにならない、暴れる感情を無理矢理呑み込むと、リディアはそのまま寝台へと倒れ伏したのだった。
0
お気に入りに追加
150
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(3件)
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?


セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
班長の力…強い…!
班長権限(暗黙の了解)強いな…
退会済ユーザのコメントです
参考になるほどの描写をできているかどうか分かりませんが……
これからも気ままにゆっくり更新していきますのでどうかよろしくお願いします!