スカートの中を覗きたい騎士団員達

白木 白亜

文字の大きさ
上 下
13 / 13

12,酒 その3

しおりを挟む


(しっかりしろ、俺。今はユリシーズのことだけ考えろ)

 ゆっくりと肺から息を吐きだして――今度は、大きく吸い込む。
 空気は悪いが、それでも、脳に目一杯の酸素を送り込む。

 そして気合いを入れ直し、脳内で出口までの距離をはじき出した。

 ――入口から崩落場所までにかかった時間はおよそ二十分。
 だが、うち半分以上は魔物との戦闘に費やした。

 ということは、実際に歩いた時間は長くて十分。歩行速度は分速八十メートル……だが、実際はもっと遅かっただろうし、立ち止まったりもした。それを考慮すると、分速六十メートルくらいだろうか。
 ――となると……。

(せいぜい六百メートルってところか。だが既に半分は過ぎているはず。つまり残りは三百メートル。……ハッ、楽勝だ)

 こうやって数値に表すと、漠然とした不安が消える気がする。

 データは希望にも絶望にもなり得るが、出口があるとわかっている今は希望の方だ。
 このまま魔物と遭遇しなければ、五分後にはマリアのところに辿り着けるのだから。


 ――だがそう思ったのも束の間、俺は直感的に足を止めた。
 前方から、何かが忍び寄る気配がする。


「とうとう来たか……」


 俺は背中からユリシーズを下ろし、地面に横たえた。

 グレンは逃げてもいいと言ったが、この狭い坑道で、迫りくる魔物から逃げきるなど不可能に近い。
 たとえ逃げたとしても、今の右足の状態ではすぐに追いつかれるに決まっている。

 つまり、倒す以外の選択肢は――ない。


「俺だって、やるときはやるんだよ」


 俺は自身を鼓舞するように呟いて、聖剣を引き抜いた。
 正面で構え、近づいてくる敵の様子を伺う。

 そして数秒の後、暗闇から姿を現したのは、瘴気をたっぷり吸いこんだであろう巨大な蛇だった。

「……っ」

(――でかい)

 長さは十メートル近く。大きな顎に鋭い牙、魔物特有の赤い瞳。
 食事の後なのか、胴がいびつな形に盛り上がっている。

 そのシルエットに、俺はどうしようもなく勘づいてしまった。

「……こいつ、まさか……」

(人間を……喰ってやがる……!)

 ここに入ったときから違和感は感じていた。
 マリアは遺体が放置されていると言ったのに、実際は誰一人見当たらないことに。

 俺はその理由が、ここが入口付近だからだと思っていた。
 けれど違ったのだ。この蛇が、人間の身体を丸呑みにしていたからなのだ。

「――っ」

 ああ……駄目だ。怖い。怖くて……足がすくんでしまう。

 魔物は人を襲う。それはグレイウルフと戦って、よく理解していたはずなのに。
 ユリシーズが隣にいないことが、自分一人で戦わなければならないことが、こんなにも恐ろしいことだったなんて……。


 ――でも……。





「……来いよ」





 ユリシーズは俺を守ってくれた。だから今度は、俺がユリシーズを守る番だ。

 それに、俺が手にしているのは聖剣。天下の大神官、サミュエルの聖剣だ。蛇ごときに負けるはずがない。

 俺は大蛇を見据え、剣先を向ける。


「お前は俺が倒す。これは決定事項だ」


 魔物に人間の言葉がわかるわけがない。まして蛇だ。犬や猫ではなく、蛇。
 そんな奴に、何を言ったって無駄。そんなことは百も承知だ。

 けれどそれでも、俺は言わずにはいられなかった。

 殺さなければ、殺される。
 
 そんな状況で、俺はそうでも言わなければ、今にも逃げ出したくなる気持ちを抑えてはいられなかった。


ってやる」


 こいつは俺がここで殺す。
 それ以外に、俺たちが生き延びる方法はないのだから。


 俺は蛇と睨み合う。


 そして数秒の後――蛇が動きだすと同時に――俺は一気に間合いへと踏み込んだ。
しおりを挟む
感想 3

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(3件)

白雪 氷華
2024.09.14 白雪 氷華

班長の力…強い…!

解除
TenTem
2022.01.23 TenTem

班長権限(暗黙の了解)強いな…

解除
2020.07.28 ユーザー名の登録がありません

退会済ユーザのコメントです

白木 白亜
2020.08.04 白木 白亜

参考になるほどの描写をできているかどうか分かりませんが……

これからも気ままにゆっくり更新していきますのでどうかよろしくお願いします!

解除

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

コントな文学『パンチラ』

岩崎史奇(コント文学作家)
大衆娯楽
春風が届けてくれたプレゼントはパンチラでした。

お兄ちゃんはお医者さん!?

すず。
恋愛
持病持ちの高校1年生の女の子。 如月 陽菜(きさらぎ ひな) 病院が苦手。 如月 陽菜の主治医。25歳。 高橋 翔平(たかはし しょうへい) 内科医の医師。 ※このお話に出てくるものは 現実とは何の関係もございません。 ※治療法、病名など ほぼ知識なしで書かせて頂きました。 お楽しみください♪♪

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。