スカートの中を覗きたい騎士団員達

白木 白亜

文字の大きさ
上 下
6 / 13

5,班外の苦悩

しおりを挟む
キエザの冬は、厳しいとは言わないまでも、底冷えするような寒さの日が続く。
長く残ることは珍しいが雪も降るし、霜が降りたり、霧が発生する日も多い。
そんな冬がようやく終わりに近づいてきた、ある日のこと。

「クラリーチェ、戻ったぞ」

慌ただしい足音が近づいてきたかと思うと、執務室の扉が開け放たれ、エドアルドが姿を現した。

「お帰りなさいませ。港の様子はいかがでしたか?」

クラリーチェは立ち上がり、机の前まで進み出ると夫を出迎えた。

「ああ、特に問題はなかった。メルルッツォが今期は豊漁だそうだ」
「それは喜ばしいことですね」

クラリーチェが微笑むと、エドアルドもそれにつられるように笑みを浮かべる。
そして徐に、羽織っていたマントの下から小さな花束を取り出すと、クラリーチェに差し出した。

「………港からの帰り道で、たまたま見つけたのだが………受け取ってくれるか?」
「まあ………これは、ミモザの花束ですか?」

差し出された花束を受け取りながら、クラリーチェは目を見開いた。
黄色い小さな綿毛のような小花が、オリーヴの葉と共に水色のリボンで束ねられていた。

「ああ。港の入り口にある花屋の店先で見かけて、たまには花の贈り物も良いだろうと思ったのだ。………その花屋の店主から教えてもらったのだが………ミモザの花言葉は『感謝』なのだそうだ。いつも私を隣で支えてくれる素晴らしい妃に、感謝の気持ちを伝えるには丁度いいだろう?」
「感謝だなんて………私がエドアルド様をお支えするのは、当然の事ですわ。だって、夫婦とはそういうものでしょう?でも………ありがとうございます。嬉しいですわ。………まるでここだけ、春がやってきたような華やかさがありますね」

クラリーチェがすうっと息を吸い込むと、ミモザの優しくて甘い香りが鼻孔を擽った。
それだけで、本当に南風が室内を吹き抜けていくような錯覚に囚われた。

「ミモザは春の訪れを告げる花だからな。机に飾っておけば楽しめるだろう」

可愛らしい、たわわに実る黄色い葡萄のような花を愛おしげに見つめるクラリーチェの反応に、エドアルドは満足そうに笑みを零す。

「………春は、もうすぐそこまで来ているのですね」
「ああ。暖かくなったら、また出掛けよう。今度はラファエロ達も一緒でもいい」
「でも、政務はどうされるのですか?」
「二、三日くらいなら、宰相やグロッシ侯爵たちで十分だ。我が国の貴族達は皆有能だからな」

そう言って悪戯っぽく片目を瞑って見せるエドアルドに、クラリーチェも笑顔を浮かべて頷いた。

「そうですね。春が来たら、参りましょうか」

クラリーチェがふと花束から、窓の方へと視線を移す。
大きな窓から差し込む陽射しは、いつの間にか柔らかな春の気配を纏っているように見える。

「ああ。楽しみだな」

エドアルドはそんなクラリーチェに寄り添うと、優しく額に口付けを落とすのだった。




***あとがき***

いつもお読みいただきありがとうございます!
今日は国際女性デー。イタリアでは男性から女性に、ミモザを贈る日なのだそうです。
作者も大好きな花であるミモザをテーマにしたお話です。
お楽しみ頂ければ嬉しいです!
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

コントな文学『パンチラ』

岩崎史奇(コント文学作家)
大衆娯楽
春風が届けてくれたプレゼントはパンチラでした。

お兄ちゃんはお医者さん!?

すず。
恋愛
持病持ちの高校1年生の女の子。 如月 陽菜(きさらぎ ひな) 病院が苦手。 如月 陽菜の主治医。25歳。 高橋 翔平(たかはし しょうへい) 内科医の医師。 ※このお話に出てくるものは 現実とは何の関係もございません。 ※治療法、病名など ほぼ知識なしで書かせて頂きました。 お楽しみください♪♪

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...