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第5章 慈愛の聖女、クラリス
43,真相
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「ただいま参りました、勇者タツシです。」
タツシは謎に満ちた第一王女室に入った。
一歩入ったその瞬間から、この部屋の圧倒的な異質さにタツシは驚愕した。
タツシがいる場所からまっすぐ赤い絨毯が敷かれ、その絨毯の脇におまけとばかりにテーブルやソファがある。
そして部屋の側面の壁にはガラスでできた直方体のランタンが格子点状に規則的に、白色の石の壁の中に埋め込まれ、その一つ一つが赤い炎を揺らし窓一つない室内を静かに照らしている。
そして、タツシがいる場所から伸びる赤い絨毯の道の最奥には、縦に1メートル以上あるであろう巨大な燭台が置かれ、その上に三つの巨大な青い炎。
その青い炎を見つめるかのようにタツシに背を向けている真っ赤な髪の少女こそが、第一王女その人だ。ただ、青い光の逆光になってほとんど王女の姿は目視できない。
ここは本当に王女室で間違えていないか、不安になるが一度出て確かめることなど到底できない。
なんと言っても、入った瞬間にゴトンという扉が固定された音がしたのだから。
この部屋の雰囲気、そして今の状況。
(これじゃあまるでラスボス戦じゃないか!!!!!)
とタツシが思った直後、王女がタツシの方を向き、口を開いた。
「やっと会えましたわ。勇者タツシ。話に聞いていはいたけれど、やっぱりあなた、いい眼差しをしているわ。」
「は、はぁ……」
「決めたわ! 勇者タツシ、私と結婚しなさい!!!!!!」
タツシは脊髄反射で土下座の姿勢になった!
「ごめんなさい王女様! それは絶対にできません! 私には、すでに、心に決めた人がいるのです!!」
「あら、そうなの? それはどんなひと?」
王女は透き通った声で、ゆっくりと、タツシの心に直接響かせるように声を発している。
「あ、あのっっ……聖女です。聖女クラリスです。」
「誰かなんて聞いていないわ。どんなひとなのよ」
「ほっ本当に優しくて、いい人で……強くて……」
「じゃあ私が聖女より優しくて、強くて、いい人であればいいわよね?」
「……だめなんです。」
「どうしてよ」
「彼女は……私が初めてこの世界への希望を見出した、きっかけの人なんです。私は正直前の世界では全く人の役に立つことなんてしてきませんでした。
そんな私が……私が最初に頑張ろうと思えたのは、神殿で聖女クラリスに会って、その時のクラリスの優しいほほえみを見て、こんな美しい人がいるのなら、この世界もまた同じように美しく、私はそれを守るべきなんだと、そう思ったからなんです。
だから、俺は、クラリスじゃなきゃだめなんです。ごめんなさい。」
「そう、そうなのね。でも、それじゃあやっぱりあなたは私と結婚することになるわ。」
「は……?」
もう何を言っても事態は変わらないのか、と絶望したタツシに向かって、王女がまっすぐ歩いてきた。
一切の足音が存在しないが、タツシは今地面におでこをつけているのだ。だから振動で歩いていることは分かる。
「顔を上げなさい、勇者タツシ。」
タツシはゆっくり顔を上げた。目にわずかながらの涙を浮かべて。
いつの間にか燭台に燈っていた青い炎が消え、ここで初めてタツシは王女の顔を見た。
「申し遅れたわ。私はアルガレナ王家第一王女の――
クラリス・アルガレナよ。今まで隠してきてごめんなさい。タツシ。」
タツシは謎に満ちた第一王女室に入った。
一歩入ったその瞬間から、この部屋の圧倒的な異質さにタツシは驚愕した。
タツシがいる場所からまっすぐ赤い絨毯が敷かれ、その絨毯の脇におまけとばかりにテーブルやソファがある。
そして部屋の側面の壁にはガラスでできた直方体のランタンが格子点状に規則的に、白色の石の壁の中に埋め込まれ、その一つ一つが赤い炎を揺らし窓一つない室内を静かに照らしている。
そして、タツシがいる場所から伸びる赤い絨毯の道の最奥には、縦に1メートル以上あるであろう巨大な燭台が置かれ、その上に三つの巨大な青い炎。
その青い炎を見つめるかのようにタツシに背を向けている真っ赤な髪の少女こそが、第一王女その人だ。ただ、青い光の逆光になってほとんど王女の姿は目視できない。
ここは本当に王女室で間違えていないか、不安になるが一度出て確かめることなど到底できない。
なんと言っても、入った瞬間にゴトンという扉が固定された音がしたのだから。
この部屋の雰囲気、そして今の状況。
(これじゃあまるでラスボス戦じゃないか!!!!!)
とタツシが思った直後、王女がタツシの方を向き、口を開いた。
「やっと会えましたわ。勇者タツシ。話に聞いていはいたけれど、やっぱりあなた、いい眼差しをしているわ。」
「は、はぁ……」
「決めたわ! 勇者タツシ、私と結婚しなさい!!!!!!」
タツシは脊髄反射で土下座の姿勢になった!
「ごめんなさい王女様! それは絶対にできません! 私には、すでに、心に決めた人がいるのです!!」
「あら、そうなの? それはどんなひと?」
王女は透き通った声で、ゆっくりと、タツシの心に直接響かせるように声を発している。
「あ、あのっっ……聖女です。聖女クラリスです。」
「誰かなんて聞いていないわ。どんなひとなのよ」
「ほっ本当に優しくて、いい人で……強くて……」
「じゃあ私が聖女より優しくて、強くて、いい人であればいいわよね?」
「……だめなんです。」
「どうしてよ」
「彼女は……私が初めてこの世界への希望を見出した、きっかけの人なんです。私は正直前の世界では全く人の役に立つことなんてしてきませんでした。
そんな私が……私が最初に頑張ろうと思えたのは、神殿で聖女クラリスに会って、その時のクラリスの優しいほほえみを見て、こんな美しい人がいるのなら、この世界もまた同じように美しく、私はそれを守るべきなんだと、そう思ったからなんです。
だから、俺は、クラリスじゃなきゃだめなんです。ごめんなさい。」
「そう、そうなのね。でも、それじゃあやっぱりあなたは私と結婚することになるわ。」
「は……?」
もう何を言っても事態は変わらないのか、と絶望したタツシに向かって、王女がまっすぐ歩いてきた。
一切の足音が存在しないが、タツシは今地面におでこをつけているのだ。だから振動で歩いていることは分かる。
「顔を上げなさい、勇者タツシ。」
タツシはゆっくり顔を上げた。目にわずかながらの涙を浮かべて。
いつの間にか燭台に燈っていた青い炎が消え、ここで初めてタツシは王女の顔を見た。
「申し遅れたわ。私はアルガレナ王家第一王女の――
クラリス・アルガレナよ。今まで隠してきてごめんなさい。タツシ。」
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