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第3章 タツシの夏休み
25,王の交代
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8月の末。
タツシの住んでいる、この国に重大な御触れが出された。
「王が引退なされる。」と。
たったそれだけだが、国民全員は驚き、慌てふためき、そして感謝の念を募らせた。
この人が国王であったからこそ今の生活があり、豊かな国がある。そう確信できるほどに、今の王になってから国は変わった。
しかも、魔王の誕生という前代未聞の問題もあっさり解決したのだ。
そして、ここにもまた一人、王様に感謝してやまない青年がいた。
「王様、初め召喚された時から思ったよ。だって――」
タツシは召喚された当時の会話を思い浮かべる。
【
「魔王を倒すまでの制限時間とかはあるんですか?」
「今のペースで行けば、15年じゃな。それまでに魔王を倒さなければ、人類に深刻な被害が出るじゃろう。逆に、10年くらいなら放っておいてもさして被害はない。ワシも古代書を研究して、早めに召喚したからのう! ふぉっふぉっふぉ」
】
これを聞いた瞬間から思った。ああ、この人、デキる奴だ、と。
「あんたが召喚してくれたおかげで俺は死なずにやってこれたし、今では楽しいイタズラライフを送ることもできて……感謝しかない!!!」
タツシは自分あてに送られてきた御触れに向けてそう叫んだ。
「あれ? 何かもう一枚手紙が来ているな。なんだろう。えーと、国王引退記念パーティー、か。へー、豪勢なもんだなぁ。なるほど、マッサージ店長じゃなくて勇者として招待されているのか。
こりゃあ行くしかないな! 行って王様に一言でいいからちゃんとお礼を言おう! ついでに俺のマッサージ店のタダ券10枚くらいあげようかな。いや、お金はいくらでもあるか。」
などとタツシが考えているうちに、ある事に気が付く。
「あれ? そういえば新王には王太子様がなるとして、確か王太子様の兄弟は継承権を破棄……だとかなんだとか言っているから、次の王様はその下の世代……?
で、確か王太子ご夫妻に子供が四人、長男、長女、次男、次女といて、その長女がめちゃくちゃ美人で有名ってどっかで聞いたような……」
タツシはいやらしい目を浮かべる。
「うおおおおおお! これは楽しみだぜ! あ、でもすでに婚約者とかいたりしたら申し訳ないな。そうだったら潔くあきらめて公爵令嬢とか侯爵令嬢とか伯爵令嬢とかを狙おう。
勇者のあのかっちょいい鎧来ていればどんな女もイチコロだろ! アッハッハ! 楽しみだなぁ!」
一体タツシは本当に王様に感謝しているのだろうか?
パーティー当日。
「おお…勇者様だ……」
「本当にいたんだな。てっきり実在しないのかと思ってたよ」
「あのパレード以来、まったく姿を見せないようでしたからねぇ」
勇者、というだけでかなりの注目を浴びる。
ちなみにこのパーティーは本当に貴族の中でも上のほうの人しかいなくて、人数も50人ほどだ。
テーブルがいくつも並べられていて、その上に料理が乗っていて自由にとって食べるタイプのやつ。
(くそ~、座って落ち着いて食べてえ……)
タツシはパーティーなんざ参加したことはない。よってこのタイプは苦手であった。勇者として注目を浴びているからなおさらである。
「勇者殿、こっちに来てくれんか?」
「はは! ただいま参ります!」
タツシは王様に呼ばれたようだ。ちなみにしっかり顔面も覆う鎧を着こんでいるためパーティーの参加者に顔ばれはしない。
もちろん元王様、太上皇は顔を知っているが。
「失礼しました。タツシです。あの節はお世話になり本当に……」
「いやははは、お世話になったのはワシらじゃ! そんなかしこまるなって。おぬし、召喚されたときはあんなに偉そうだったのに今では礼儀正しくのうて……。
お前さんはもっとフランクでいいんじゃ。テキトーな敬語でいいんじゃ。」
「私に対してもなんならため口でも構わん! ハッハッハ!!」
いつの間にか新王も会話に入っていた。
「ああ、そうですか。いや、助かります。ところで王様、一つ伺いたいことがあるのですが」
「ん? なんだ?」
「今このパーティーに、第一王子、第二王子、第二王女がいますけど、第一王女はいないのですか?」
「ん? 急にどうした? タツシよ、お前、第一王女が気になるのか?」
「ぬっふぉっふぉ! アイツに惚れない男なんていないじゃろ! ふぉっふぉっふぉ」
「あ、あははは! いえ、百年に一度の豊麗の美女とか、千年に一度の奇跡とか、なんかいろいろな本にそう書いてあったんで気になって。」
「確かに、相当な美人だし頭もいいし強いし優しいし……」
「一応言っておくが、これ、親ばかじゃなくて本当じゃからの」
(親子二代で親ばかなだけでは? いや、しかしまあ実際どうなんだろうなぁ)
「だが、申し訳ないことにアイツは人に合わせることは出来んのだ。」
「え?? あ、あの、もしかしてすでに結婚していたり……」
「するわけないだろう! 何せあいつは……おっと、これ以上何も言えん。」
「そうですか~。とにかくこの場にはいないんですね? 話してみたかったんだけどな~」
〈ま、いづれ話すこともあるじゃろ。おぬしこそ、勇者の正体がマッサージ店員だなんて、絶対にばれないようにするんじゃぞ?
バレるとまともに商売できなくなるぞお?〉
〈はい。しっかり心得ていますから安心して下さい。〉「じゃ、ま、私はほかにも話したいと思っているご令嬢とか多いようなので……」
「うむ。いろんな子を見ておれ。」〈おぬしなら選び放題じゃぞぉ…?〉
(この爺さん、俺と思考パターンが似ていて面白いな。上皇になったの、ひょっとして遊ぶためだったりして……)
〈では、楽しくお話してきます。〉
タツシは新王、上皇の二人が立っていた場所から離れる。ちなみに周囲の人たちから見てれば勇者と上皇、現王の三人で談笑しているようにしか見えない。まさかよその女の話をしていたと思う人はいないだろう。
タツシの住んでいる、この国に重大な御触れが出された。
「王が引退なされる。」と。
たったそれだけだが、国民全員は驚き、慌てふためき、そして感謝の念を募らせた。
この人が国王であったからこそ今の生活があり、豊かな国がある。そう確信できるほどに、今の王になってから国は変わった。
しかも、魔王の誕生という前代未聞の問題もあっさり解決したのだ。
そして、ここにもまた一人、王様に感謝してやまない青年がいた。
「王様、初め召喚された時から思ったよ。だって――」
タツシは召喚された当時の会話を思い浮かべる。
【
「魔王を倒すまでの制限時間とかはあるんですか?」
「今のペースで行けば、15年じゃな。それまでに魔王を倒さなければ、人類に深刻な被害が出るじゃろう。逆に、10年くらいなら放っておいてもさして被害はない。ワシも古代書を研究して、早めに召喚したからのう! ふぉっふぉっふぉ」
】
これを聞いた瞬間から思った。ああ、この人、デキる奴だ、と。
「あんたが召喚してくれたおかげで俺は死なずにやってこれたし、今では楽しいイタズラライフを送ることもできて……感謝しかない!!!」
タツシは自分あてに送られてきた御触れに向けてそう叫んだ。
「あれ? 何かもう一枚手紙が来ているな。なんだろう。えーと、国王引退記念パーティー、か。へー、豪勢なもんだなぁ。なるほど、マッサージ店長じゃなくて勇者として招待されているのか。
こりゃあ行くしかないな! 行って王様に一言でいいからちゃんとお礼を言おう! ついでに俺のマッサージ店のタダ券10枚くらいあげようかな。いや、お金はいくらでもあるか。」
などとタツシが考えているうちに、ある事に気が付く。
「あれ? そういえば新王には王太子様がなるとして、確か王太子様の兄弟は継承権を破棄……だとかなんだとか言っているから、次の王様はその下の世代……?
で、確か王太子ご夫妻に子供が四人、長男、長女、次男、次女といて、その長女がめちゃくちゃ美人で有名ってどっかで聞いたような……」
タツシはいやらしい目を浮かべる。
「うおおおおおお! これは楽しみだぜ! あ、でもすでに婚約者とかいたりしたら申し訳ないな。そうだったら潔くあきらめて公爵令嬢とか侯爵令嬢とか伯爵令嬢とかを狙おう。
勇者のあのかっちょいい鎧来ていればどんな女もイチコロだろ! アッハッハ! 楽しみだなぁ!」
一体タツシは本当に王様に感謝しているのだろうか?
パーティー当日。
「おお…勇者様だ……」
「本当にいたんだな。てっきり実在しないのかと思ってたよ」
「あのパレード以来、まったく姿を見せないようでしたからねぇ」
勇者、というだけでかなりの注目を浴びる。
ちなみにこのパーティーは本当に貴族の中でも上のほうの人しかいなくて、人数も50人ほどだ。
テーブルがいくつも並べられていて、その上に料理が乗っていて自由にとって食べるタイプのやつ。
(くそ~、座って落ち着いて食べてえ……)
タツシはパーティーなんざ参加したことはない。よってこのタイプは苦手であった。勇者として注目を浴びているからなおさらである。
「勇者殿、こっちに来てくれんか?」
「はは! ただいま参ります!」
タツシは王様に呼ばれたようだ。ちなみにしっかり顔面も覆う鎧を着こんでいるためパーティーの参加者に顔ばれはしない。
もちろん元王様、太上皇は顔を知っているが。
「失礼しました。タツシです。あの節はお世話になり本当に……」
「いやははは、お世話になったのはワシらじゃ! そんなかしこまるなって。おぬし、召喚されたときはあんなに偉そうだったのに今では礼儀正しくのうて……。
お前さんはもっとフランクでいいんじゃ。テキトーな敬語でいいんじゃ。」
「私に対してもなんならため口でも構わん! ハッハッハ!!」
いつの間にか新王も会話に入っていた。
「ああ、そうですか。いや、助かります。ところで王様、一つ伺いたいことがあるのですが」
「ん? なんだ?」
「今このパーティーに、第一王子、第二王子、第二王女がいますけど、第一王女はいないのですか?」
「ん? 急にどうした? タツシよ、お前、第一王女が気になるのか?」
「ぬっふぉっふぉ! アイツに惚れない男なんていないじゃろ! ふぉっふぉっふぉ」
「あ、あははは! いえ、百年に一度の豊麗の美女とか、千年に一度の奇跡とか、なんかいろいろな本にそう書いてあったんで気になって。」
「確かに、相当な美人だし頭もいいし強いし優しいし……」
「一応言っておくが、これ、親ばかじゃなくて本当じゃからの」
(親子二代で親ばかなだけでは? いや、しかしまあ実際どうなんだろうなぁ)
「だが、申し訳ないことにアイツは人に合わせることは出来んのだ。」
「え?? あ、あの、もしかしてすでに結婚していたり……」
「するわけないだろう! 何せあいつは……おっと、これ以上何も言えん。」
「そうですか~。とにかくこの場にはいないんですね? 話してみたかったんだけどな~」
〈ま、いづれ話すこともあるじゃろ。おぬしこそ、勇者の正体がマッサージ店員だなんて、絶対にばれないようにするんじゃぞ?
バレるとまともに商売できなくなるぞお?〉
〈はい。しっかり心得ていますから安心して下さい。〉「じゃ、ま、私はほかにも話したいと思っているご令嬢とか多いようなので……」
「うむ。いろんな子を見ておれ。」〈おぬしなら選び放題じゃぞぉ…?〉
(この爺さん、俺と思考パターンが似ていて面白いな。上皇になったの、ひょっとして遊ぶためだったりして……)
〈では、楽しくお話してきます。〉
タツシは新王、上皇の二人が立っていた場所から離れる。ちなみに周囲の人たちから見てれば勇者と上皇、現王の三人で談笑しているようにしか見えない。まさかよその女の話をしていたと思う人はいないだろう。
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