相棒は愛する人とひとつになりたいらしい

Urfan

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 どのくらいの時間が経ったのだろう。ふと目覚める。目の前に相棒の顔があった。

「ジェド……」
 ほっとしたような顔。
「ダリル!? お前生きてるのか?」
「ああ、生きている。お前のおかげだ」
 そう言ってダリルは微笑んだ。その表情からは生気が感じられる。良かった……どうやらこいつの命を救うことができたようだ。
「お前の血をもらったことで俺の肉体は活性化したんだ。おかげで回復することができた」
「俺はお前の体に取り込まれたはずじゃなかったのか?」
「ああ、そうだ」
 そう言ってダリルは俺に、下を見るように即す。見ると、俺の右脇腹とダリルの左脇腹が繋がっていた。
「お前の一部が俺の体に入った。この肉体はお前にもらったものだ」

 ダリルの説明によると、俺の体はダリルの体と融合し、二人の体を共有することになったらしい。そのおかげで体の欠損した部分を補い合い、回復できたそうだ。

「そうか、よかった。お前が生きていてくれて」
 俺は心からそう思った。
「ああ、俺もだよ」
 ダリルは微笑み、俺を抱きしめてくる。俺も抱きしめ返した。
「俺はこのまま吸収されるのか?」
「いや、お前はそれを望んでいないだろう」
 俺を包み込むように抱きしめたまま続ける。
「お前が俺の中に入ってきた時、お前の記憶や感情が感じられた。生きたいと思っていることも」
 俺はしばらく沈黙していた。そして言った。
「俺はお前に取り込まれてもいいと思ったよ。それでお前が生きていけるなら……でも、お前を一人にはしたくなかった」
 その言葉にダリルは体を離し俺をじっと見つめていたが、やがて柔らかな表情になった。
「知っている。ありがとう」
 そう言ってまた俺を抱きしめた。俺もそれに応えるように抱き返した。


「これからはこの体で生きていくのか?」
「そうだ。もう冒険者をしていくのは無理だろう。二人で俺の故郷へ行こう」
ダリルの故郷……ダリルと同じ体質を持った者が多くいる土地だと聞いている。
「そこでならこうなった俺達も穏やかに暮らしていける」
 そう言って俺の顔をじっと見つめる。
「どうかしたか?」
 俺は尋ねたが、ダリルは無言のままだ。どうしたのだろうと思っていると、その手が俺の頬に触れ、そっと包み込んできた。
 「ダリル?」
 そして徐々に顔が近付いてくる。

 ダリルにキスをされた。

 俺は驚きすぎて抵抗もできなかった。しばらくそうしていたが、やがてゆっくりと離れていく。

「いきなり何するんだ!」
 俺は思わず叫ぶ。顔が熱い。きっと真っ赤になっているだろう。

「お前を愛している」

 突然の告白に頭が真っ白になる。だがすぐに言葉の意味を理解した。
 こいつの愛している者とは俺のことか。

「ダリル……」
 俺も、俺の気持ちに気付いている。俺を取り込んだこいつにも、俺の気持ちはバレているだろう。

「駄目か?」
 少し眉尻を下げ、不安気に俺を見つめる。
「駄目じゃねえよ」
 俺はその顔を引き寄せ、唇に口付けた。
「俺もお前が好きだ」
 少し震える腕が、俺を強く抱きしめた。
 それから俺達は互いの存在を確かめ合うように、抱擁し、キスをし合った。



「そろそろ街へ戻ろう」
 俺が口にすると、
「そうだな。生きているのは俺達だけか」
 気配に聡いダリルはそう言い、俺を支え立ち上がる。
 周りを確認し、生存者を探す。だがやはり、生き残ったのは俺達だけだった。バーチの死体もあった。





 街へ戻りギルドに報告した後、俺達は宿へと戻り、二人だけの時間を過ごした。
 そして夜になると互いに求め合った。「好きだ」何度もそうささやき合いながら。

「俺を全て吸収しなくてもいいのか?」
 熱を帯びた青灰色の瞳が俺を見つめる。
「お前とひとつになれば満たされるだろう。だがこうして体を共有し、腹だけでも繋がることができた。お前の顔を見て、口付けて、愛し合える……お前の熱が、鼓動が感じられる。存在を確かめ合えるこの時間が、何よりも大切だと感じている」
 ダリルはそう言って微笑んだ。その笑顔は今まで見た中で一番美しかった。
 俺はその体を引き寄せて抱きしめ……。

 そして俺達は何度も愛し合ったのだった。











 俺達はダリルの故郷に着いた。そこには俺達のように体を同化させている人もいる。
 人々は俺達をあたたかく迎えてくれた。俺達は彼らの仲間となり、彼らと一緒に生きていくことを決めた。


「なあ、ダリル」
「どうした?」
「お前は幸せか?」
「ああ……幸せだ」
 柔らかな笑み。満ち足りたような表情は、その言葉が真実だと告げている。
「そうか。お前が幸せなら、俺も嬉しい」
 俺はこいつの孤独を埋めることができただろうか。
「ジェドの方は、これでよかったのか?」
 ダリルが静かに聞いてくる。
「お前を失うことに比べたら体を共有するくらいなんでもないさ。俺はな、お前のそばにいる。何があっても」
 愛する男の瞳に俺の顔が映る。その顔もこいつと同じように微笑んでいるだろう。
「俺もお前と共にいる。ずっと」
 ダリルの唇が俺の唇に重なった。



 こうして俺はダリルと結ばれた。体が同化している俺達は、生も死も共にする。
 二人は永遠に一体となったのだ。
 今まで長年一緒に過ごし、多くの困難を乗り越えてきた。お互いの信頼と絆で、これからもずっと支え合っていける、俺はそう確信している。









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