5 / 6
5(完)
しおりを挟むどのくらいの時間が経ったのだろう。ふと目覚める。目の前に相棒の顔があった。
「ジェド……」
ほっとしたような顔。
「ダリル!? お前生きてるのか?」
「ああ、生きている。お前のおかげだ」
そう言ってダリルは微笑んだ。その表情からは生気が感じられる。良かった……どうやらこいつの命を救うことができたようだ。
「お前の血をもらったことで俺の肉体は活性化したんだ。おかげで回復することができた」
「俺はお前の体に取り込まれたはずじゃなかったのか?」
「ああ、そうだ」
そう言ってダリルは俺に、下を見るように即す。見ると、俺の右脇腹とダリルの左脇腹が繋がっていた。
「お前の一部が俺の体に入った。この肉体はお前にもらったものだ」
ダリルの説明によると、俺の体はダリルの体と融合し、二人の体を共有することになったらしい。そのおかげで体の欠損した部分を補い合い、回復できたそうだ。
「そうか、よかった。お前が生きていてくれて」
俺は心からそう思った。
「ああ、俺もだよ」
ダリルは微笑み、俺を抱きしめてくる。俺も抱きしめ返した。
「俺はこのまま吸収されるのか?」
「いや、お前はそれを望んでいないだろう」
俺を包み込むように抱きしめたまま続ける。
「お前が俺の中に入ってきた時、お前の記憶や感情が感じられた。生きたいと思っていることも」
俺はしばらく沈黙していた。そして言った。
「俺はお前に取り込まれてもいいと思ったよ。それでお前が生きていけるなら……でも、お前を一人にはしたくなかった」
その言葉にダリルは体を離し俺をじっと見つめていたが、やがて柔らかな表情になった。
「知っている。ありがとう」
そう言ってまた俺を抱きしめた。俺もそれに応えるように抱き返した。
「これからはこの体で生きていくのか?」
「そうだ。もう冒険者をしていくのは無理だろう。二人で俺の故郷へ行こう」
ダリルの故郷……ダリルと同じ体質を持った者が多くいる土地だと聞いている。
「そこでならこうなった俺達も穏やかに暮らしていける」
そう言って俺の顔をじっと見つめる。
「どうかしたか?」
俺は尋ねたが、ダリルは無言のままだ。どうしたのだろうと思っていると、その手が俺の頬に触れ、そっと包み込んできた。
「ダリル?」
そして徐々に顔が近付いてくる。
ダリルにキスをされた。
俺は驚きすぎて抵抗もできなかった。しばらくそうしていたが、やがてゆっくりと離れていく。
「いきなり何するんだ!」
俺は思わず叫ぶ。顔が熱い。きっと真っ赤になっているだろう。
「お前を愛している」
突然の告白に頭が真っ白になる。だがすぐに言葉の意味を理解した。
こいつの愛している者とは俺のことか。
「ダリル……」
俺も、俺の気持ちに気付いている。俺を取り込んだこいつにも、俺の気持ちはバレているだろう。
「駄目か?」
少し眉尻を下げ、不安気に俺を見つめる。
「駄目じゃねえよ」
俺はその顔を引き寄せ、唇に口付けた。
「俺もお前が好きだ」
少し震える腕が、俺を強く抱きしめた。
それから俺達は互いの存在を確かめ合うように、抱擁し、キスをし合った。
「そろそろ街へ戻ろう」
俺が口にすると、
「そうだな。生きているのは俺達だけか」
気配に聡いダリルはそう言い、俺を支え立ち上がる。
周りを確認し、生存者を探す。だがやはり、生き残ったのは俺達だけだった。バーチの死体もあった。
街へ戻りギルドに報告した後、俺達は宿へと戻り、二人だけの時間を過ごした。
そして夜になると互いに求め合った。「好きだ」何度もそう囁き合いながら。
「俺を全て吸収しなくてもいいのか?」
熱を帯びた青灰色の瞳が俺を見つめる。
「お前とひとつになれば満たされるだろう。だがこうして体を共有し、腹だけでも繋がることができた。お前の顔を見て、口付けて、愛し合える……お前の熱が、鼓動が感じられる。存在を確かめ合えるこの時間が、何よりも大切だと感じている」
ダリルはそう言って微笑んだ。その笑顔は今まで見た中で一番美しかった。
俺はその体を引き寄せて抱きしめ……。
そして俺達は何度も愛し合ったのだった。
◆
俺達はダリルの故郷に着いた。そこには俺達のように体を同化させている人もいる。
人々は俺達をあたたかく迎えてくれた。俺達は彼らの仲間となり、彼らと一緒に生きていくことを決めた。
「なあ、ダリル」
「どうした?」
「お前は幸せか?」
「ああ……幸せだ」
柔らかな笑み。満ち足りたような表情は、その言葉が真実だと告げている。
「そうか。お前が幸せなら、俺も嬉しい」
俺はこいつの孤独を埋めることができただろうか。
「ジェドの方は、これでよかったのか?」
ダリルが静かに聞いてくる。
「お前を失うことに比べたら体を共有するくらいなんでもないさ。俺はな、お前のそばにいる。何があっても」
愛する男の瞳に俺の顔が映る。その顔もこいつと同じように微笑んでいるだろう。
「俺もお前と共にいる。ずっと」
ダリルの唇が俺の唇に重なった。
こうして俺はダリルと結ばれた。体が同化している俺達は、生も死も共にする。
二人は永遠に一体となったのだ。
今まで長年一緒に過ごし、多くの困難を乗り越えてきた。お互いの信頼と絆で、これからもずっと支え合っていける、俺はそう確信している。
完
43
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。
【完結】雨降らしは、腕の中。
N2O
BL
獣人の竜騎士 × 特殊な力を持つ青年
Special thanks
illustration by meadow(@into_ml79)
※素人作品、ご都合主義です。温かな目でご覧ください。

魔術師の卵は憧れの騎士に告白したい
朏猫(ミカヅキネコ)
BL
魔術学院に通うクーノは小さい頃助けてくれた騎士ザイハムに恋をしている。毎年バレンタインの日にチョコを渡しているものの、ザイハムは「いまだにお礼なんて律儀な子だな」としか思っていない。ザイハムの弟で重度のブラコンでもあるファルスの邪魔を躱しながら、今年は別の想いも胸にチョコを渡そうと考えるクーノだが……。
[名家の騎士×魔術師の卵 / BL]
【完結】悪役令息の従者に転職しました
*
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
本編完結しました!
『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく、舞踏会編、はじめましたー!

30歳まで独身だったので男と結婚することになった
あかべこ
BL
4年前、酒の席で学生時代からの友人のオリヴァーと「30歳まで独身だったら結婚するか?」と持ちかけた冒険者のエドウィン。そして4年後のオリヴァーの誕生日、エドウィンはその約束の履行を求められてしまう。
キラキラしくて頭いいイケメン貴族×ちょっと薄暗い過去持ち平凡冒険者、の予定

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる