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今回の依頼は難易度が高く、対象のモンスターが強力なので、他の数パーティーと組んで討伐に向かった。その中にバーチもいる。俺達に気付いているだろうが、こっちを見ることはなかった。
パーティーは二手に分かれて、一方が対象のモンスターを挑発して引き付けている間に、もう一方が背後から一気に攻撃をしかけるという作戦をとった。
作戦は上手くいき、かなりのダメージを与えることができた。あとはトドメを刺すだけだ。しかしここで誤算が起きた。モンスターが予想以上の抵抗を見せてきたのだ。前線で戦っていた俺とダリルはモンスターの猛攻撃を受けて傷を負ってしまった。
その時嫌な予感がして左にそれる。ナイフが俺の顔をかすめた。
飛んできた方向を見るとバーチと目が合った。
明らかに俺を狙っていた。根に持っていたのか? それとも俺がいなくなればダリルと組めるようになると思ったのか。
その一瞬の隙を見てモンスターの攻撃がくる。
しまった!
予想していた衝撃は来ない。
攻撃を受けた俺をダリルがかばっていた。
「ダリル!」
「……っ大丈夫だ、集中しろ」
激戦だ。モンスターは強かった。ダリルは俺をかばった時の傷が深く、いつものように戦うことができず、さらに深手を負うことになってしまった。
だが、苦戦の末なんとかモンスターを討伐することができた。
「ダリル! おい、しっかりしろ! ダリル!!」
俺は自分の傷の痛みも忘れ、倒れているダリルを抱えて声をかけるが反応がない。出血がひどいため、俺の呼びかけが聞こえないのかもしれない。いや、聞こえていても返事をする余裕がないのか。
周りを見渡し大声で助けを呼ぶが動いている者はいない。
ダリルの顔色は蒼白で、呼吸も浅く、命の灯が消えかかっている。このままではダリルが死んでしまう。どうすれば……。
その時俺は思い出した。ダリルの体質を。こいつは生物を吸収し、それを自分の糧とすることもできる。
俺は自分の腕を切りつけ、血を流した。そして傷口を相棒の口に当てる。
「ダリル、俺の血で生きろ! 頼むから死なないでくれ!」
俺の血が流れ込んでいく。するとダリルの体がビクリと跳ね上がり、接触していた俺の体の皮膚にその体が吸い付いた。そして傷ついた俺の体を体内に取り込んでいく。
初めてだった。人の中に自分が入り込んでいく感覚は。だが不快感はない。むしろ心地いいとさえ感じる。まるで自分の体が作り変えられていくような感覚だ。不思議と恐怖はない。
ダリルに吸収されて、それでダリルが生きるならそれでもいい、と思った。
だが俺が吸収されるとダリルのそばに誰もいなくなる。こいつは今以上に孤独を感じるかもしれない。そう思うと胸がギュッと苦しくなる。
駄目だ、こいつを一人残していけない。
多くの苦楽を共にしてきた、そばにいるのが当たり前だった存在。
こいつは俺にとって最も大切な……。
そうか……。
俺は気付いた。
こいつが俺にとって唯一無二の存在であることに。
「ダリル……」
血が付着した灰色の髪を撫でる。
俺の意識は遠のいていった。
パーティーは二手に分かれて、一方が対象のモンスターを挑発して引き付けている間に、もう一方が背後から一気に攻撃をしかけるという作戦をとった。
作戦は上手くいき、かなりのダメージを与えることができた。あとはトドメを刺すだけだ。しかしここで誤算が起きた。モンスターが予想以上の抵抗を見せてきたのだ。前線で戦っていた俺とダリルはモンスターの猛攻撃を受けて傷を負ってしまった。
その時嫌な予感がして左にそれる。ナイフが俺の顔をかすめた。
飛んできた方向を見るとバーチと目が合った。
明らかに俺を狙っていた。根に持っていたのか? それとも俺がいなくなればダリルと組めるようになると思ったのか。
その一瞬の隙を見てモンスターの攻撃がくる。
しまった!
予想していた衝撃は来ない。
攻撃を受けた俺をダリルがかばっていた。
「ダリル!」
「……っ大丈夫だ、集中しろ」
激戦だ。モンスターは強かった。ダリルは俺をかばった時の傷が深く、いつものように戦うことができず、さらに深手を負うことになってしまった。
だが、苦戦の末なんとかモンスターを討伐することができた。
「ダリル! おい、しっかりしろ! ダリル!!」
俺は自分の傷の痛みも忘れ、倒れているダリルを抱えて声をかけるが反応がない。出血がひどいため、俺の呼びかけが聞こえないのかもしれない。いや、聞こえていても返事をする余裕がないのか。
周りを見渡し大声で助けを呼ぶが動いている者はいない。
ダリルの顔色は蒼白で、呼吸も浅く、命の灯が消えかかっている。このままではダリルが死んでしまう。どうすれば……。
その時俺は思い出した。ダリルの体質を。こいつは生物を吸収し、それを自分の糧とすることもできる。
俺は自分の腕を切りつけ、血を流した。そして傷口を相棒の口に当てる。
「ダリル、俺の血で生きろ! 頼むから死なないでくれ!」
俺の血が流れ込んでいく。するとダリルの体がビクリと跳ね上がり、接触していた俺の体の皮膚にその体が吸い付いた。そして傷ついた俺の体を体内に取り込んでいく。
初めてだった。人の中に自分が入り込んでいく感覚は。だが不快感はない。むしろ心地いいとさえ感じる。まるで自分の体が作り変えられていくような感覚だ。不思議と恐怖はない。
ダリルに吸収されて、それでダリルが生きるならそれでもいい、と思った。
だが俺が吸収されるとダリルのそばに誰もいなくなる。こいつは今以上に孤独を感じるかもしれない。そう思うと胸がギュッと苦しくなる。
駄目だ、こいつを一人残していけない。
多くの苦楽を共にしてきた、そばにいるのが当たり前だった存在。
こいつは俺にとって最も大切な……。
そうか……。
俺は気付いた。
こいつが俺にとって唯一無二の存在であることに。
「ダリル……」
血が付着した灰色の髪を撫でる。
俺の意識は遠のいていった。
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