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 青年の頭は次の日にはすっかりダリルの体に吸収されていた。
 愛し愛された者を自分の中に取り入れ一体化する……一体どんな気持ちなのか、俺にはわからない。
 受けていた依頼は滞りなく完遂し、報告済みだ。ダリルはいつも通り、いやいつも以上の力で剣を振るい、同じく剣で戦う俺と共にモンスターを葬った。生物を体に取り入れることで自分の糧ともできるから、恋人を吸収して力がいつもより出ていたのだろう。
 報酬を受け取り、数日たった今も金はある。しばらくは食っていけそうだ。


「今日はどうする」
 宿の部屋で俺がたずねると、
「そうだな」
 ダリルは俺より少し高い視線を俺に向けた。
「ジェドはどこか行きたい所はあるか」
「少し寒いし、服屋にでも行こうかと思ってる。そのついでに食事をしよう」
「いいな。じゃあ支度をする」
 俺は頷き、身支度を整え声をかけた。
「お前は欲しいものはないのか?」
「ない」
「でもその服のままじゃ寒いだろう。いつもながらお前は戦闘以外には無頓着すぎる。俺が見繕ってやるよ」
「俺はこれで十分だ」
 ダリルは焦茶のマントをひるがえす。以前俺が選んでやったマントだ。
「お前そればかり使ってるじゃねえか。そろそろ新しいのを買ったらどうだ」
「まだ使えるし気に入っているんだ」
「まあ、お前がいいならいいが……」
「ああ」
 ダリルは頷いた。


 そして俺達は服屋を訪れた。様々な服が並んでいたが、ダリルは興味を示さなかった。俺も特に服に興味があるわけではないが、暖かそうな服を見繕ってダリルに渡した。
「これはどうだ?」
 俺が聞くと
「……悪くないな」
 俺と服を見つめ、目を細めた。
「よし、じゃあこれをお前に買ってやる。どうせ自分では買わないだろ」
「いや、俺ではなくお前の服だろう」
「俺のは俺ので買うさ」
「なら俺のは自分で買うよ」
 そして結局、俺はダリルのマントと同じ焦茶の服を、ダリルは茶色の服を買った。


 会計を済ませると店を出て、いつも行く食堂に入る。
 話しながら食事をしていると、一人の青年がダリルを見つめていることに気付いた。銀髪の綺麗な細身の男だ。さぞかし女にも男にもモテるだろう。

 またか……ダリルに惹かれる人間は多い。俺も女と付き合ったことはあるが特にモテるわけではない。だがダリルの精悍せいかんな容姿は人の目を引く。

 青年はしばらく見つめていたが、やがて席を立ちこっちへ歩いてきた。
「あの」
 青年が声をかけてきた。
「こんにちは、冒険者のかたですよね?」
 ダリルは食事を止める。
「そうだが……あんたは?」
「俺はバーチといいます」
 青年……バーチの目はキラキラと光り、妖艶な表情で目の前の男を見つめている。
「あなたのお名前を教えてもらえますか?」
「俺はダリルだ」
「ダリルさん……いいお名前ですね」
 バーチは微笑んだ。
「俺も冒険者ですが、今組んでいる人達のところを抜ける予定なんです。それで一緒に旅をする仲間が欲しいんですが、あなたとご一緒したいと思って」
「そうか。でも悪いな。俺は今ジェドと組んでいるからあんたとは一緒に行けない」
 ダリルがそう答えるとバーチは俺をちらりと見たが、またダリルに視線を戻した。
「では俺をあなた達の仲間に加えてもらえませんか?」
「俺はジェド以外と組むつもりはない」
「……そうですか」
 バーチはダリルの横に座った。
「少しここにいてもいいですか?」
 と俺に聞いてきた。

 この男がダリルに気があるのは明らかだ。恋人を失ったばかりで早いとは思うが相棒の新しい出会いかもしれないものを俺が無下にするわけにもいかないだろう。俺は少し躊躇ちゅうちょしたが頷いた。
 バーチは嬉しそうに笑った。

「ジェドさん、ダリルさんってとても強そうですね」
「ああ、そうだな。頼りになる男だよ」
 俺が答えると、バーチはダリルに視線を戻す。
「あなたは素敵ですね、とても好かれそう。恋人はいらっしゃるんですか?」
 しばらく無言が続く。
「いない」
 ダリルは答えた。
「だったら俺と付き合ってくれませんか? あなたがとても好みなんです」
「断る」
「でも、恋人はいないんでしょう?」
 さすがにダリルも恋人を失ってすぐに新しい恋人を持つ気にはなれないか。

「俺はもう恋人はもたない」
 バーチを諦めさせるためか、そう答えた。
「なぜですか?」
「さあな……」
「俺はあなたにふさわしくない?」
 バーチは少しうれいのある表情をしてダリルを見つめる。
「いや、そういうわけじゃないが……」
 困ったように俺を見たので俺は頷く。ダリルにその気はないらしい。ならバーチに席に着くことを許した俺が悪かった。
 助け船をだそうとした時。
「……わかりました」
 バーチは立ち上がった。
「また会いましょう」
 そう言い残し、店から出ていった。


「あいつ、お前に一目惚れしたみたいだな。まあ、お前はいい男だし、惚れるのは仕方ねえか」
「お前は俺がいい男だと思っているのか?」
「ああ、強くて性格だって悪くない。顔もいいから一目惚れされるのも頷ける」
 素直に認めてやると、照れているのだろう、ダリルの耳が赤くなる。こういうところは可愛い奴だ。
「誠実で頼りになるいい男だ。少々無頓着なところはあるがな」
 俺が笑うと、
「俺は誠実ではないよ」
 ダリルは静かにそう言って目を伏せた。

 誠実ではない?恋人に関することを言っているのだろうか。でも、こいつはモテるが恋人はいつも大事にしていたし、恋人を吸収するのも相手が望んでいたからだ……それとも吸収することに本当は罪悪感でもあるのか?
 なら、いつかは普通に付き合える恋人ができる可能性もある。それはもしかしたらバーチかもしれない。

 だがやはり、流石に今は早すぎる気がする。恋人を体に取り込んだばかりでこいつもまだ落ち着いていないだろう。
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