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第一章 『歪んだ刃先』
三話 『歪んだヒロイン』
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鳴り響く目覚ましの音、起床にはだいぶ遅い昼間の時間帯に目を覚まし、大きく欠伸をしながら布団を蹴飛ばす。広々とした自室には真昼の太陽の光が差し込み、美しい直線の光の乱反射は愛斗の視界を真っ白にし、直視できないほど眩い光から逃げるように廊下へ通ずる扉を開けた。
少し肌寒い春の気温に足が震え、冷たい廊下をぺたぺたと素足の愛斗が歩く。
ここに引っ越してきてもう二か月とちょっと、かなり生活には慣れた。特にこれといって不便なことはなく、むしろ充実している方だ。月一で支給される生活費と小遣いは豊富で、申し訳なくなってしまう程の大金が貯蓄されている。
今日は入学式一日前ということもあり、筆記用具などを揃えに文房具店へ訪れる思惑だ。
朝食を含めた昼食を軽く取り、正午を遥かに過ぎた午後三時に家を出た。カギはカードキーで、近未来完漂う防犯システムに毎度のことながら圧巻の笑みを浮かべてしまう。
乗り慣れた電車に見慣れたホーム、改札口を越えればそこはおしゃれな雑貨店が立ち並ぶ街へとたどり着いた。
容姿の整った非常に美形の女子が目の前を横断する中、初めて来るおしゃれ雑貨店の入り口で躊躇していた。
「やはり、学校での人気を確立するためにはおしゃれな文房具を…。だがッ! それは僕らしくないんじゃないか? 個性を殺してまで手に入れる品物なのか‥‥。んー」
顎に手を添え、観衆の視線を大いに浴びながら自論を展開させていく愛斗。最終的な決断は少子者であることから人気の少ない、昔ながらの文房具店での購入を決意した。
おしゃれな雑貨店から一歩離れれば、歴史を感じる昔ながらの木造建築が立ち並んでいた。古き良き文化を感じさせる建物はここに来る前の家を思い出し、感傷に浸る。つい二か月ほど前の話なのに、どこか遠く、懐かしく感じてしまう。
思い入れの深い家を連想しながら、訪れたのは木製の看板が印象的な文房具店だ。カウンターには老婆一人が立っており、その佇まいにどこか虚しさを感じてしまう。
他人への感情を移入はらしくないと首を左右に振り、早速文房具を選び出す。やはり使い慣れた物が理想であるため昔かる愛用している品を次々と選び、籠に入れる。
精算するためカウンターへと足を向け、木造の良き匂いが漂う店内を堪能しながら歩いていく。瞳を閉じ歩いてみれば、脳内に広がる過去の家。隅っこで読書に明け暮れる自分を今現在進行形で成長し続けている自分が見下ろしている。懐かしい、今の希望に満ちた自分なら過去の自分を救うことが出来るのかどうなのか。ありもしない非現実的な妄想を膨らませていると顎に強い衝撃が走った。
「痛ッってぇ」
「あな‥、た。人に当たっておいて痛いじゃないわよ。ちゃんと前を向きなさい」
「は、はぁ‥‥」
衝撃が走った先に視線をやると目の前には、自分の肩ぐらいの背丈の少女が立っていた。苛立ちを表情にし、自分の顎が当たった後頭部を抑えながら不意にこみ上げた涙を堪え、的確な指摘をする。
そんな美少女相手に呆気にとられた愛斗の、気抜けした返事が鼻から抜け出した。だらしのない返事に表情はさらに硬くなり、眉間に皺を寄せた少女は愛斗のつま先を勢いよく踏み付け、足りない身長を補うべく背伸びをしながら胸倉を掴んだ。
「痛ってぇぇぇ!」
「あなたその返事はなに? 本当に何様のつもり? 私を女だからってなめて掛ったんでしょ? そうなんでしょ?」
「お、落ち着けって! 僕は別にお前を下に見てこんな行為をしたわけじゃない! 信じてくれ!」
「いいや、申し訳ないけどそれは無理よ。あなた、名前は? 学校はどこ? 教えなさい」
圧倒的恐怖感が脳内を埋めていき、以上にしつこい女にこちら側も苛立ってきた。まさか文房を買いに来たら美少女と喧嘩沙汰に、さすがに笑えない話だ。さらに貴族染みた口調に、育ちが良かったのだろう、異常に整った美形な体は美しいと一言で表現するには勿体なく、妥協して神の体とでも例えておこう。
その神の体である少女の神の足ははさらに愛斗の爪先にめり込んでいき、生々しい傷跡になったのは靴越しでも十分に理解させた。歯を食いしばり、頬に軽い汗を掻く愛斗、その痛さは見ている側にも生々しく見える。
「そろそろ、足に穴がっ」
「知らないわよ。ほら、言いなさい。名前と学校名」
脅迫されているようで余計に言いにくいが、意を決し、食いしばっていた奥歯をがたつかせながら大声で、
「あぁわかった! わかりましたよッ! 言えばいいんでしょ! 言えば‼」
両目に涙を浮かべ、噛み締めた唇からは血が流れるその中、痛みに耐えかねた愛斗は本能のままに叫んだ。路上を歩く近隣住民の視線を一気に浴び、大きな声で個人情報を露にする憐れな男の姿を観衆の不審そうな視線が刃を向けた。
「僕の名前は水野宮 愛斗ッ! 今年から生泉高校に入る高校一年生だ! い、いいだろっ? これでいいだろッ? なぁ、おい! いいから足をどけてくれぇぇぇッ!」
「——————————っ」
痛みに悶絶し、文房具屋に響く咆哮に観衆は逃げていく。人間が持つ危機管理能力が発揮したのだろう。瞬く間に不審な視線は消え、残ったのは沈黙を生み出す彼女と、驚愕の表情を見せる店員だけだ。店員も怒号に聞こえる愛斗の声に震え立ったのか、何も言えず事の行末を見守っている。
視線の数が一気に減ったこの状況下で、少女は俯きながら何かを考えている。否、愛斗の発言に何かしの疑惑を掛けようとしている。そんな思想の読み取りは安易にでき、愛斗の足を踏む強さがそれを教えてくれる。
ふと視線を下げ、少女の動向を模索しようと脳に働きをかける。が、脳は現状の変化に驚きを隠せずにいた。少女は掴んでいた胸倉を離し、さらに踏んでいた足をそっとどけたのだ。
少し肌寒い春の気温に足が震え、冷たい廊下をぺたぺたと素足の愛斗が歩く。
ここに引っ越してきてもう二か月とちょっと、かなり生活には慣れた。特にこれといって不便なことはなく、むしろ充実している方だ。月一で支給される生活費と小遣いは豊富で、申し訳なくなってしまう程の大金が貯蓄されている。
今日は入学式一日前ということもあり、筆記用具などを揃えに文房具店へ訪れる思惑だ。
朝食を含めた昼食を軽く取り、正午を遥かに過ぎた午後三時に家を出た。カギはカードキーで、近未来完漂う防犯システムに毎度のことながら圧巻の笑みを浮かべてしまう。
乗り慣れた電車に見慣れたホーム、改札口を越えればそこはおしゃれな雑貨店が立ち並ぶ街へとたどり着いた。
容姿の整った非常に美形の女子が目の前を横断する中、初めて来るおしゃれ雑貨店の入り口で躊躇していた。
「やはり、学校での人気を確立するためにはおしゃれな文房具を…。だがッ! それは僕らしくないんじゃないか? 個性を殺してまで手に入れる品物なのか‥‥。んー」
顎に手を添え、観衆の視線を大いに浴びながら自論を展開させていく愛斗。最終的な決断は少子者であることから人気の少ない、昔ながらの文房具店での購入を決意した。
おしゃれな雑貨店から一歩離れれば、歴史を感じる昔ながらの木造建築が立ち並んでいた。古き良き文化を感じさせる建物はここに来る前の家を思い出し、感傷に浸る。つい二か月ほど前の話なのに、どこか遠く、懐かしく感じてしまう。
思い入れの深い家を連想しながら、訪れたのは木製の看板が印象的な文房具店だ。カウンターには老婆一人が立っており、その佇まいにどこか虚しさを感じてしまう。
他人への感情を移入はらしくないと首を左右に振り、早速文房具を選び出す。やはり使い慣れた物が理想であるため昔かる愛用している品を次々と選び、籠に入れる。
精算するためカウンターへと足を向け、木造の良き匂いが漂う店内を堪能しながら歩いていく。瞳を閉じ歩いてみれば、脳内に広がる過去の家。隅っこで読書に明け暮れる自分を今現在進行形で成長し続けている自分が見下ろしている。懐かしい、今の希望に満ちた自分なら過去の自分を救うことが出来るのかどうなのか。ありもしない非現実的な妄想を膨らませていると顎に強い衝撃が走った。
「痛ッってぇ」
「あな‥、た。人に当たっておいて痛いじゃないわよ。ちゃんと前を向きなさい」
「は、はぁ‥‥」
衝撃が走った先に視線をやると目の前には、自分の肩ぐらいの背丈の少女が立っていた。苛立ちを表情にし、自分の顎が当たった後頭部を抑えながら不意にこみ上げた涙を堪え、的確な指摘をする。
そんな美少女相手に呆気にとられた愛斗の、気抜けした返事が鼻から抜け出した。だらしのない返事に表情はさらに硬くなり、眉間に皺を寄せた少女は愛斗のつま先を勢いよく踏み付け、足りない身長を補うべく背伸びをしながら胸倉を掴んだ。
「痛ってぇぇぇ!」
「あなたその返事はなに? 本当に何様のつもり? 私を女だからってなめて掛ったんでしょ? そうなんでしょ?」
「お、落ち着けって! 僕は別にお前を下に見てこんな行為をしたわけじゃない! 信じてくれ!」
「いいや、申し訳ないけどそれは無理よ。あなた、名前は? 学校はどこ? 教えなさい」
圧倒的恐怖感が脳内を埋めていき、以上にしつこい女にこちら側も苛立ってきた。まさか文房を買いに来たら美少女と喧嘩沙汰に、さすがに笑えない話だ。さらに貴族染みた口調に、育ちが良かったのだろう、異常に整った美形な体は美しいと一言で表現するには勿体なく、妥協して神の体とでも例えておこう。
その神の体である少女の神の足ははさらに愛斗の爪先にめり込んでいき、生々しい傷跡になったのは靴越しでも十分に理解させた。歯を食いしばり、頬に軽い汗を掻く愛斗、その痛さは見ている側にも生々しく見える。
「そろそろ、足に穴がっ」
「知らないわよ。ほら、言いなさい。名前と学校名」
脅迫されているようで余計に言いにくいが、意を決し、食いしばっていた奥歯をがたつかせながら大声で、
「あぁわかった! わかりましたよッ! 言えばいいんでしょ! 言えば‼」
両目に涙を浮かべ、噛み締めた唇からは血が流れるその中、痛みに耐えかねた愛斗は本能のままに叫んだ。路上を歩く近隣住民の視線を一気に浴び、大きな声で個人情報を露にする憐れな男の姿を観衆の不審そうな視線が刃を向けた。
「僕の名前は水野宮 愛斗ッ! 今年から生泉高校に入る高校一年生だ! い、いいだろっ? これでいいだろッ? なぁ、おい! いいから足をどけてくれぇぇぇッ!」
「——————————っ」
痛みに悶絶し、文房具屋に響く咆哮に観衆は逃げていく。人間が持つ危機管理能力が発揮したのだろう。瞬く間に不審な視線は消え、残ったのは沈黙を生み出す彼女と、驚愕の表情を見せる店員だけだ。店員も怒号に聞こえる愛斗の声に震え立ったのか、何も言えず事の行末を見守っている。
視線の数が一気に減ったこの状況下で、少女は俯きながら何かを考えている。否、愛斗の発言に何かしの疑惑を掛けようとしている。そんな思想の読み取りは安易にでき、愛斗の足を踏む強さがそれを教えてくれる。
ふと視線を下げ、少女の動向を模索しようと脳に働きをかける。が、脳は現状の変化に驚きを隠せずにいた。少女は掴んでいた胸倉を離し、さらに踏んでいた足をそっとどけたのだ。
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