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011 あとは……:N

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 ステージ前で客が跳ね。大音量で盛り上がる、ライブ会場となった体育館。
 観客席の脇から近づいて、真ん中らへんで立ち止まる。

「マジで女装して……すげ……」

 バンドメンバー4人全員、女子高生の格好で演ってて。守流まもるは金髪のカツラを揺らしてギターをかき鳴らしてる。

「俺は、素肌に赤い縄がいい……」

 俺の呟きに応えてか、沢渡さわたりが呟いた。
 聞こえたけど。
 守流たちの曲聞きたいから、今はスルーで。

「縄より。ゴツい男をゴツい拘束具で固めて犯すほうが、僕の好み。女装には興味ないなぁ」

 沢渡よりエロいセリフが高畑の声で聞こえたけど。
 スルーで。

 ギターソロが終わって。最後のサビが終わって。挨拶したボーカルが、マイクを守流に渡した。



「藤村です。今日、生徒会役員になりました。ありがとうございます」

 守流が笑顔でお辞儀して。観客が拍手して。

「当選したらしようと思ってたことあって。今からします。応援してください」

 いよいよ……。

「がんばれよ!」

「お前なら出来るぞ!」

「しっかりー!」

 応援の声が飛ぶ中。
 ギターを置いてカツラを放った守流がステージを横切り、東絛のもとへ。



「好きだ。つき合ってくれ」

 マイクを通して響き渡る、守流の告白。



 守流さん……!
 東絛さん……!
 オッケーオッケーオッケーオッケー!
 イエスイエスイエスイエス!



 場が静まる中。
 みんなが見守る中。

 困惑した顔で周囲を見回す東絛の視線が、左端寄りの観客の誰かに留まった……ように見えた。けど、すぐに下へ……で。
 頷いた。

 イエス?
 オッケー?
 だよな!?



 やった! 守流さん!



 歓声と冷やかしの声……の中。

 あ!



 守流が東絛にキス、した。



 いきなりの。
 さっきの俺より、心の準備ナシのキス。
 さっきの俺と違って、キスされた相手……守流への気持ちはあるはずの……なのに。
 なんか、東絛の反応が……唇を離した守流に向ける瞳に、表情に……違和感。



 大きくなる歓声と拍手を切り裂くように、ホイッスルが鳴って。
 舞台袖から現れた風紀副委員長の坂口に、守流がマイクを渡した。

「学内でソレ、禁止だよー。退場!」

 坂口が楽しそうに言い、風紀委員4人が守流たちメンバーを連行してく。

 入れ違いにステージに来た風紀委員長の瓜生くりゅうたち3人じゃなく、つい目で追ってた東絛が……去り際にまた、左端の観客へと視線を向けた。
 その顔が、苦しげっていうか切なげで……気にかかった。
 けど。
 告白に頷いてたし。
 いきなりキスされて突き飛ばしたりしなかったし。
 違和感は気のせいかも。
 うん。



 守流さんの気持ち、東絛さんに届いてよかった!



「今日は蒼隼の学祭、来てくれてありがとー。あとちょっと、楽しんでってねー!」

 坂口の挨拶に続き、ドラムスティックのカウントが鳴り。蒼隼祭ライブラストのバンド演奏が始まった。



 守流さんたちもうまいし、かっこよかったけど。
 坂口さん、普段チャラいのに……歌うと別人みたいにかっこいい!
 風紀委員長の瓜生さんのギター、超うまくてかっこいい!
 軽音部でガチ練習してるのはあんま見ないけど、たまに演ってるとこ見る度スゲッって思ってたけど。
 うまい。
 すごい。

 マジでかっこいい!



 ノリノリハイテンポの3曲が、あっという間に終わって。

「ラスト。大切な人に…………届くことを願って歌います」

 泣きのギターソロでマイナーキーのバラードが始まり。
 聴き入って……たら。

「奇跡だ……俺に……奇跡……こんな……奇跡……ありがとう……奇跡……」

 ずっと黙って聴いてた沢渡が、唱え始めた。

 隣で。
 ぶつぶつと。
 ネガティブ?
 ポジティブ?
 奇跡、は……どっちだろうな。

 坂口が歌う『奇跡じゃない』ってのに、返すみたいに。反論するみたいに。

 いいけど。
 奇跡じゃなく当然……って、坂口が歌い。
 奇跡だ、ありがとう……って、沢渡が唱え。



 どっちだよ!



 ひとりツッコミで。
 集中出来ない……!
 いや。
 今はライブに集中。
 沢渡の声は聞こえないことにしよう。

 あとで、話すし。
 考えるし。



 あーこの歌好き。
 曲も好き歌詞も好き。
 ラブソングなのに……刺さる。



 ギターのアルペジオの和音の響きが消えて、一呼吸の後。軽く頭を下げるメンバーたち。惜しみ無い拍手と歓声。
 会場を支配する演奏が出来るってマジすごい。

「すごかったですね、委員長たち。かっこよかった!」

「ああ。来てよかった」

 川北も、楽しんだみたいだ。

「藤村も……よかったな」

「はい! 守流まもるさんに、おめでとう言わなきゃ」

 ライブ、マジよかった。
 守流の告白もうまくいったし。

 あとは……。

 チラと見やった沢渡の目はまだステージに向けられてるけど。見てるのは自分の世界、みたいな瞳をしてる。

「じゃあ。今度こそ、バイバイ。僕たち急ぐから」

 高畑が言い。

「もし、何か困ることあったら連絡しろ」

 川北が俺に言い。 

「沢渡」

 名指しし。

「仲良く……ムチャはするな」

 顔を向けた沢渡に言い。

「ありがとうございます」

「……ありがとうございます」

 俺と沢渡の礼に頷いて、二人は体育館のドアへ。
 ステージ前で坂口に群がる女たち以外の観客も、徐々に外へと向かう中。
 川北と高畑がいなくなって初めて、沢渡と二人きり。目を合わせる……も。二人して無言。



 ここは沢渡が何か言うのを待とう、とか。
 俺何やってんだろうって我に返った、とか。
 じゃなく。

 俺を見つめる沢渡の瞳が、さっきまでと違って。
 すっごく静かで。

 鎮まってる、感じ?
 高畑がかけた魔法が解けた、感じ?

 だから。

 何から話せばいいかマジ、わかんなくて。
 何を言われるかマジ、わかんなくて。
 なんか……ちょっと……身構えるっていうか。



「西住」

 沢渡が先に声を出した。


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