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003 風紀委員として校内を見回り中:N

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「ラストの曲のあと、告るからさ。うまくいくよーに祈ってて」



 学祭前日の午後6時半。
 軽音部の活動場所。第2音楽室。
 明日のライブで使うエフェクターの最終チェックを終えた1コ上の2年生、藤村ふじむら守流まもるの片付けを手伝いながら。学祭や生徒会選挙のことを話してて。ライブ楽しみにしてますって言ったら、そう返され。

「マジで告るんですか? 学祭のステージで!?」

 ギターアンプから抜いたシールドを巻く手を止め、声を上げた。
 それぞれのクラスの出し物準備で今日はみんな忙しく。ほかに誰もいないから、声をひそめる必要なし。

「マジ」

 一言で答え、唇の端を上げる守流に。
 心の中で問いを重ねる。



 学祭ライブってけっこう客入ってるんじゃないですか?
 東條とうじょうさんって、目立つの苦手ですよね?
 みんなに見られてるとこで告られて、返事出来ないんじゃないですか?



 東條さん、ノンケなんですよね!?



「もう決めた。玉砕覚悟。公開失恋したら諦めるつくかもだし」

「そ……」

 うですね、なんて言えない。
 守流が東條たかしを本気で好きなの、知ってるから。
 かといって。
 そんなことないです、きっとうまくいきますよ……なんて、もっと言えない。



『やめろ! 俺はお前とは違う』

 夏休み前だったか。守流がふざけて耳元でエロいこと言ったとき、東條にそう言われて突き放されてたの見たから。
 で、そのあとへコんでるとこにも居合わせちゃって。

『軽いノリで男に絡むの楽しいし、ソレが俺のキャラだけどさ。本命はたかしだけ』
『同じバンドで演れなくなんの嫌だから、あいつが男に目覚めるまで現状維持』

 そう言ってたけど。
 そう言ってたのに、告るんだから……それなりの何かがあるんだろう。



「祈ります。がんばってください」

 俺に言えるのは、これくらい。

「おう。ゼロじゃねぇ可能性に賭ける。お前、アリだったじゃん?」

「あー……」

 守流の言葉に思い出す。



 この学園に入って。
 同性愛が普通にあって。
 軽音に入ったら、スタジオで顔見知りになった守流がいて。
 男はイイぞと布教され。



『男とやるなんて無理です。俺は女が好きです』
『やってみなきゃわかんねーだろ? 案外イケるかもよ?』
『その可能性はゼロに近いです』
『ゼロじゃねぇならアリもアリ。いっぺん試してみろって』
『女のほうがいいに決まってます』



 今まで。何人かの女とやったことあるけど、お互い軽い気持ちでつき合って。数回やるだけの関係で。それと同じ感じで、同学年のわりとかわいい好みの顔の男に誘われて。向こうも遊びで。性欲に負けて。好奇心もあって。
 抱いてみた……ら。



 ハマった。



 うちの学園に来てから男もオッケーになったヤツと、中学の寮生活からのゲイ。あわせて全校生徒の5分の3くらいが、セックスの対象になる環境にいて。おまけに性欲旺盛な高校生。恋愛ナシでやるのに抵抗のないヤツも少なくない。
 機会があれば、やっちゃうの……おかしくないよね?と、自己弁護。
 だってさ。

 好きなヤツとかいないし。
 好きな相手とか出来たことないし。
 そんなのいなくても困ってないし。

 だけど。
 まんまと男に目覚めた俺に、男同士のアレコレイロイロ教えてくれた守流さんの恋心を知った時。驚いたけど、ちょっと……羨ましくも思った。



「そうですね」

 今度は頷いた。

「全力で応援しにいきます」

「サンキュ。お前も……コイツだ!ってヤツ、見つかるといいな」

 本心で言ってるだろう守流に。

「そうですね」

 もう一度、頷くも。

 探してないから見つからないっていうか。すでに出会ってても、気づかないかも。気づいても見ないフリしちゃうかも……が、本心だった。
 恋愛に憧れに似た気持ちはあれど、愛情ってモノをよく知らないから。

 アガる気分と性欲を満たす何か。
 明日の学祭に期待するのは、それだけだった。



 翌日。
 学祭が始まり。昼過ぎまでの自由時間はクラスのヤツらと人気の出し物を見て回って楽しんで。蒼隼そうしゅんの教師たちの作るヤキソバを食べ。うちのクラスの出店の売り子当番をこなし。

 今、3時。
 2年生の川北かわきた紫道しのみちとともに、風紀委員として校内を見回り中。守流も立候補してる来期生徒会役員選挙の結果が校内放送で発表された。
 会長副会長は予想通り。そして、守流も当選。

 よかった。
 ライブでの告白に向けてプラスの流れが出来ればいい。
 そう思いつつ、川北と守流の話をして。川北がつき合ってるっていう高畑たかはた玲史れいじの話をしながら階段を降りる途中。

 下から、軽音部の高林たかばやし十希とうきと守流の声。

 俺と川北がいるのに気づかず。大声で交わされた会話は、学祭ライブでの告白のコトで。
 学園の寮で同部屋でもある志良はノンケで、告白には反対みたいで。
 人前のほうがライブのパフォーマンスの一部として笑いが取れるからフリやすい、だからチャンスだとか。嫌われることは絶対しないとか。守流の決意と思いをあらためて知って。



 誰かに本気で思われるのって、どんな感覚だろう……なんて。
 本気で誰かを好きだって感覚も知らないくせに。
 わかるわけないよな。



 二人が去り。
 2階へと足を進める。

「守流さん……成功してほしいです」

 呟くと。

「ああ。うまくいくといいな」

 川北が同意してくれる。
 今日初めて話したけど、マジメでやさしい人だ。見た目はけっこうゴツいけど。

「川北さんもライブ見に来てくださいね」

「4時まで見回りだぞ」

「3時55分から4時15分までが持ち時間みたいです。ラスト1曲と告白には間に合いますよ」

「そうか」

「高畑さんと一緒に?」

「ああ。行くなら、一緒だ」

「いいなぁ」

 フリーだったら、ぜひお近づきになりたかった。
 それに。
 やりたいのが先でつき合いたいとかなかったけど。
 今は……。

「俺も誰かとつき合いたいです。高畑さんみたいにかわいいヤツと」

 なんか、何でか……恋人がほしい気分になってきちゃって。羨ましさ倍増……。

西住にしずみ。お前、ちょっと思い違いしてるようだが……俺は玲史を抱いちゃいない」

 川北の言葉に。

「え……まだやってないんですか?」

「やってない」

 少し驚いた。
 
「それに、玲史はタチだからな」

 さらに。

「やるなら……あいつが俺に突っ込むんだ」

「え!?」

 超驚いた。

「お前の中の玲史のイメージを壊して悪いが、まぁ……そういうことだ」

「あ、の……マジで?」

 俺から教室へと視線を移し、見回りを続ける川北の後ろ姿に聞く。

「高畑さんがあなたを、抱く?」

 あのかわいい人が。
 あんなふわふわした華奢な感じの人が。



 このデカくて強そうな男を!?



「かわいい顔してようが、玲史は男だぞ」

 それは、そうだけど!

「わかってます」

 そう……あー……でも。

「高畑さんがタチなのは意外だけど、それはそれでアリだと思うし」

 うん。
 アリ、かな。
 やさしくエロく抱く感じで。
 いいかも。

「でも。あなたが抱かれる側っていうのは、正直……驚きです。イメージ湧かない。もともとなんですか?」

 失礼だしぶしつけだし、立ち入ったことだけども。

「バイなら、女ともあるんですよね? で、男には抱かれるって。最初、抵抗とかなかったんですか? 男とやる時はいつもネコ役?」

 聞かずにいられなくて。



 男を抱くのはアリのアリだけど、男に抱かれるって気になれなくて。
 俺が抱いた数人の男は見るからにネコって感じだったけど、川北は真逆な見た目で。
 タチでモテそうなのに、抱かれる側って……興味湧き湧きだ。



 川北が深い息を吐く。

「俺はどっちでもかまわない。玲史が抱きたいなら、抱かれるだけだ」

 重ねた問いの答えとしては不十分だけど、これ以上聞けない感じ……聞いちゃいけない気が……でも、聞きたい……って思ってたら。
 静かな廊下の先で、ドアの開く音。



「何でもするって言ったよなぁ? 俺らの精液便所にしてやるからさ。とりあえず、順番にしゃぶってて」

 続いて聞こえたセリフに。
 目を合わせた川北とともに前を向く。

「先にションベン出してくるわ」

 言いながら、奥の教室から茶髪の男が出て来た。
 私服で線が細く背が高いその男は、ドアを閉め。

「あー、もしかして見回り? ご苦労さん」

 のんきな声で俺たちに声をかけ……。

「待ってください」

 通り過ぎる前に、川北が茶髪の行く手を塞いだ。

「今の、聞こえました。教室の中を確認します」

「は? 何で? お前らの世話になることしてねぇぜ?」

「学園内で、風紀を乱す行為は禁止されてるんですが……」

「フェラくらい、誰も見てねぇとこなら別にいいだろ」

 さっきのセリフ。聞き間違いじゃなく、ホントに。
 今、誰かが……。

「ダメだ。とにかく、やめさせる」

 強い口調で言い放った川北が。

「はぁ? おい!」

「川北さん!」

 ドアを開けた。


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