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001 最悪の事態:S
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俺は変態だ。
物心ついた頃から、与えられた課題と勉強以外に興味を持つ時間も環境もなく。生きる理由は家のため、その義務がある。お前の生きる意味はほかにない。ソレ以外の価値はない。
そう教えられ、その通りに生きていた。
そして。
生きる理由がなくなっても。生きる義務がなくなっても。生きる価値も意味もないまま、死なないから生きている俺に。
1ヶ月ちょっと前、幸運が訪れた。
恋だ。
17年間生きてきて初めての、この人間が好きだという感情。
好きな人がいる幸せ。
好きな人を見て高鳴る胸。
好きな人の声を聞く心地よさ。
好きな人の匂いを嗅いで熱くなる心。
好きな人を想像して興奮する身体。
好きな人との性的接触を妄想してするオナニーの快感。
俺には過ぎる幸運だった。
好きになったのは、クラスメイトの西住暁。
10ヶ月通った高校を中退して入学し直した今の学園での高校生活は、可もなく不可もなく。楽しいこともツラいこともなく。必要以上に誰かと話すこともなく。ただ生きているのと同じように、ただ通っていただけの学園で。
9月の終わり。教室を出ようとした俺に、よそ見して入って来た西住が勢いよくぶつかり。床に転がった俺を慌てて抱え起こした西住の湿ったうなじが、俺の鼻先についた。
西住の体温。匂い。俺を気遣う声。まっすぐに俺を映す瞳。
あったかかった。
いい匂いだった。
いい声だった。
キレイだった。
俺のどこかが何かが西住にガツンとやられ。心臓が逸り、ぺニスがどくんと脈打った。
恋に、落ちた。
それは必然。
ぶつかった偶然の幸運に感謝したのは当然。
その日から毎日。西住を思って、幸せな日々を送った。
端から見える俺のガワに変化はなくても、中は激変。
西住が笑ってると嬉しい。
同じ教室で息することが嬉しい。
朝の挨拶を返してくれることが嬉しい。
この世に生きてることが嬉しい。
相変わらず、俺に生きる義務も価値もなかったけど。もう、ただ生きているだけじゃない。
生きる理由は西住が存在してるから。
生きる意味は西住を思うこと。
だけど。
懸念もあった。
生きるのが楽しいって知ってから、貪欲になっていく。
欲深い自分に戸惑ったのは始めだけで。
どんどんタガが外れていく。
自分に甘くなっていく。
自分の世界のルールがユルくなっていく。
罪深くなっていく。
どんどん、どんどん……ヤバくなっていく。
一般的に見て。
常識的に見て。
客観的に見て。
主観的に見て。
俺は変態だ。
自覚したのはいつだったか。
数字の問題を教える機会に恵まれ至近距離に置かれた西住の手に、うっかりを装って3回触った自分の指を舐めて興奮した時か。
下駄箱で、西住の上履きの匂いを嗅いで勃起した時か。
誰もいなくなった教室で、西住のイスに座って射精した時か。
ワイシャツの肩についた西住の髪の毛をさりげなく取って持ち帰り、1ミリ長に切って一片ずつ飲んだ時……。
とにかく。
俺は変態で。
どうしようもなく、西住が好きだ。
抑えられない強さで。
薄まらない濃さで。
病的な重さで。
唯一の救いは、俺の世界の法での禁忌。
西住を傷つけてはならない。
西住の害になってはならない。
コレを破らない限り、西住を好きでいる自分を肯定していい。妄想の中で西住から得られる性的快感を享受することに、罪悪感を持たなくていい。
まさに、バラ色の日々だ。
現実での西住に関わるつもりはなかった。思いを告げるのはもちろん、友だちのテイで近づく気もない。
同性愛だからじゃない。前の学園にゲイを公言するヤツはいなかったけど、中学には数人いたし。今の、うちの学園で同性愛は欠片も問題じゃない。ホモもバイもヘテロも同比率でいて等しく人権のある校風。
問題なのは……俺だから。
俺と関わることで西住に迷惑がかかるだろう。
俺に好かれてることが周りに知れたら、西住が恥ずかしいだろう。
俺は無価値な存在で……。
変態だからだ。
西住への気持ちを外に出さず。内ではえげつない妄想でオナニーに耽る日々は、俺にとって満ち足りた毎日で。それ以上を望むなんておこがましく。世間一般でいう片思いの切なさや苦しさと縁はなく。
西住との関係はただのクラスメイトなだけで十分だった。
西住を傷つけずにいられれば。
西住に害を及ぼさずにいられれば。
西住に知られずに好きでいられれば。
なのに。
今日。
うちの学校、蒼隼学園の学祭で。
最悪の事態に陥った。
学祭も後半になった昼下がり。クラスの出店の当番を終えて。無人の教室のベランダで、下の昇降口前広場にいる西住の姿を観賞しながらタコ焼きを食って。学祭の雰囲気は開放的で。俺の身体は健康で。性欲は旺盛で。さっきまで見てた西住の法被姿が、かわい過ぎて。脳内に描く妄想が消しても消しても浮かんできて。
西住が好き過ぎて。
今すぐオナりたくなって。
こんな俺でも、学祭で浮かれていて。学園の風紀を乱す行為はダメだけど、見つかっても俺だけの問題だし。そう、都合よく考えて。
ソレだけならまだよかった……のに。
罪を犯した。
あろうことか、西住のロッカーから制服を拝借した。
西住の匂いのついた、西住のブレザー。ついでに、洗濯前らしき体操服……醸す汗の香が最高の一品。ソレを持って、端の空き教室へ。ベランダへ。腰を下ろし、ファスナーを下ろし。射精後の汚物処理するポケットティッシュを脇に準備し。ブレザーでくるんだ体操服に顔を埋め抱きしめて。すでに勃ったぺニスを取り出して握り、目を閉じた。
明るい午後の日射しを浴びる野外で。下から聞こえる学祭の喧騒の中。ここにいる俺はひとり。俺だけの世界で俺だけの西住に、やさしく触る……リアルに想像するのに慣れ切った頭と身体の興奮は、背徳感と罪悪感で暴上がり。いつもより鮮明な画を脳内に描き、いつも以上の快感を得て。
いつもより早くイッた。
快楽の余韻に浸る前に、汚した手を拭ってぺニスをしまい。ズボンを整えようと立ち上がった瞬間。
カシャッと音がして。
『俺のも頼むぜ。変態くん』
その声に固まった。
『八、代せ……んぱい』
声の主は、中学の1コ上で同じ部活に所属していた八代だった。
『超頭いいガッコやめて、このホモ学校入ったの知ってたけどさ……』
ニヤニヤしながら、ベランダの入口にいた八代が俺の横に来て。
『男の服オカズにシコる変態んなっててうれしいぜ、後輩』
スマホの画面を俺に見せた。
『ッ……!』
撮られたのは、オナニー直後の俺。制服と体操服を抱えてズボンを押さえ、少し紅潮して満足げな顔した……。
『んー……西住?』
目の前で拡大された画に、西住の体操服。刺繍された西住の名……。
『やめ……ッ!』
やめろなんて、言う意味がない。
何をやめさせるんだ?
もう遅い。
もう手遅れだ。
もう終わりだ。
西住をオカズにオナニーしたことを知られた事実は消せない。
八代のスマホにある証拠を消せたとしても、誰かにバラされたら終わり。
俺が西住を……って噂がチラとでも流れたら終わり。
俺が死ぬ気で否定しても。
俺が死んでこの世から消えても。
学祭で気がユルんだとか大きくなったとか運が悪かったとかの言い訳はしない。
100パー俺のせい。
自分に甘くなってたせい。
欲望を抑えなかったせい。
変態なせい。
絶望で目の前が真っ暗になるとかいうけど、実際は違くて。視力が1上がったみたいに細部がよく見えて。自分の愚かさがよく見えて。自分のしたことがハッキリ見えて。自分のバカさ加減に猛烈に腹が立って。続く未来に恐怖して。
自分を呪って……。
何かに祈った。
物心ついた頃から、与えられた課題と勉強以外に興味を持つ時間も環境もなく。生きる理由は家のため、その義務がある。お前の生きる意味はほかにない。ソレ以外の価値はない。
そう教えられ、その通りに生きていた。
そして。
生きる理由がなくなっても。生きる義務がなくなっても。生きる価値も意味もないまま、死なないから生きている俺に。
1ヶ月ちょっと前、幸運が訪れた。
恋だ。
17年間生きてきて初めての、この人間が好きだという感情。
好きな人がいる幸せ。
好きな人を見て高鳴る胸。
好きな人の声を聞く心地よさ。
好きな人の匂いを嗅いで熱くなる心。
好きな人を想像して興奮する身体。
好きな人との性的接触を妄想してするオナニーの快感。
俺には過ぎる幸運だった。
好きになったのは、クラスメイトの西住暁。
10ヶ月通った高校を中退して入学し直した今の学園での高校生活は、可もなく不可もなく。楽しいこともツラいこともなく。必要以上に誰かと話すこともなく。ただ生きているのと同じように、ただ通っていただけの学園で。
9月の終わり。教室を出ようとした俺に、よそ見して入って来た西住が勢いよくぶつかり。床に転がった俺を慌てて抱え起こした西住の湿ったうなじが、俺の鼻先についた。
西住の体温。匂い。俺を気遣う声。まっすぐに俺を映す瞳。
あったかかった。
いい匂いだった。
いい声だった。
キレイだった。
俺のどこかが何かが西住にガツンとやられ。心臓が逸り、ぺニスがどくんと脈打った。
恋に、落ちた。
それは必然。
ぶつかった偶然の幸運に感謝したのは当然。
その日から毎日。西住を思って、幸せな日々を送った。
端から見える俺のガワに変化はなくても、中は激変。
西住が笑ってると嬉しい。
同じ教室で息することが嬉しい。
朝の挨拶を返してくれることが嬉しい。
この世に生きてることが嬉しい。
相変わらず、俺に生きる義務も価値もなかったけど。もう、ただ生きているだけじゃない。
生きる理由は西住が存在してるから。
生きる意味は西住を思うこと。
だけど。
懸念もあった。
生きるのが楽しいって知ってから、貪欲になっていく。
欲深い自分に戸惑ったのは始めだけで。
どんどんタガが外れていく。
自分に甘くなっていく。
自分の世界のルールがユルくなっていく。
罪深くなっていく。
どんどん、どんどん……ヤバくなっていく。
一般的に見て。
常識的に見て。
客観的に見て。
主観的に見て。
俺は変態だ。
自覚したのはいつだったか。
数字の問題を教える機会に恵まれ至近距離に置かれた西住の手に、うっかりを装って3回触った自分の指を舐めて興奮した時か。
下駄箱で、西住の上履きの匂いを嗅いで勃起した時か。
誰もいなくなった教室で、西住のイスに座って射精した時か。
ワイシャツの肩についた西住の髪の毛をさりげなく取って持ち帰り、1ミリ長に切って一片ずつ飲んだ時……。
とにかく。
俺は変態で。
どうしようもなく、西住が好きだ。
抑えられない強さで。
薄まらない濃さで。
病的な重さで。
唯一の救いは、俺の世界の法での禁忌。
西住を傷つけてはならない。
西住の害になってはならない。
コレを破らない限り、西住を好きでいる自分を肯定していい。妄想の中で西住から得られる性的快感を享受することに、罪悪感を持たなくていい。
まさに、バラ色の日々だ。
現実での西住に関わるつもりはなかった。思いを告げるのはもちろん、友だちのテイで近づく気もない。
同性愛だからじゃない。前の学園にゲイを公言するヤツはいなかったけど、中学には数人いたし。今の、うちの学園で同性愛は欠片も問題じゃない。ホモもバイもヘテロも同比率でいて等しく人権のある校風。
問題なのは……俺だから。
俺と関わることで西住に迷惑がかかるだろう。
俺に好かれてることが周りに知れたら、西住が恥ずかしいだろう。
俺は無価値な存在で……。
変態だからだ。
西住への気持ちを外に出さず。内ではえげつない妄想でオナニーに耽る日々は、俺にとって満ち足りた毎日で。それ以上を望むなんておこがましく。世間一般でいう片思いの切なさや苦しさと縁はなく。
西住との関係はただのクラスメイトなだけで十分だった。
西住を傷つけずにいられれば。
西住に害を及ぼさずにいられれば。
西住に知られずに好きでいられれば。
なのに。
今日。
うちの学校、蒼隼学園の学祭で。
最悪の事態に陥った。
学祭も後半になった昼下がり。クラスの出店の当番を終えて。無人の教室のベランダで、下の昇降口前広場にいる西住の姿を観賞しながらタコ焼きを食って。学祭の雰囲気は開放的で。俺の身体は健康で。性欲は旺盛で。さっきまで見てた西住の法被姿が、かわい過ぎて。脳内に描く妄想が消しても消しても浮かんできて。
西住が好き過ぎて。
今すぐオナりたくなって。
こんな俺でも、学祭で浮かれていて。学園の風紀を乱す行為はダメだけど、見つかっても俺だけの問題だし。そう、都合よく考えて。
ソレだけならまだよかった……のに。
罪を犯した。
あろうことか、西住のロッカーから制服を拝借した。
西住の匂いのついた、西住のブレザー。ついでに、洗濯前らしき体操服……醸す汗の香が最高の一品。ソレを持って、端の空き教室へ。ベランダへ。腰を下ろし、ファスナーを下ろし。射精後の汚物処理するポケットティッシュを脇に準備し。ブレザーでくるんだ体操服に顔を埋め抱きしめて。すでに勃ったぺニスを取り出して握り、目を閉じた。
明るい午後の日射しを浴びる野外で。下から聞こえる学祭の喧騒の中。ここにいる俺はひとり。俺だけの世界で俺だけの西住に、やさしく触る……リアルに想像するのに慣れ切った頭と身体の興奮は、背徳感と罪悪感で暴上がり。いつもより鮮明な画を脳内に描き、いつも以上の快感を得て。
いつもより早くイッた。
快楽の余韻に浸る前に、汚した手を拭ってぺニスをしまい。ズボンを整えようと立ち上がった瞬間。
カシャッと音がして。
『俺のも頼むぜ。変態くん』
その声に固まった。
『八、代せ……んぱい』
声の主は、中学の1コ上で同じ部活に所属していた八代だった。
『超頭いいガッコやめて、このホモ学校入ったの知ってたけどさ……』
ニヤニヤしながら、ベランダの入口にいた八代が俺の横に来て。
『男の服オカズにシコる変態んなっててうれしいぜ、後輩』
スマホの画面を俺に見せた。
『ッ……!』
撮られたのは、オナニー直後の俺。制服と体操服を抱えてズボンを押さえ、少し紅潮して満足げな顔した……。
『んー……西住?』
目の前で拡大された画に、西住の体操服。刺繍された西住の名……。
『やめ……ッ!』
やめろなんて、言う意味がない。
何をやめさせるんだ?
もう遅い。
もう手遅れだ。
もう終わりだ。
西住をオカズにオナニーしたことを知られた事実は消せない。
八代のスマホにある証拠を消せたとしても、誰かにバラされたら終わり。
俺が西住を……って噂がチラとでも流れたら終わり。
俺が死ぬ気で否定しても。
俺が死んでこの世から消えても。
学祭で気がユルんだとか大きくなったとか運が悪かったとかの言い訳はしない。
100パー俺のせい。
自分に甘くなってたせい。
欲望を抑えなかったせい。
変態なせい。
絶望で目の前が真っ暗になるとかいうけど、実際は違くて。視力が1上がったみたいに細部がよく見えて。自分の愚かさがよく見えて。自分のしたことがハッキリ見えて。自分のバカさ加減に猛烈に腹が立って。続く未来に恐怖して。
自分を呪って……。
何かに祈った。
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