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第12章 準備
午前中の森で
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翌日の水曜日。
ヤツへの復讐第一段階の実行日。
今朝も昨日と同じように、みんながダイニングルームを出ていくのを見送った。
一番先に館を出る烈に合わせて早めに起きて。朝食を一緒に食べながら、夕食後に話をする約束をした。
もし、烈にひとりで抱え込んでいる悩みがあるなら、それを聞くために。
僕は烈と、お互いに理解し合える友人になりたい。
復讐のための同志であり、協力者であるだけじゃなく。
午前中。今日も森に来ていた。
私道を10分程歩いて、左側の森に入る。
少し行ったところにある小屋Aの前で足を止めた。ここはヤツの作業場であり、僕の復讐第一段階の舞台にもなる。
昨日の夕食時。奏子の友だちのミカちゃんの話題が出た時、さり気なくショウに彼女の名字を聞いた。
ミカちゃんのフルネームは、篠田実花。
つまり、ヤツの名は篠田。
復讐相手の名前くらい、知っておかなきゃね。
『僕は今日ここで、あなたに気に入られようと思ってる。よろしく、篠田』
ヤツを名前で呼ぶことであらためて復讐への決意を実感し、小屋Aを後にして森の中を進んだ。
昨日と同様、大通りの手前の空き地に出る。
プレハブ小屋の前に、昨日はなかった原付バイクがあった。1台だけだった自転車も2台に増えている。
館から大通りまでの私道は約2キロメートル。通学には、駐車スペースのこの空き地まで自転車か原付で来るって今朝聞いた。
自転車は烈と汐で、原付は凱とリージェイクかな。私有地の私道なら、免許は要らないらしい。
来週から僕もここまで自転車で、その先は歩いて10分くらいの場所にある小学校に通う。
学校に行くのはやっぱり面倒だなと思いながら、空き地から私道に出たところでふと気づいた。
篠田は、ここまで車で来るんじゃないの?
奏子の話を思い返す。
子猫たちを拾った日、私道の入り口からはみんなでショウの車に乗って途中まで来た。
篠田が奏子を小屋Aに連れていった日、二人は私道を歩いていた。
だけど。
空き地までは篠田の車で来たかもしれない。
私道に車が擦れ違える幅はないし、館の車庫に空きはなさそうだ。つまり、来客の車は空き地の駐車スペースに停めておくしかない。
館の森で作業する時、篠田は自分の車を空き地に駐車している。確信はないけど、たぶんそう。
だとすると……。
もし僕が篠田を小屋Aに監禁した場合、ヤツの車がここに残る。
車があれば、この敷地内のどこかにいることになる。
復讐が1日足らずで済むとは思えない。
どうしようか……。
まずは、篠田が車で来るかそうか確認して、違うならそれでよし。
車で来るなら……対策を考えなきゃ。
そうはいっても、車をどこかに移動する以外に対処法はない。
僕と烈に、車を移動させることは出来ない。
ミカちゃんの家がここからどれくらい離れているかわからないけど。いつも車で来てるなら、復讐決行日にたまたま歩きで来るなんてラッキーは期待出来ない。
私道の反対側の森を歩きながら、考え続けた。
もし、篠田が車で来て。万が一、僕と烈で車を動かせたとしても。
こんなにランダムに木が茂ってる森の中に車を乗り入れるのは、到底無理だ。かといって、私道から大通りに出てどこかに運ぶのはもっと無理。
小学生が運転してたら一発で通報されちゃうだろうし、事故の危険は冒せない。
あとは……。
小屋Bが見えてきた。
歩調を緩めて小屋に向かった。すぐ先に、昨日リージェイクと話し込んだ東屋がある。
東屋のベンチに腰を下ろして、小屋Bを眺める。
おとといの夜。
あの小屋で血まみれのセックスを強いられた凱は、介抱されてた時……『子どもに手ぇ出すヤツは、ぶっ壊す』と言っていた。
昨日の夜。
チャイルドマレスターのことを『あいつらは最悪な生き物だからな』と言った凱は、僕が悪いことする時に頼るのは自分にして……って。
館の人間に気づかれないために、篠田の車を移動させる必要がある場合は……凱に頼もう。
ほかの選択肢はない。
もちろん、凱がノーって言えば無理強いは出来ないけど。
きっと手を貸してくれるはず。
僕の復讐計画を凱にどう話すか考えながら森を進み、子猫のおうちに着いた。
僕を見て鳴き声を上げるクロたちは、初めて会ってからの5日間でだいぶしっかりとしてきている。足取りも、鳴き声も。
この場所に隠しておくのは、どのみち限界だ。
箱の高さも、もう少しでジャンプして越えられそう……。
僕の指にじゃれついてきたチャロを抱き上げたところで、人の気配を感じて立ち上がった。
辺りを見回しても、人影はまだない。
だけど、感じる。
誰か……リシールが、近くにいる。
チャロをそっと箱の中に戻し、切り株とべニアで出来た子猫のおうちから離れた。館から続く小径のほうに歩こうとして、足を止める。
視界に現れた人影は、まっすぐこっちに向かって歩きながら軽く手を上げた。
「ジャルド!」
修哉さんが僕を呼んだ。
「猫の様子はどうだ?」
その口ぶりから、修哉さんはクロたちの存在をとっくに知っている。
深い溜息をついた。
子猫たちをこのまま置いておけないことは明らかだ。気温も大きさも、そろそろ限界。館の中じゃないとしても、どこかに移動する必要があることは十分わかってる。
だけど……。
今、修哉さんにそれをオファーされたら困る。
今日の夕方に、子猫たちがあそこにいないと……僕の計画が崩れる。
あと1日、せめて夜まで。
近づいてくる修哉さんに笑顔を向けたまま、子猫たちをあのままにしておける方法を全力で探った。
ヤツへの復讐第一段階の実行日。
今朝も昨日と同じように、みんながダイニングルームを出ていくのを見送った。
一番先に館を出る烈に合わせて早めに起きて。朝食を一緒に食べながら、夕食後に話をする約束をした。
もし、烈にひとりで抱え込んでいる悩みがあるなら、それを聞くために。
僕は烈と、お互いに理解し合える友人になりたい。
復讐のための同志であり、協力者であるだけじゃなく。
午前中。今日も森に来ていた。
私道を10分程歩いて、左側の森に入る。
少し行ったところにある小屋Aの前で足を止めた。ここはヤツの作業場であり、僕の復讐第一段階の舞台にもなる。
昨日の夕食時。奏子の友だちのミカちゃんの話題が出た時、さり気なくショウに彼女の名字を聞いた。
ミカちゃんのフルネームは、篠田実花。
つまり、ヤツの名は篠田。
復讐相手の名前くらい、知っておかなきゃね。
『僕は今日ここで、あなたに気に入られようと思ってる。よろしく、篠田』
ヤツを名前で呼ぶことであらためて復讐への決意を実感し、小屋Aを後にして森の中を進んだ。
昨日と同様、大通りの手前の空き地に出る。
プレハブ小屋の前に、昨日はなかった原付バイクがあった。1台だけだった自転車も2台に増えている。
館から大通りまでの私道は約2キロメートル。通学には、駐車スペースのこの空き地まで自転車か原付で来るって今朝聞いた。
自転車は烈と汐で、原付は凱とリージェイクかな。私有地の私道なら、免許は要らないらしい。
来週から僕もここまで自転車で、その先は歩いて10分くらいの場所にある小学校に通う。
学校に行くのはやっぱり面倒だなと思いながら、空き地から私道に出たところでふと気づいた。
篠田は、ここまで車で来るんじゃないの?
奏子の話を思い返す。
子猫たちを拾った日、私道の入り口からはみんなでショウの車に乗って途中まで来た。
篠田が奏子を小屋Aに連れていった日、二人は私道を歩いていた。
だけど。
空き地までは篠田の車で来たかもしれない。
私道に車が擦れ違える幅はないし、館の車庫に空きはなさそうだ。つまり、来客の車は空き地の駐車スペースに停めておくしかない。
館の森で作業する時、篠田は自分の車を空き地に駐車している。確信はないけど、たぶんそう。
だとすると……。
もし僕が篠田を小屋Aに監禁した場合、ヤツの車がここに残る。
車があれば、この敷地内のどこかにいることになる。
復讐が1日足らずで済むとは思えない。
どうしようか……。
まずは、篠田が車で来るかそうか確認して、違うならそれでよし。
車で来るなら……対策を考えなきゃ。
そうはいっても、車をどこかに移動する以外に対処法はない。
僕と烈に、車を移動させることは出来ない。
ミカちゃんの家がここからどれくらい離れているかわからないけど。いつも車で来てるなら、復讐決行日にたまたま歩きで来るなんてラッキーは期待出来ない。
私道の反対側の森を歩きながら、考え続けた。
もし、篠田が車で来て。万が一、僕と烈で車を動かせたとしても。
こんなにランダムに木が茂ってる森の中に車を乗り入れるのは、到底無理だ。かといって、私道から大通りに出てどこかに運ぶのはもっと無理。
小学生が運転してたら一発で通報されちゃうだろうし、事故の危険は冒せない。
あとは……。
小屋Bが見えてきた。
歩調を緩めて小屋に向かった。すぐ先に、昨日リージェイクと話し込んだ東屋がある。
東屋のベンチに腰を下ろして、小屋Bを眺める。
おとといの夜。
あの小屋で血まみれのセックスを強いられた凱は、介抱されてた時……『子どもに手ぇ出すヤツは、ぶっ壊す』と言っていた。
昨日の夜。
チャイルドマレスターのことを『あいつらは最悪な生き物だからな』と言った凱は、僕が悪いことする時に頼るのは自分にして……って。
館の人間に気づかれないために、篠田の車を移動させる必要がある場合は……凱に頼もう。
ほかの選択肢はない。
もちろん、凱がノーって言えば無理強いは出来ないけど。
きっと手を貸してくれるはず。
僕の復讐計画を凱にどう話すか考えながら森を進み、子猫のおうちに着いた。
僕を見て鳴き声を上げるクロたちは、初めて会ってからの5日間でだいぶしっかりとしてきている。足取りも、鳴き声も。
この場所に隠しておくのは、どのみち限界だ。
箱の高さも、もう少しでジャンプして越えられそう……。
僕の指にじゃれついてきたチャロを抱き上げたところで、人の気配を感じて立ち上がった。
辺りを見回しても、人影はまだない。
だけど、感じる。
誰か……リシールが、近くにいる。
チャロをそっと箱の中に戻し、切り株とべニアで出来た子猫のおうちから離れた。館から続く小径のほうに歩こうとして、足を止める。
視界に現れた人影は、まっすぐこっちに向かって歩きながら軽く手を上げた。
「ジャルド!」
修哉さんが僕を呼んだ。
「猫の様子はどうだ?」
その口ぶりから、修哉さんはクロたちの存在をとっくに知っている。
深い溜息をついた。
子猫たちをこのまま置いておけないことは明らかだ。気温も大きさも、そろそろ限界。館の中じゃないとしても、どこかに移動する必要があることは十分わかってる。
だけど……。
今、修哉さんにそれをオファーされたら困る。
今日の夕方に、子猫たちがあそこにいないと……僕の計画が崩れる。
あと1日、せめて夜まで。
近づいてくる修哉さんに笑顔を向けたまま、子猫たちをあのままにしておける方法を全力で探った。
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