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第11章 解放する者
オレの中の悪いモノ
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「ありすぎて、どれかわかんねぇよ」
「凱が投げやりなことして危険な目にあったって」
「んーじゃあ……アレかなー」
「リージェイクは何て言ったの? 聞いても教えてくれなくて」
「ジェイクが言いたくねぇこと、オレに言わせんの?」
「凱に聞くって言ってある」
「あー……」
「今日、リージェイクがいろいろ話してくれたんだ。つらいことや言いにくいことも。過去にあったこと」
「そっかぁ……」
「だけど、凱に言ったそれは話さなくて……ひどく気になった。冷静な彼があなたに凄んで口にしたなら、掛け値なしの本心でしょ?」
「でもさー……」
渋る凱に、真剣な瞳を向ける。
「僕と意見が衝突した時は、お互いに自分の大切なものを優先しようって決めたんだ。だから、知りたい」
凱の眉間に微かな皺が寄る。
「聞いたら、おまえの気分が落ちるぜ」
「かまわないよ」
「さっき、おまえとジェイクは普通と成長具合が違うって言ったじゃん? 何でそうなのかわかってんの?」
「継承者だから?」
「も少し詳しく」
詳しく?
継承者の精神はリシールとして以上に成長速度が速い。
なぜなら……。
「寿命が短いから、その分早く成熟する。そうしないと時間がないから……?」
「平然と言うね」
「事実だし、倍の時間生きたからって倍楽しいわけでもないでしょ?」
継承者の寿命は34年弱
僕もリージェイクも、33歳の間に死ぬ。
例外はなし。
「まぁ……そーかもしんねぇけど」
「それとどう関係あるの?」
凱が短い溜息をひとつ落とす。
「『命を賭けるような真似は、僕が死んだあとでやってくれ。17年後に。きみの好きなだけ』って。すごい剣幕でさ」
自分が死んだあとで……。
つまり。
自分が生きている間は無茶しないでくれ。
これが、自分勝手で恥ずかしいこと……か。
リージェイクはそこまで凱を……?
「さすがに堪えた?」
「うん。かなり」
素直なのは本当に素なんだな。
「リージェイクが怒ったかいあったね」
薄い笑みを浮かべた。
「ジャルド」
「何?」
「おまえ、怖いもんねぇの? セックス以外に」
「今は特にない……かな。凱は?」
「オレは今無敵。自分の外に怖いもん何もなし。あー……ジェイクだけ例外」
「え……怒られるのが? それとも心配されるのが?」
「言うこと聞きたくなっちゃうのが」
「何で……?」
「さーねー。オレが弱いから? これ以上最低なとこ見られたくねぇなーって」
凱が僕を見つめ。その瞳が怪しく光る。
「まだやりたいことあんの。だからさ」
「それって、悪い人間をやっつけること?」
「そんな高尚なもんじゃねぇよ。ただの自己満足。オレの中の悪いモノにエサやってんの。やんなきゃ自分が食われるから生贄」
自分の中の悪いモノ……負の部分。
凱が内に飼っているモノ。
僕の内にもいるだろうモノ。
「その悪いモノが悪い人間を壊すの?」
「そーね。悪いヤツは悪いモノで潰すのがお似合いだろ」
「苦しくならない? 良心が痛むとか罪悪感とか……」
「なんねぇよ。そん時は相手に合わせてるからな。子どもをレイプするヤツが、突っ込む時に良心だ罪悪感だ考えてると思ってんの?」
思っていない。
アイツらの頭にあるのは自分の欲望だけ。
だから、ああいうことが出来るんだ。
「ううん。あとで考えて、後悔してるかもしれないけど」
「『あと』なんて、やられたほうにはねぇんだよ」
凱の口元の痣が歪む。
「後悔すんならハナからやんじゃねーよ。悪いってわかってやってんなら、後悔しねぇで狂うまで泣いて苦しめバーカ」
暫しの間。
僕の視線の先で、凱の瞳に黒い笑い。
「あなた自身にも言ってるんだね、それ」
「そー。悪いことすんなら覚悟しとかねぇとさ。おまえもよく考えろよ」
「僕は……」
何て言う?
悪にはならないから?
悪になっても後悔しないから?
後悔しても苦しむ覚悟は出来てるから?
いや、その前に。
僕に悪になる予定があるって……認めていいのか?
「僕は凱と同じなんでしょ? あなたが今壊れてないなら、僕も大丈夫」
とりあえず明言を避けた。
出来れば認めて、全部話して……教えを乞いたかった。
僕にも復讐したい人間がいる。
僕にも悪になって壊したい人間がいる。
でも、そのせいで傷つく罪のない人間がいる。
自分が傷つくのはかまわない。
自分が苦しむのは受け入れる。
でも、悪くない人間を苦しめたくはない。
それが避けられないなら、そのことで自分がさらに受ける苦痛を耐える方法が知りたい。
心を無視するには。
心を捨てるには。
心を麻痺させるには、どうするのがベストか。
そして。
冷酷な人間から素の自分に戻るには、何を失くしてはならないのか。
凱は答えを知っている。
だから、今ここにいる凱なんだ。
これまでに何をしてきたとしても。
だけど。
まだ今は……すべてを見せることは出来ない。
リージェイクに知られるリスクは負えないから。
「凱が投げやりなことして危険な目にあったって」
「んーじゃあ……アレかなー」
「リージェイクは何て言ったの? 聞いても教えてくれなくて」
「ジェイクが言いたくねぇこと、オレに言わせんの?」
「凱に聞くって言ってある」
「あー……」
「今日、リージェイクがいろいろ話してくれたんだ。つらいことや言いにくいことも。過去にあったこと」
「そっかぁ……」
「だけど、凱に言ったそれは話さなくて……ひどく気になった。冷静な彼があなたに凄んで口にしたなら、掛け値なしの本心でしょ?」
「でもさー……」
渋る凱に、真剣な瞳を向ける。
「僕と意見が衝突した時は、お互いに自分の大切なものを優先しようって決めたんだ。だから、知りたい」
凱の眉間に微かな皺が寄る。
「聞いたら、おまえの気分が落ちるぜ」
「かまわないよ」
「さっき、おまえとジェイクは普通と成長具合が違うって言ったじゃん? 何でそうなのかわかってんの?」
「継承者だから?」
「も少し詳しく」
詳しく?
継承者の精神はリシールとして以上に成長速度が速い。
なぜなら……。
「寿命が短いから、その分早く成熟する。そうしないと時間がないから……?」
「平然と言うね」
「事実だし、倍の時間生きたからって倍楽しいわけでもないでしょ?」
継承者の寿命は34年弱
僕もリージェイクも、33歳の間に死ぬ。
例外はなし。
「まぁ……そーかもしんねぇけど」
「それとどう関係あるの?」
凱が短い溜息をひとつ落とす。
「『命を賭けるような真似は、僕が死んだあとでやってくれ。17年後に。きみの好きなだけ』って。すごい剣幕でさ」
自分が死んだあとで……。
つまり。
自分が生きている間は無茶しないでくれ。
これが、自分勝手で恥ずかしいこと……か。
リージェイクはそこまで凱を……?
「さすがに堪えた?」
「うん。かなり」
素直なのは本当に素なんだな。
「リージェイクが怒ったかいあったね」
薄い笑みを浮かべた。
「ジャルド」
「何?」
「おまえ、怖いもんねぇの? セックス以外に」
「今は特にない……かな。凱は?」
「オレは今無敵。自分の外に怖いもん何もなし。あー……ジェイクだけ例外」
「え……怒られるのが? それとも心配されるのが?」
「言うこと聞きたくなっちゃうのが」
「何で……?」
「さーねー。オレが弱いから? これ以上最低なとこ見られたくねぇなーって」
凱が僕を見つめ。その瞳が怪しく光る。
「まだやりたいことあんの。だからさ」
「それって、悪い人間をやっつけること?」
「そんな高尚なもんじゃねぇよ。ただの自己満足。オレの中の悪いモノにエサやってんの。やんなきゃ自分が食われるから生贄」
自分の中の悪いモノ……負の部分。
凱が内に飼っているモノ。
僕の内にもいるだろうモノ。
「その悪いモノが悪い人間を壊すの?」
「そーね。悪いヤツは悪いモノで潰すのがお似合いだろ」
「苦しくならない? 良心が痛むとか罪悪感とか……」
「なんねぇよ。そん時は相手に合わせてるからな。子どもをレイプするヤツが、突っ込む時に良心だ罪悪感だ考えてると思ってんの?」
思っていない。
アイツらの頭にあるのは自分の欲望だけ。
だから、ああいうことが出来るんだ。
「ううん。あとで考えて、後悔してるかもしれないけど」
「『あと』なんて、やられたほうにはねぇんだよ」
凱の口元の痣が歪む。
「後悔すんならハナからやんじゃねーよ。悪いってわかってやってんなら、後悔しねぇで狂うまで泣いて苦しめバーカ」
暫しの間。
僕の視線の先で、凱の瞳に黒い笑い。
「あなた自身にも言ってるんだね、それ」
「そー。悪いことすんなら覚悟しとかねぇとさ。おまえもよく考えろよ」
「僕は……」
何て言う?
悪にはならないから?
悪になっても後悔しないから?
後悔しても苦しむ覚悟は出来てるから?
いや、その前に。
僕に悪になる予定があるって……認めていいのか?
「僕は凱と同じなんでしょ? あなたが今壊れてないなら、僕も大丈夫」
とりあえず明言を避けた。
出来れば認めて、全部話して……教えを乞いたかった。
僕にも復讐したい人間がいる。
僕にも悪になって壊したい人間がいる。
でも、そのせいで傷つく罪のない人間がいる。
自分が傷つくのはかまわない。
自分が苦しむのは受け入れる。
でも、悪くない人間を苦しめたくはない。
それが避けられないなら、そのことで自分がさらに受ける苦痛を耐える方法が知りたい。
心を無視するには。
心を捨てるには。
心を麻痺させるには、どうするのがベストか。
そして。
冷酷な人間から素の自分に戻るには、何を失くしてはならないのか。
凱は答えを知っている。
だから、今ここにいる凱なんだ。
これまでに何をしてきたとしても。
だけど。
まだ今は……すべてを見せることは出来ない。
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