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第11章 解放する者
わかり合いたい
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夕日が沈む前に、僕と奏子は館に戻った。
子猫のおうちでの奏子との会話が、僕の中で後を引いている。
『おじさんがこの森にも奏子の近くにも来なくなっても、ミカちゃんのパパなのは変わらないよ』
結局、友だちを心配する奏子に僕が言えたのはこれだけ。
ヤツへの復讐の最終段階は、まだ決まっていない。
だけど。
少なくとも、ヤツが奏子の前に二度と顔を出せないようにするつもりだし……ヤツに社会的制裁を受けさせて、どこかに逃げ隠れするしかない状況に追い込むかもしれない。
それは、奏子と共有出来ない僕の計画だ。
一応は安心した様子の奏子にホッとして、その後はお芋ほりの話を楽しく聞いた。
そして。
館に戻る道すがら、奏子に烈のことを聞いてみた。
「んーとね、レツは先生みたいなの。わからないこと聞くと、すごくたくさん教えてくれるんだよ」
「そっか。烈はいろんなこと知ってるから。いいお兄ちゃんだね」
「うん」
「奏子は、烈がなんかおかしいなって思うことあった? いつもと違うなとか、怒ってるとか悲しそうとか」
「うーん……わかんない。レツはいつもちゃんとしてるもん。カイはね、顔にムラサキになってるとこがあったりするの。痛くない?って聞くと、痛くても平気なのって言うんだよ」
「そうなんだ」
ケンカで顔に青アザを作った凱を想像した。
「ケガはしてほしくないね」
「うん。レツはケガしてないよ。おかしなこととか悲しそうとかはね、うーんと……」
「ごめん。思い出したらでいいよ」
考え込む奏子に言いながら、烈を探っている自分がちょっと嫌になる。
知りたいことがあるなら、烈に直接尋ねればいい。
それはもちろん、わかっている。
なのに、奏子に聞くのは……。
烈は僕に話さないかもしれないって思うから。
リージェイクから見た烈は、ラストワの次に心を隠すのがうまい。
そして。
プライドを守ろうとはしない凱は素直だって話をした時に、彼自身も言っていた。
『凱のそういうとこ、見習いたいよ。僕は素直に人に弱みを見せたり、助けを求めたり出来ないから』
だから、烈の心への取っかかりがほしい。
ほんの小さな情報が、僕たちを近づけるきっかけになるかもしれない。
僕と烈は同志であり、お互いの協力者だ。
それがなかったとしても。
友だちとして、わかり合いたい。
心を見せ合うことが出来れば、良き理解者にもなれる……なりたいと思う。
かつての凱とリージェイクみたいに。
そう考えて、自嘲する。
烈に心を見せてほしいって願うくせに、自分の心は彼に見せていない。
復讐への思いは共有した。
だけど。
さらけ出すことで自尊心を損ねるものは、見せられずにいる。
そんな僕が、何をえらそうに考えているんだろう。
リージェイクの心配通り烈が苦しんでいるのなら、彼の力になりたい。
そのために彼の苦しみの原因を知りたいなら、逆も可能じゃなきゃ無理だ。
自分の苦しみを烈に知ってもらい、力になってほしいと願う。
それが出来ないうちは。
理解したい、なんて……言えないよね。
烈の話は終わりにして別の話題に移ろうとした時、奏子が声を上げた。
「あ、そうだ! 1回ね、レツお部屋から出てこなかったんだよ。夜も次の日も」
「え? 次の日もって……ずっと?」
「うん。ショウがゴハン運んでたの。すごく心配してた」
1日か2日か、烈が部屋に引きこもっていたことがある。
ショウに心配をかけないように気を配っている烈が……。
もし、何かがあったとしたら、きっとこの時だ。
「それ、いつ頃かわかる? 夏とか春とか」
「カイがいなかったとき」
そのときのことをすっかり思い出したらしく、奏子はすぐに答えた。
「お泊りでカイがいなくて、でも帰ってきたらレツ部屋から出てきたんだよ。おかえりなさいって」
「そう……か。よかった」
「次の日ね、パパと一緒にぎんなん拾いに行ったの。レツも」
「ぎんなん? イチョウの実だよね」
「うん。食べるのは嫌い。苦いんだもん。拾うのは好き」
「今年はまだ拾ってないの?」
「パパが帰ってきたら行くの。ジャルドも一緒に行こ!」
「うん。食べてみたいな」
「おいしくないよー。あとね、くさくて花壇のとこに埋めちゃうからすぐ食べれないの」
「へぇ……臭い匂いするんだ。埋めるなんて面白いね」
銀杏の話を聞きながら考える。
烈に何かあったとしたら、銀杏を拾えるこの時期……1年前くらいの出来事だ。
ショウに心配をかけてまで部屋に閉じこもった。
だけど、凱が帰ったら出てきた。
つまり……凱には知られたくないことだった。
もちろん、ショウにもだろうけど。
彼女に理由を聞かれても、言わないか嘘をつくか出来る。
でも。
心配させて問い詰められたら、きっと凱に嘘はつけない。
だから、平常に戻した……大したことじゃないって言えるうちに。
もし僕だったらそうすると思う仮定だけど、たぶん烈も同じように考えたはず。
凱に会う前に奏子から話を聞けてよかった。
烈が凱に隠したいことだったら。
僕が烈の様子を尋ねて、その時のことを蒸し返して……凱に感づかれるわけにはいかない。
出来るだけ早いうちに烈と話したい。
話さなきゃ……と思った。
子猫のおうちでの奏子との会話が、僕の中で後を引いている。
『おじさんがこの森にも奏子の近くにも来なくなっても、ミカちゃんのパパなのは変わらないよ』
結局、友だちを心配する奏子に僕が言えたのはこれだけ。
ヤツへの復讐の最終段階は、まだ決まっていない。
だけど。
少なくとも、ヤツが奏子の前に二度と顔を出せないようにするつもりだし……ヤツに社会的制裁を受けさせて、どこかに逃げ隠れするしかない状況に追い込むかもしれない。
それは、奏子と共有出来ない僕の計画だ。
一応は安心した様子の奏子にホッとして、その後はお芋ほりの話を楽しく聞いた。
そして。
館に戻る道すがら、奏子に烈のことを聞いてみた。
「んーとね、レツは先生みたいなの。わからないこと聞くと、すごくたくさん教えてくれるんだよ」
「そっか。烈はいろんなこと知ってるから。いいお兄ちゃんだね」
「うん」
「奏子は、烈がなんかおかしいなって思うことあった? いつもと違うなとか、怒ってるとか悲しそうとか」
「うーん……わかんない。レツはいつもちゃんとしてるもん。カイはね、顔にムラサキになってるとこがあったりするの。痛くない?って聞くと、痛くても平気なのって言うんだよ」
「そうなんだ」
ケンカで顔に青アザを作った凱を想像した。
「ケガはしてほしくないね」
「うん。レツはケガしてないよ。おかしなこととか悲しそうとかはね、うーんと……」
「ごめん。思い出したらでいいよ」
考え込む奏子に言いながら、烈を探っている自分がちょっと嫌になる。
知りたいことがあるなら、烈に直接尋ねればいい。
それはもちろん、わかっている。
なのに、奏子に聞くのは……。
烈は僕に話さないかもしれないって思うから。
リージェイクから見た烈は、ラストワの次に心を隠すのがうまい。
そして。
プライドを守ろうとはしない凱は素直だって話をした時に、彼自身も言っていた。
『凱のそういうとこ、見習いたいよ。僕は素直に人に弱みを見せたり、助けを求めたり出来ないから』
だから、烈の心への取っかかりがほしい。
ほんの小さな情報が、僕たちを近づけるきっかけになるかもしれない。
僕と烈は同志であり、お互いの協力者だ。
それがなかったとしても。
友だちとして、わかり合いたい。
心を見せ合うことが出来れば、良き理解者にもなれる……なりたいと思う。
かつての凱とリージェイクみたいに。
そう考えて、自嘲する。
烈に心を見せてほしいって願うくせに、自分の心は彼に見せていない。
復讐への思いは共有した。
だけど。
さらけ出すことで自尊心を損ねるものは、見せられずにいる。
そんな僕が、何をえらそうに考えているんだろう。
リージェイクの心配通り烈が苦しんでいるのなら、彼の力になりたい。
そのために彼の苦しみの原因を知りたいなら、逆も可能じゃなきゃ無理だ。
自分の苦しみを烈に知ってもらい、力になってほしいと願う。
それが出来ないうちは。
理解したい、なんて……言えないよね。
烈の話は終わりにして別の話題に移ろうとした時、奏子が声を上げた。
「あ、そうだ! 1回ね、レツお部屋から出てこなかったんだよ。夜も次の日も」
「え? 次の日もって……ずっと?」
「うん。ショウがゴハン運んでたの。すごく心配してた」
1日か2日か、烈が部屋に引きこもっていたことがある。
ショウに心配をかけないように気を配っている烈が……。
もし、何かがあったとしたら、きっとこの時だ。
「それ、いつ頃かわかる? 夏とか春とか」
「カイがいなかったとき」
そのときのことをすっかり思い出したらしく、奏子はすぐに答えた。
「お泊りでカイがいなくて、でも帰ってきたらレツ部屋から出てきたんだよ。おかえりなさいって」
「そう……か。よかった」
「次の日ね、パパと一緒にぎんなん拾いに行ったの。レツも」
「ぎんなん? イチョウの実だよね」
「うん。食べるのは嫌い。苦いんだもん。拾うのは好き」
「今年はまだ拾ってないの?」
「パパが帰ってきたら行くの。ジャルドも一緒に行こ!」
「うん。食べてみたいな」
「おいしくないよー。あとね、くさくて花壇のとこに埋めちゃうからすぐ食べれないの」
「へぇ……臭い匂いするんだ。埋めるなんて面白いね」
銀杏の話を聞きながら考える。
烈に何かあったとしたら、銀杏を拾えるこの時期……1年前くらいの出来事だ。
ショウに心配をかけてまで部屋に閉じこもった。
だけど、凱が帰ったら出てきた。
つまり……凱には知られたくないことだった。
もちろん、ショウにもだろうけど。
彼女に理由を聞かれても、言わないか嘘をつくか出来る。
でも。
心配させて問い詰められたら、きっと凱に嘘はつけない。
だから、平常に戻した……大したことじゃないって言えるうちに。
もし僕だったらそうすると思う仮定だけど、たぶん烈も同じように考えたはず。
凱に会う前に奏子から話を聞けてよかった。
烈が凱に隠したいことだったら。
僕が烈の様子を尋ねて、その時のことを蒸し返して……凱に感づかれるわけにはいかない。
出来るだけ早いうちに烈と話したい。
話さなきゃ……と思った。
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