滅びろ人間!小児性犯罪者への復讐

Kinon

文字の大きさ
上 下
94 / 110
第11章 解放する者

誰かを犠牲にする覚悟

しおりを挟む
 負の感情は誰の心にもある。
 そして、それはマイナスに作用するばかりじゃない。

 悔しさをバネにとか。
 悲しみを知っているからこそやさしくなれるとか。
 絶望の先に新たな可能性を見出すとか。
 要は心の持ちようだと考える人もいる。

 それでも。
 考え方や意思の力でプラスに変換するのは不可能なくらい、強大な負の感情は存在する。

 その負の感情の許容量は、人によって違うだろう。
 本当なら。
 溜め込まずに小出しに吐き出して解消したり、うまくプラスに作用させて有効活用したり出来ればいい。

 だけど、負の感情はストレスより手強いもの。



 さらに。
 それが負の思考と組み合わさると、負の部分として自分の中に定着する。
 そして、育つ。

 はじめは全く気づかない。
 確かに自分の一部なのに、無意識下で力を増していく生き物のようなその負の部分に気づいた時。
 示される選択肢から何を選ぶか……決めるのは自分だ。

 僕は負の部分の解放を選んだ。
 決意に混じる迷いをすべて消し去ることは出来るだろうか。



 館の玄関先で、奏子におみやげのサツマイモを見せてもらった。
 保育園の畑で収穫したそれらは、大きいのも小さいのもあった。

 ショウがすぐに蒸してくれるそうで、奏子はご機嫌。

 掘ったばかりのサツマイモなんてイギリスでは見たことないし。
 日本のは向こうのスイートポテトと全然違ってホクホク甘いっていうから、僕も楽しみだ。



 僕と奏子は蕾だった花が咲いたかをチェックするからと森に行き、子猫のおうちに来ている。
 そして。
 奏子が子猫たちに会うためにここに来るのは、今日が最後になる予定だ。

「明日、ほんとに大丈夫?」

 クロ、チャロ、ハロの3匹の子猫とひとしきり戯れたあと、奏子が言った。

「大丈夫。僕がうまくやるから。奏子は絶対に来ないって、約束して」

「う……ん」

 しぶしぶな返事に、真剣に続ける。

「奏子もクロたちも僕が守るって約束する。だから、心配しないで待ってて」

「うん」

 まっすぐに僕を見る奏子の瞳。
 大丈夫。信じられる。

「ジャルド……」

 膝に飛び乗ったチャロを抱き寄せ、ためらいがちに奏子が口を開く。

「今日ね、お芋ほりに……おじさんもいたの」

「え……!?」

「ミカちゃんのママが来れないからって。でも、あたしに何もしなかったよ。こんにちはとか、お芋いっぱいでよかったねとか言われただけ」

「そう……か」

 子猫の頭に置いた手に力が入り。ハロが抗議するように鳴いて頭を振った。

「怖くなかった?」

「うん。ショウがいたし、みんなもいたし……おじさんも変じゃなかったから」

 奏子の声はしっかりしている。

「あたし、ちゃんと返事も普通にしたよ」

「がんばったね」

「だから、明日引っ越し出来るよー」

 両脇を抱えて持ち上げたハロに、奏子が話しかけた。



 子猫を守りたい。

 その気持ちが、奏子をより強くしているんだろう。
 僕にもあるこの思いは、強さのもとになる。
 同時に……悪になるための言い訳にも。

 無邪気に笑う奏子を見ていると、心の端がチクりと痛んだ。



「ジャルドは、おじさんのこと怖くない?」

「大丈夫。怖くないよ」

 ハッキリと言い切る。
 奏子がどういう意味で聞いたとしても答えは変わらない。

「奏子はもう、クロたちのためにおじさんの言うこと聞く必要はないからね」

「うん。でも、ミカちゃんのパパだから会っちゃうよ」

「保育園で会っちゃうのは仕方ないけど、おじさんと二人だけで会うのは絶対ダメ。もし、おじさん以外に知ってる人が誰もいない時に声かけられたら、逃げて」

 強い口調で言った僕に、奏子が見開いた瞳を向ける。

「暫くは、ひとりで森に行かないで。1週間か2週間くらい」



『そしたら、もうおじさんは森に来ないから』



 このひと言は、僕の頭の中で続けた。

「奏子……?」

 言葉を発しない奏子の眉間に細い皺が寄っている。

「怖がらせてごめん」

 奏子が首を横に振る。

「怖くない。あたしはもう、おじさんの言うこと聞かないから。でも……」

「でも……?」

「おじさんは悪い人?」

「そう。悪い人だよ。奏子にしたことは、すごく悪いことだ」

 ここでぼくがキッパリとヤツを否定するのは間違いじゃないはず。
 どんな理由があろうと、子どもへの性的虐待を肯定する要素なんかない。

「許されない、許しちゃダメなことをおじさんはしたんだ」

「おじさん、どっか行っちゃう?」

 奏子の言葉に眉を寄せた。

「おまわりさんにつかまったり、誰かにやっつけられたりするの?」

「おじさんは……」



 何て答えればいいのか。

 どういう結果になるか、僕にもまだ見えていない。
 被害届を出さないかぎり警察には捕まらないし、捕まっても刑務所行きになるほど重い罪には問われないだろう。
 かといって。

『僕がやっつけるよ』なんて言えない。



「悪いことをしたから罰を受ける。悪いことした人に何が起きても、自分のせいなんだよ」

 コクリと頷いた奏子の顔は、納得しているとは言い難い。

「奏子だって、悪い人はいなくなったほうがいいでしょ?」

「うん……でも、パパがいなくなったらミカちゃんがさみしいから」

 口を開けたまま固まった。



 奏子の発想に、ショックを受けていた。

 ヤツへの復讐を決意してから、いろんなことを考えた。
 そのほとんどが復讐のために自分が悪になることについてだ。

 悪になれるか。
 悪になるには何を覚悟すべきか。

 そして。
 どうやったらヤツを苦しめることが出来るか。



 ヤツの家族のことなんて、これっぽっちも頭に浮かばなかった。



 気づかないうちに冷酷な思考の人間になっている。
 復讐のターゲットにも大切な人間がいることを忘れている。
 悪人を壊すことで傷つく罪のない人間を生み出そうとしている。

 悪になると決めたなら、そんな自分を僕は蔑むべきじゃない。
 むしろ……喜ぶべきなんだろう。

 切り捨てなきゃならないパーツがまだ僕の心にある。



 悪を制するために悪になりたいと望むなら。
 自分が犠牲を払う覚悟だけじゃなく……自分の手で誰かを犠牲にする覚悟も必要なことを知った。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】お飾りを許してきた私はもういません。出ていきます。

かとるり
恋愛
婚約してからも浮気を繰り返したサミュエル。 ユーニスは反省を口にする彼の言葉と眼差しに弱かった。 結婚してもユーニスはお飾りでしかなく、サミュエルの愛はメイドのイヴに向けられていた。

ヒロインは始まる前に退場していました

サクラ
ファンタジー
とある乙女ゲームの世界で目覚めたのは、原作を知らない一人の少女。 産まれた時点で本来あるべき道筋を外れてしまっていた彼女は、知らない世界でどう生き抜くのか。 母の愛情、突然の別れ、事故からの死亡扱いで目覚めた場所はゴミ捨て場、 捨てる神あれば拾う神あり? 人の温かさに触れて成長する少女に再び訪れる試練。 そして、本来のヒロインが現れない世界ではどんな未来が訪れるのか。 主人公が7歳になる頃までは平和、ホノボノが続きます。 ダークファンタジーになる予定でしたが、主人公ヴィオの天真爛漫キャラに ダーク要素は少なめとなっております。 同作品を『小説を読もう』『カクヨム』でも配信中。カクヨム先行となっております。 追いつくまで しばらくの間 0時、8時、16時の一日3話更新予定 作者 非常に豆腐マインドですので、悪意あるコメントは削除しますので悪しからず。

ちびっ子メイドの幸せお菓子レシピ100

くま
恋愛
「お姉ちゃん!またお菓子作ってる!美味しそう!」 「あんたのほうはまたその小説?」 「へへへーこの恋愛小説すごーく胸キュンだよ!」 この世界は前世だった妹がハマっていた小説の世界に似ていた。 私には前世の記憶がある。「日本」という所に住みお菓子の専門学校へと通う学生だった。学校へ行く途中、出来たてのアップルパイを大好きな人に告白し渡そうとした時…事故にあい亡くなった…… そして現在、寒空の下で着ている服も薄く手足の指の感覚が無い……ガリガリに痩せている今の私……あぁ…生まれ変わっても…また死ぬんだ。 いや、私は‥‥捨てられた。 美味しいお菓子、沢山作りたいな。 あの時の彼はどんな顔をしていたんだろう。 目の前で死んだからトラウマになっただろうな。 私の大好きで自信作のアップルパイを食べて笑顔と元気をみんなにあげたいな。 そう死を覚悟した瞬間… 「……生きてる?」 黒髪の小さな少年は私を助けてくれた。 少年の名前は悪名高い貴族として、嫌われ者の《オブスキュリテ》家の息子だ!? …あれ?コレって確か…妹がどハマりしていた小説の準主役の男では? 確か主人公は、貧民街で靴磨きをしているが実はこの国の王子で、ヒロインは隣国のお姫様。二人の恋愛模様がとてもキュンキュンするらしい。 そして、ライバル役が…そう私を助けてくれたこ! 悪役!! ヒロインを自分の物にしたいから、あの手この手と嫌がらせをする。 しかーし!私を助けてくれたご主人さま! 悪役になんか絶対させない! 小説の内容はあまりよくわからないけれど、今はお口を甘いあまーいお菓子を食べさせちゃうもんね! だけど…何故か私のお菓子をあげると、病気の人や元気のない人も元気になるみたい!? ※お菓子を作るとき、主人公は歌を歌いますが軽く暖かい目で見守ってください。 ※ほっこりしたお菓子作りの話はありつつも、たまにシリアスありますが、ただただのお菓子を食べてちびっ子たちが、わちゃわちゃと仲良くなるお話。 みなさんは、どんなお菓子が好きでしょうか〜

 悪役令息の役どころからはサクッと離脱することにする。

をち。
BL
鏡に映る自分の顔を見ていきなり頭の中に前世の記憶が蘇った。 「あ。俺、悪役令息だわ!」 うん、この顔、腐女子だった姉貴に頼まれて無理やりクリアさせられたBLゲーム「ボクの王子さま」の悪役令息ことスノーデン公爵家長男、ミルリースだ。 確か、プライドが高く、主役である人気者の次男レオリースを妬み虐げまくるザ・悪役。 ということになっている。 そう。ぶっちゃけ俺は何もしていない。なのに一方的に「人気者の次男を妬んで虐める性格の悪い長男」という役所にされてきたのだ。 いかんせん俺はクールな美少年すぎた。 伶俐な美貌と目の下のクマのせいで、黙っているだけで近寄りがたく見えてしまう。疲れてため息を吐けば「気だるい怠惰な空気を滲ませ」ているように見え、「腹減ったなー」と考えていれば「何を思うのか、その瞳を忌々しげに燻らせていた」となるわけだ。 ぶっちゃけ何をしても妬まれる。 中学でも、成績が上がった弟に「お前も頑張ったな」と微笑みかけただけで「首席だからと弟を見下し、蔑むような笑みを口元に浮かべた」と言われた。さすがにその日は夜ベッドでこっそり泣いた。 成績だって学年トップを維持してる。なのに首席でも「公爵家の権力を利用して裏から手を回し成績を操作している」と思われてるしな。 なんでだよ!なんなら寝る間も惜しんで頑張ってるっての! こんな感じで誤解が誤解を生み、全てが「悪役ムーブ」に変換されてしまう。 弟が可愛らしいタイプで人懐こい愛されキャラなのもまた俺を悪役に見せるのに一役かっていた。 あー、もうやってらんねー! このまんまいったら主人公を虐げた冷酷な兄として断罪され、僻地で無念の死を遂げることになるんだろ?マジでおかしいわ! そのどれもこれも俺が「悪役令息」だから。 そういう役回りだからか。 俺の心は折れた。 これまでは皆に誤解され遠巻きにされてきた。 親には「可愛げがない」と言われ、弟は何をしても褒めて可愛がるくせに、俺は主席になろうが「長男なのだから当たり前」だと褒められたことはない。 それでも「頑張っていたらいつか分かってくれる」と自分を磨く努力を怠らなかった。 不平不満もいわずに我慢してきた。 だけど、意味ある? 何したって「悪役令息」なんだから、意味なくね? どうせ悪役にされるんなら、いっそ好き勝手に生きてやろう。 悪役上等!これからは我慢なんてしねえ。 言いたい放題言ってやる! 家の為だとか長男だとか知ったことか! こんな家、レオリースにくれてやる! 俺は俺で独立して裕福な平民として生きる。 幸い前世の知識も思い出したから、生活能力はあると思う。平民暮らしもなんの問題もない。 前世の知識を活かしてチートしまくってやるぜ! 自分の道は自分で切り開くのだ。 ※※※※※※※※ イイネやコメント頂けましたら作者が喜びます♡

異世界転生令嬢、出奔する

猫野美羽
ファンタジー
※1〜3巻 書籍化しております! アリア・エランダル辺境伯令嬢(十才)は家族に疎まれ、使用人以下の暮らしに追いやられていた。 高熱を出して粗末な部屋で寝込んでいた時、唐突に思い出す。 自分が異世界に転生した、元日本人OLであったことを。 魂の管理人から授かったスキルを使い、思い入れも全くない、むしろ憎しみしか覚えない実家を出奔することを固く心に誓った。 この最強の『無限収納EX』スキルを使って、元々は私のものだった財産を根こそぎ奪ってやる! 外見だけは可憐な少女は逞しく異世界をサバイバルする。

伯爵令嬢の秘密の知識

シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のグランディア王国ルナリス伯爵家のミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。

冷酷な少年に成り代わってしまった俺の話

岩永みやび
BL
気が付いたら異世界にいた主人公。それもユリスという大公家の三男に成り代わっていた。しかもユリスは「ヴィアンの氷の花」と呼ばれるほど冷酷な美少年らしい。本来のユリスがあれこれやらかしていたせいで周囲とはなんだかギクシャク。なんで俺が尻拭いをしないといけないんだ! 知識・記憶一切なしの成り代わり主人公が手探り異世界生活を送ることに。 突然性格が豹変したユリスに戸惑う周囲を翻弄しつつ異世界ライフを楽しむお話です。 ※基本ほのぼの路線です。不定期更新。冒頭から少しですが流血表現あります。苦手な方はご注意下さい。

【完結】転生した令嬢は今度こそ幸せを掴みます!

まるねこ
恋愛
光属性魔法が使える伯爵令嬢リディスは公爵子息のローレンツと婚約していたが、ローレンツの不貞に心を痛めて自害してしまう。 目覚めと共にリア・ノーツ侯爵令嬢として生まれ変わった事を知る。 王宮で開かれたお茶会で魔力暴走に巻き込まれて半月も目覚め無かったらしい。 不遇だったリディス。今度こそ幸せを掴みます! 2025/2/19改編 Copyright©︎2021-まるねこ

処理中です...