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第10章 過去の真実
どうにかして救いたい
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僕の問いに、迷う素振りもなくリージェイクが口を開く。
「好きだよ」
その答えは予想通り。
うん。そうだよね。
いろいろ聞いた今は、それがわかる。
でも……その意味は?
「今日の話を聞いて、僕が凱を嫌う理由はないってわかっただろう?」
「うん。そうなんだけど……」
リージェイクは、僕の意図を違うほうへ解釈したみたいだ。
「昨夜の様子から見て、彼のほうも……僕をもう一度ターゲットにする気はないと思うよ。だから、僕たちがいがみ合ってきみに居心地の悪い思いをさせることはなさそうかな。きみに気を許してもいたから、わざと被害を与えるような真似もしてこないはずだ」
「うん。でも、そうじゃなくて」
話を軌道修正する僕に、リージェイクは方眉を上げる。
「リージェイクが僕を好きだっていうのは、僕があなたを好きだって言ったのと同じ意味だよね。家族とか友だちとして大切だって……」
「そうだね。大切に思ってるよ」
「だけど、リージェイクにとって凱は……それ以上でしょ?」
「うん。確かにそうだな」
リージェイクがアッサリ肯定する。
「凱の存在はとても大きいんだ。僕の中ではね」
「そ……っか」
確かめたいことの確証は得た。
これ以上深くは聞かないほうがいいような……。
そんな僕の胸の内を察したのか、リージェイクがフッと笑みを漏らす。
「凱を好きだけど、恋愛感情じゃないよ」
「あ……そうなんだ」
よかった……。
かなりホッとした。
自分が実感する恋愛感情は全くわからないけど。
他人のそれを見聞きして、恋とか愛にパワーがあることは知っている。
綾さんの言っていた秘密と同じように、恋愛のパワーにもプラスに作用するものとマイナスに作用するものがあると思う。
僕が1年前に目の前で見たそのパワーは強力で、まっすぐ負の方向に働いていた……悪の狂気に匹敵する邪悪さと残酷さを伴って。
だから……気になったんだ。
今日までは、二人の間にある様々な事情を知らなかったから。
リージェイクが凱をよく思っていないことが、自分の計画にマイナスの影響を与えるかもって心配していた。
今はその反対で。
もし、リージェイクが凱に恋愛的な感情を持っていたら、それが僕の復讐のマイナス要素になるんじゃないかと思った。
今も、凱の協力を望んでいる。
だから、リージェイクに阻まれたくない。
可能なら、知られたくない……やっぱり無理かな。
恋愛感情じゃなくても、特別な存在で大切に思う人間の動向にリージェイクが鈍感になるとか……あり得ない。
「ジャルド」
時間にしたら短い物思いに耽っていた僕を、リージェイクが呼んだ。
瞬時に、彼に向けたまま遠くに外れていた焦点を戻す。
「きみはきみの大切なものを、僕は僕の大切なものを優先する。それでいい?」
だしぬけなリージェイクの言葉に、目を瞬いた。
「ここに留まる本当の理由を、お互いに知らないからね。もし、何かあって僕たちの意見が衝突した時に後悔しないための……提案かな」
真剣な瞳で、僕たちは見つめ合う。
今日、何度も合わせた視線の先に、互いの心を透かし見る。
同時に、僕たちは口元をほころばせた。
こういうタイミングはいつも合う。
きっと、思考の着地点が同じところにあるんだろう。
「わかった」
頷くと、リージェイクがゆっくりと立ち上がった。
「また、今度話そう」
「うん」
腰を上げた。
伸びをして首を回す。
半分くらい葉の落ちた木枝の向こうに見える西の空が、ほんのりとオレンジ色に染まっている。
僕とリージェイクは、並んで私道へと歩き出した。
「昨夜……」
森の下草と枯葉をザクザクと踏みながら、リージェイクに話しかける。
「すごく怒ってたのは、凱を心配してたから?」
「あれは……心配してたのはもちろんだけど、凱が相変わらずだったから」
「……ああいうことが?」
「いや。目的のためなら何でもやる。悪く転んだ先は考えないってところがね。それを再確認させられて、相手を甘く見た凱にもだけど……僕自身に腹が立った。凱をあのままにして去った自分が悪いと思ったんだ」
チラリと僕に目を向けて、リージェイクが呆れ顔で溜息をつく。
「僕は彼の親でも師でもない。勝手に責任を感じて、自分に酔っているようなものだって……頭ではわかってるんだけどね。1年ぶりに会って、また同じ思いに囚われる。凱を、どうにかして救いたい……何だろうな、この気持ちは」
「リージェイクにも、自分でわからないところってあるんだ」
ちょっぴり愉快そうに言った僕に、リージェイクが肩を竦める。
「出来る限り自分のことを冷静に見て把握したいと思ってるんだけど、これだけはうまくいかない。心は難しいよ。人の心はさらにね」
「本心は隠されたら見えないもん。わかり易い人もいるけど」
僕たちは私道に出た。
リージェイクは、考え込むように僅かに眉を寄せて前方を見つめている。
「どうかしたの?」
「ジャルドは、烈と仲良くなれそう?」
視線を合わせ、リージェイクが言った。
「うん……友だちになったよ。けっこう気が合うんだ」
急に烈のことを尋ねるリージェイクに、少し身構えた。
綾さんにも似たような質問をされたことを思い出す。
「学校に行くのは憂鬱だけど、烈がいるならなんとかやっていけそうって思えるし。同い年の身内がいるって心強いね」
「僕もそう……思うよ」
「何か心配?」
暫しの間をおいて、リージェイクが口を開く。
「烈は、心を隠すのがうまい」
「好きだよ」
その答えは予想通り。
うん。そうだよね。
いろいろ聞いた今は、それがわかる。
でも……その意味は?
「今日の話を聞いて、僕が凱を嫌う理由はないってわかっただろう?」
「うん。そうなんだけど……」
リージェイクは、僕の意図を違うほうへ解釈したみたいだ。
「昨夜の様子から見て、彼のほうも……僕をもう一度ターゲットにする気はないと思うよ。だから、僕たちがいがみ合ってきみに居心地の悪い思いをさせることはなさそうかな。きみに気を許してもいたから、わざと被害を与えるような真似もしてこないはずだ」
「うん。でも、そうじゃなくて」
話を軌道修正する僕に、リージェイクは方眉を上げる。
「リージェイクが僕を好きだっていうのは、僕があなたを好きだって言ったのと同じ意味だよね。家族とか友だちとして大切だって……」
「そうだね。大切に思ってるよ」
「だけど、リージェイクにとって凱は……それ以上でしょ?」
「うん。確かにそうだな」
リージェイクがアッサリ肯定する。
「凱の存在はとても大きいんだ。僕の中ではね」
「そ……っか」
確かめたいことの確証は得た。
これ以上深くは聞かないほうがいいような……。
そんな僕の胸の内を察したのか、リージェイクがフッと笑みを漏らす。
「凱を好きだけど、恋愛感情じゃないよ」
「あ……そうなんだ」
よかった……。
かなりホッとした。
自分が実感する恋愛感情は全くわからないけど。
他人のそれを見聞きして、恋とか愛にパワーがあることは知っている。
綾さんの言っていた秘密と同じように、恋愛のパワーにもプラスに作用するものとマイナスに作用するものがあると思う。
僕が1年前に目の前で見たそのパワーは強力で、まっすぐ負の方向に働いていた……悪の狂気に匹敵する邪悪さと残酷さを伴って。
だから……気になったんだ。
今日までは、二人の間にある様々な事情を知らなかったから。
リージェイクが凱をよく思っていないことが、自分の計画にマイナスの影響を与えるかもって心配していた。
今はその反対で。
もし、リージェイクが凱に恋愛的な感情を持っていたら、それが僕の復讐のマイナス要素になるんじゃないかと思った。
今も、凱の協力を望んでいる。
だから、リージェイクに阻まれたくない。
可能なら、知られたくない……やっぱり無理かな。
恋愛感情じゃなくても、特別な存在で大切に思う人間の動向にリージェイクが鈍感になるとか……あり得ない。
「ジャルド」
時間にしたら短い物思いに耽っていた僕を、リージェイクが呼んだ。
瞬時に、彼に向けたまま遠くに外れていた焦点を戻す。
「きみはきみの大切なものを、僕は僕の大切なものを優先する。それでいい?」
だしぬけなリージェイクの言葉に、目を瞬いた。
「ここに留まる本当の理由を、お互いに知らないからね。もし、何かあって僕たちの意見が衝突した時に後悔しないための……提案かな」
真剣な瞳で、僕たちは見つめ合う。
今日、何度も合わせた視線の先に、互いの心を透かし見る。
同時に、僕たちは口元をほころばせた。
こういうタイミングはいつも合う。
きっと、思考の着地点が同じところにあるんだろう。
「わかった」
頷くと、リージェイクがゆっくりと立ち上がった。
「また、今度話そう」
「うん」
腰を上げた。
伸びをして首を回す。
半分くらい葉の落ちた木枝の向こうに見える西の空が、ほんのりとオレンジ色に染まっている。
僕とリージェイクは、並んで私道へと歩き出した。
「昨夜……」
森の下草と枯葉をザクザクと踏みながら、リージェイクに話しかける。
「すごく怒ってたのは、凱を心配してたから?」
「あれは……心配してたのはもちろんだけど、凱が相変わらずだったから」
「……ああいうことが?」
「いや。目的のためなら何でもやる。悪く転んだ先は考えないってところがね。それを再確認させられて、相手を甘く見た凱にもだけど……僕自身に腹が立った。凱をあのままにして去った自分が悪いと思ったんだ」
チラリと僕に目を向けて、リージェイクが呆れ顔で溜息をつく。
「僕は彼の親でも師でもない。勝手に責任を感じて、自分に酔っているようなものだって……頭ではわかってるんだけどね。1年ぶりに会って、また同じ思いに囚われる。凱を、どうにかして救いたい……何だろうな、この気持ちは」
「リージェイクにも、自分でわからないところってあるんだ」
ちょっぴり愉快そうに言った僕に、リージェイクが肩を竦める。
「出来る限り自分のことを冷静に見て把握したいと思ってるんだけど、これだけはうまくいかない。心は難しいよ。人の心はさらにね」
「本心は隠されたら見えないもん。わかり易い人もいるけど」
僕たちは私道に出た。
リージェイクは、考え込むように僅かに眉を寄せて前方を見つめている。
「どうかしたの?」
「ジャルドは、烈と仲良くなれそう?」
視線を合わせ、リージェイクが言った。
「うん……友だちになったよ。けっこう気が合うんだ」
急に烈のことを尋ねるリージェイクに、少し身構えた。
綾さんにも似たような質問をされたことを思い出す。
「学校に行くのは憂鬱だけど、烈がいるならなんとかやっていけそうって思えるし。同い年の身内がいるって心強いね」
「僕もそう……思うよ」
「何か心配?」
暫しの間をおいて、リージェイクが口を開く。
「烈は、心を隠すのがうまい」
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