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第10章 過去の真実
大切な存在
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「きみに話せないことは、もうないよ。今話した父とトルライの争いの詳細も、知ってるのはきみと凱だけだ」
「え……ラストワや綾さんは……?」
「父が死んでから半年ほど、僕はエイリフと一緒にいた。父はあの地下に向かう前に彼に頼んでいたんだ。自分に何かあったら、イギリスのシャズという女性に連絡してくれって」
「イーヴァは、自分がいなくなったら……リージェイクを一族に返すつもりで……」
そして、その確率が高いこともわかっていた。
リージェイクが頷いた。
「僕に戻る気はなかったけど、エイリフに説得されて……迎えに来たラストワのところへ行くことになった。その時、エイリフがかなり端折った説明をしたよ。敵との争いで僕の両親が命を落としたことと、僕が拷問されたこと。それだけかな」
「詳しいことは聞かれなかったの?」
「聞かれたけど話さなかった。ラストワたちは、父に連れ去られた母と僕が……悪者同士の抗争に巻き込まれたと考えていたからね」
束の間、リージェイクの顔に冷えた微笑みが浮かんだ。
「そもそもの始まりから認識の違う彼らに、僕たちのことをわざわざ説明する気は起きなかった。理解してほしいとも思わなかったし」
「凱には、理解してほしいと思った?」
「だから話した……きみにもね」
「うん。ありがとう」
いつものようにやさし気で静かなリージェイクの瞳。
その瞳が一気にかげり、表情が歪む。
「凱は、僕を理解していた。復讐が引き起こした苦痛を味わったことも知っていた。だけど……僕が思っていたより、凱の闇は深かったんだ。僕が復讐に反対したこと。そして、凱の自信を砕いたことで、彼が自分をセーブするのはさらに困難になった。凱を破壊者にしたのは……僕だ」
リージェイクの言葉に対する反論と疑問が、頭に渦巻いた。
凱がリージェイクの過去を知っていたなら、彼を理解していたなら。
どうして復讐に反対なのか十分にわかっているはず。
凱の闇って……心の傷?
綾さんが言ってた負の部分……?
自分をセーブするのが困難……自分の怒りを?
狂気を……?
それでも、凱は復讐を果たした。
だから……。
凱を破壊者にしたのは、教師を暴行した復讐そのものなんじゃないの……?
「凱が館にやって来て同じ学校と寮で過ごすようになった時。綾さんやラストワに頼まれていたのもあるけど、僕自身、彼がひどく気になったんだ。凱も、警戒しながらも僕が気なるようだった。それでも、親しくなるまでには、けっこう時間がかかったな」
遠くを見つめる瞳の暗さに似合わず、リージェイクの口調はやわらかだ。
「知り合った頃の凱は人を寄せつけず、誰も信用しなかった。それは過去のつらい経験からだとあとで知ったけど、最初はわからなくてね。誰よりも孤独で強い心を持つのに、今にも壊れて消えそうに見える彼を救いたい……何故か、使命のようにそう思った」
過去のつらい経験……凱にも、悪夢がある。
予想だにしなかったリージェイクの過去みたいに、それはきっと……聞くのもつらい出来事なんだろう。
「お互いの過去と心に抱えるものを知って、僕たちは親しい友人になった。今まで、同じ年頃で何でも話せて気を許せる人間がいなかった僕にとって、凱はとても大切な存在になっていったよ」
「凱にとっても……」
「そうだね。だから……僕の言葉は、より影響した」
黙ってその説明を待つ。
「僕たちのいた学校と寮は規則が厳しくて、もともとストレスの要因は多い環境だった。それでも、適度に息抜きをしながら、みんな何とかうまくやっていたよ。そして、例の教師による被害が出始めた」
「ほかの先生に相談しなかったの?」
「出来ないように脅されてたんだ。世間知らずの優等生が多い学校だったから、受けた暴力を誰にも言えずひとりで抱え込む生徒がほとんどだった。そのおかげで、かなりの人数が被害に合うまで実態がわからなかった」
それぞれが……ひとりで苦しんでいた……。
「最終的に情報が共有されて、それ以上被害者が出ない方法も探した。そして……凱たち4人が、その教師を暴行した」
復讐に至るまでに、生徒たちの間にもいろいろあったんだろう。
でも今は、凱とリージェイクのことだ。
「復讐はしないけど、その教師を無罪放免にする気は僕にもなかったよ。閉ざされた学校の外に助けを求めて、事実を訴えることを考えた」
「そうしなかったのは……?」
「もうわかってると思うけど、教師がした虐待は性的な暴力だ」
リージェイクの瞳に仄暗い怒りが灯る。
「自分でレイプするだけじゃなく……生徒同士に無理やりセックスさせたり、道具を使って攻め立てた。それを動画に撮って脅していたんだ」
「そんな……こと、中学校の教師がそんなひどいことしてたの!? 学校や寮で……? 立派な犯罪じゃん! ひとりでも警察に行けば……」
「行けないんだよ」
憤る僕を険しい表情で制し、リージェイクが言った。
「え……ラストワや綾さんは……?」
「父が死んでから半年ほど、僕はエイリフと一緒にいた。父はあの地下に向かう前に彼に頼んでいたんだ。自分に何かあったら、イギリスのシャズという女性に連絡してくれって」
「イーヴァは、自分がいなくなったら……リージェイクを一族に返すつもりで……」
そして、その確率が高いこともわかっていた。
リージェイクが頷いた。
「僕に戻る気はなかったけど、エイリフに説得されて……迎えに来たラストワのところへ行くことになった。その時、エイリフがかなり端折った説明をしたよ。敵との争いで僕の両親が命を落としたことと、僕が拷問されたこと。それだけかな」
「詳しいことは聞かれなかったの?」
「聞かれたけど話さなかった。ラストワたちは、父に連れ去られた母と僕が……悪者同士の抗争に巻き込まれたと考えていたからね」
束の間、リージェイクの顔に冷えた微笑みが浮かんだ。
「そもそもの始まりから認識の違う彼らに、僕たちのことをわざわざ説明する気は起きなかった。理解してほしいとも思わなかったし」
「凱には、理解してほしいと思った?」
「だから話した……きみにもね」
「うん。ありがとう」
いつものようにやさし気で静かなリージェイクの瞳。
その瞳が一気にかげり、表情が歪む。
「凱は、僕を理解していた。復讐が引き起こした苦痛を味わったことも知っていた。だけど……僕が思っていたより、凱の闇は深かったんだ。僕が復讐に反対したこと。そして、凱の自信を砕いたことで、彼が自分をセーブするのはさらに困難になった。凱を破壊者にしたのは……僕だ」
リージェイクの言葉に対する反論と疑問が、頭に渦巻いた。
凱がリージェイクの過去を知っていたなら、彼を理解していたなら。
どうして復讐に反対なのか十分にわかっているはず。
凱の闇って……心の傷?
綾さんが言ってた負の部分……?
自分をセーブするのが困難……自分の怒りを?
狂気を……?
それでも、凱は復讐を果たした。
だから……。
凱を破壊者にしたのは、教師を暴行した復讐そのものなんじゃないの……?
「凱が館にやって来て同じ学校と寮で過ごすようになった時。綾さんやラストワに頼まれていたのもあるけど、僕自身、彼がひどく気になったんだ。凱も、警戒しながらも僕が気なるようだった。それでも、親しくなるまでには、けっこう時間がかかったな」
遠くを見つめる瞳の暗さに似合わず、リージェイクの口調はやわらかだ。
「知り合った頃の凱は人を寄せつけず、誰も信用しなかった。それは過去のつらい経験からだとあとで知ったけど、最初はわからなくてね。誰よりも孤独で強い心を持つのに、今にも壊れて消えそうに見える彼を救いたい……何故か、使命のようにそう思った」
過去のつらい経験……凱にも、悪夢がある。
予想だにしなかったリージェイクの過去みたいに、それはきっと……聞くのもつらい出来事なんだろう。
「お互いの過去と心に抱えるものを知って、僕たちは親しい友人になった。今まで、同じ年頃で何でも話せて気を許せる人間がいなかった僕にとって、凱はとても大切な存在になっていったよ」
「凱にとっても……」
「そうだね。だから……僕の言葉は、より影響した」
黙ってその説明を待つ。
「僕たちのいた学校と寮は規則が厳しくて、もともとストレスの要因は多い環境だった。それでも、適度に息抜きをしながら、みんな何とかうまくやっていたよ。そして、例の教師による被害が出始めた」
「ほかの先生に相談しなかったの?」
「出来ないように脅されてたんだ。世間知らずの優等生が多い学校だったから、受けた暴力を誰にも言えずひとりで抱え込む生徒がほとんどだった。そのおかげで、かなりの人数が被害に合うまで実態がわからなかった」
それぞれが……ひとりで苦しんでいた……。
「最終的に情報が共有されて、それ以上被害者が出ない方法も探した。そして……凱たち4人が、その教師を暴行した」
復讐に至るまでに、生徒たちの間にもいろいろあったんだろう。
でも今は、凱とリージェイクのことだ。
「復讐はしないけど、その教師を無罪放免にする気は僕にもなかったよ。閉ざされた学校の外に助けを求めて、事実を訴えることを考えた」
「そうしなかったのは……?」
「もうわかってると思うけど、教師がした虐待は性的な暴力だ」
リージェイクの瞳に仄暗い怒りが灯る。
「自分でレイプするだけじゃなく……生徒同士に無理やりセックスさせたり、道具を使って攻め立てた。それを動画に撮って脅していたんだ」
「そんな……こと、中学校の教師がそんなひどいことしてたの!? 学校や寮で……? 立派な犯罪じゃん! ひとりでも警察に行けば……」
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憤る僕を険しい表情で制し、リージェイクが言った。
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