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第9章 受容する者
苦痛
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「ヤツらの知りたいこと、喋っちゃえばよかったんだ。嘘ついたっていい。あんなこと何度もされるくらいなら、そのほうがよっぽどマシだよ」
リージェイクを責めるのは間違っている。
こんなこと言いたいんじゃないのに。
苦痛はリージェイクのものなのに。
怒りを、制御出来ない。
「適当に答えて。言うこと聞いたフリして、あとでトルライをやっつければいい。お父さんたちが来てくれるって信じてたんでしょ? それまでうまくやり過ごせば……」
「ジャルド」
僕の言葉を止めたリージェイクの視線の強さに、ちょっとたじろいだ。
「僕は、何をされようと絶対に答えないと決めた」
冷静なリージェイクの声も、僕を鎮めるには至らない。
「もう、終わったことだよ」
「でも……だって、悔しいんだ。リージェイクが、そんなつらい目に合うのを自分で受け入れたってことが……!」
悲しげな表情で、リージェイクが眉を寄せる。
「答えないって決めて、そうし続けた。でも、あまりにもつらかったら、途中で変えたっていいじゃん! それも勇気ある決断でしょ? ただの意地なの? 自分の意思を曲げないのはプライドから? 敵にレイプされるほうがプライドは傷つくんじゃないの!?」
抑えていた疑問を口に出すことで、熱が引いていく。
「怖かったでしょ……? どうやってその時の恐怖を消したの……? どうやったら……セックスが怖くなくなるの……?」
沈黙は、ほんの数秒。
「答えないのは、意地でもプライドでもない。拷問されるのがわかった時に、口を割らない自分を心の支えにしたんだ。ヤツらのほしい情報を喋らずにいられれば、自分は崩れない。大丈夫だって」
リージェイクが、僕の問いに丁寧に答えていく。
「ヤツらにやられても、プライドは傷つかない。もともと、僕に自尊心を守ろうって気はなかったしね」
自尊心を守る気はない……。
それも、凱と同じだ。
まるで正反対だと思っていた二人が、今は重なる……。
「セックスの知識はそれなりにあった。だから、まだ欲求のない子どもでよかったと思った」
「なん……で……?」
「どんなに嫌でも憎い相手でも、欲求があれば身体は反応する。そのほうが精神的にきつい。それに、トルライは僕が自分に服従することを望んでいたから、セックスで支配出来ればと考えたはずだ。そうされずに済んだからね」
そんなふうに……考えたことはなかった。
でも、そうなのかもしれない……。
「やられる直前は、怖かったよ。アトレと同じことをされるのはわかってたけど、苦痛の種類が想像つかない。精神的なダメージも予想出来ない。知らないってことが、この怖さの原因だ」
リージェイクが、科学の分析結果を説明するみたいに言う。
「最初に犯された時は、恐怖を感じる暇はなかった。強さを増しながら続く激痛と苦しさに、叫び続けるしかない。精神的にどうかなんて余裕はなくて、身体の苦痛だけ。トルライが早く終わってくれることを願ったよ」
その苦痛は……僕にもわかった。
「2度めは、さらに苦痛だった。どんな痛みがどれくらい続くか知っていたから、よけいにね。だけど、怖くはなかった」
「怖く……なかった……?」
「身体に与えられる苦痛は怖くない。腕を切られたり釘を刺されたりするのと同じだ」
「同じって、そんな……」
「身体の苦痛は、だよ。心はまた別だ。それに、怖くないだけで痛みは感じる。次のレイプまでに時間が空くと、治り始めた粘膜の裂傷がまた破れる。その痛みも、身体の奥を突かれる衝撃も……慣れることのない苦しさだった」
その感覚を容易に想像出来たおかげで、顔をしかめて歯を食いしばった。
「つらいのは、その苦痛に終わりが見えないことだ。一回耐えても次がある。限りがあれば耐えられる苦痛も、だんだん耐えがたいものになってくる。せめて意識をなくせれば楽なのに、それも出来ない。だから、3度め、4度めと回数を重ねるごとに、殺してほしいと思うようになった」
「でも……殺せとは……言わなかった?」
「言いそうにはなったけどね。言えば、なおさら終わらなくなる」
リージェイクが大きく息を吐く。
「身体の苦痛に加え、精神的にも参ってきたよ。ただ、それは敵にやられ続ける屈辱からじゃない」
「じゃあ、何が……?」
リージェイクを責めるのは間違っている。
こんなこと言いたいんじゃないのに。
苦痛はリージェイクのものなのに。
怒りを、制御出来ない。
「適当に答えて。言うこと聞いたフリして、あとでトルライをやっつければいい。お父さんたちが来てくれるって信じてたんでしょ? それまでうまくやり過ごせば……」
「ジャルド」
僕の言葉を止めたリージェイクの視線の強さに、ちょっとたじろいだ。
「僕は、何をされようと絶対に答えないと決めた」
冷静なリージェイクの声も、僕を鎮めるには至らない。
「もう、終わったことだよ」
「でも……だって、悔しいんだ。リージェイクが、そんなつらい目に合うのを自分で受け入れたってことが……!」
悲しげな表情で、リージェイクが眉を寄せる。
「答えないって決めて、そうし続けた。でも、あまりにもつらかったら、途中で変えたっていいじゃん! それも勇気ある決断でしょ? ただの意地なの? 自分の意思を曲げないのはプライドから? 敵にレイプされるほうがプライドは傷つくんじゃないの!?」
抑えていた疑問を口に出すことで、熱が引いていく。
「怖かったでしょ……? どうやってその時の恐怖を消したの……? どうやったら……セックスが怖くなくなるの……?」
沈黙は、ほんの数秒。
「答えないのは、意地でもプライドでもない。拷問されるのがわかった時に、口を割らない自分を心の支えにしたんだ。ヤツらのほしい情報を喋らずにいられれば、自分は崩れない。大丈夫だって」
リージェイクが、僕の問いに丁寧に答えていく。
「ヤツらにやられても、プライドは傷つかない。もともと、僕に自尊心を守ろうって気はなかったしね」
自尊心を守る気はない……。
それも、凱と同じだ。
まるで正反対だと思っていた二人が、今は重なる……。
「セックスの知識はそれなりにあった。だから、まだ欲求のない子どもでよかったと思った」
「なん……で……?」
「どんなに嫌でも憎い相手でも、欲求があれば身体は反応する。そのほうが精神的にきつい。それに、トルライは僕が自分に服従することを望んでいたから、セックスで支配出来ればと考えたはずだ。そうされずに済んだからね」
そんなふうに……考えたことはなかった。
でも、そうなのかもしれない……。
「やられる直前は、怖かったよ。アトレと同じことをされるのはわかってたけど、苦痛の種類が想像つかない。精神的なダメージも予想出来ない。知らないってことが、この怖さの原因だ」
リージェイクが、科学の分析結果を説明するみたいに言う。
「最初に犯された時は、恐怖を感じる暇はなかった。強さを増しながら続く激痛と苦しさに、叫び続けるしかない。精神的にどうかなんて余裕はなくて、身体の苦痛だけ。トルライが早く終わってくれることを願ったよ」
その苦痛は……僕にもわかった。
「2度めは、さらに苦痛だった。どんな痛みがどれくらい続くか知っていたから、よけいにね。だけど、怖くはなかった」
「怖く……なかった……?」
「身体に与えられる苦痛は怖くない。腕を切られたり釘を刺されたりするのと同じだ」
「同じって、そんな……」
「身体の苦痛は、だよ。心はまた別だ。それに、怖くないだけで痛みは感じる。次のレイプまでに時間が空くと、治り始めた粘膜の裂傷がまた破れる。その痛みも、身体の奥を突かれる衝撃も……慣れることのない苦しさだった」
その感覚を容易に想像出来たおかげで、顔をしかめて歯を食いしばった。
「つらいのは、その苦痛に終わりが見えないことだ。一回耐えても次がある。限りがあれば耐えられる苦痛も、だんだん耐えがたいものになってくる。せめて意識をなくせれば楽なのに、それも出来ない。だから、3度め、4度めと回数を重ねるごとに、殺してほしいと思うようになった」
「でも……殺せとは……言わなかった?」
「言いそうにはなったけどね。言えば、なおさら終わらなくなる」
リージェイクが大きく息を吐く。
「身体の苦痛に加え、精神的にも参ってきたよ。ただ、それは敵にやられ続ける屈辱からじゃない」
「じゃあ、何が……?」
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