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第9章 受容する者
僕を捕らえるチャンスだ
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驚愕に目を見開いた。
「その……アトレって仲間が、つまり……」
「僕を敵に売った。父を裏切ってね」
「どうして……!? ずっと仲間だったんでしょ? 何で……!?」
「車の中で、アトレは僕に謝り続けたよ。彼が裏切った理由は、そのあとすぐに知った」
「理由って……どんな理由があったって……」
「妹がヤツらに捕まったんだ。母を助けに行く前の晩に」
薄く口を開いたまま、眉を寄せた。
「ちょうど、僕たちが拉致した男たちから母の居場所を……聞き出している最中に、アトレは敵からの連絡を受けた。そこでどんなやり取りがあったのか、詳しくは知らない。だけど……」
リージェイクが息を吐く。
「タイミングから、拉致された仲間がいずれ母の居場所を吐いて僕たちがそこに向かうことを知って……ヤツらは手を決めたんだと思う」
そう聞いて、アトレが何を選んだのか……僕にもわかった。
「アトレの妹を質に取ったのは、まだ若い彼なら父よりも妹を選ぶと踏んだからだろう。アトレの妹を拉致してすぐに、僕たちが母のところに行く……この偶然は、ヤツらにとって絶好のチャンスになった」
「何のチャンス……?」
「僕を捕らえるチャンスだ」
「何でリージェイクを? お父さんと取引するため……?」
「それもあったし、僕自身にも興味を持ったんだ」
リージェイク自身にって……。
「父が何故、まだ10歳の息子を仕事に連れているのか。その子どもが関わる仕事では、何故いとも簡単に見張りやガードを突破出来るのか。僕の役割を、知りたいのがひとつ」
やっぱり、継承者の力のこと……。
「あとは……?」
「僕が仕事に有利な道具になる理由がわかった時には、自分たちの駒にして利用するためだよ」
「そんな……じゃあ……でも……どうやって……」
思考が追いつかない。
いや……。
その先を、考えたくなかったのかもしれない。
「僕を手に入れることを、ヤツらがいつ頃から画策していたかはわからない」
曖昧な僕の問いには答えず、リージェイクが話を続ける。
「僕に意識を奪われた人間は、何をされたのか気づいていない場合が多いし。気づいていても、額に触られたから意識を失ったとは思わない。だけど、僕が原因だってことだけはわかる」
リージェイクが原因……。
「敵の中に、生きてそれを仲間に伝えた人間は何人もいたはずだ」
「伝えられなくしておけばよかったって……思った?」
殺しておけば、とは言わなかった。
人の命が軽視されるような世界は、どこか映画みたいでリアル感が薄い。
僕と同じ年頃のリージェイクが経てきたことは、想像すらしなかったもの。
リシールの生態みたいに……いや、それ以上に特殊な世界だと思う。
だけど。
リージェイクの話は現実にあったことで、彼がその中で味わった苦痛や悲しみは本物だ。
僕はそれを、ぼかさずに見なきゃ……。
「思わないよ」
リージェイクが見透かしたように口角を上げる。
「父たちも僕も、サイコパスじゃない。人を殺したい欲求はないからね」
「うん。わかってる」
僕も僅かに口の端を上げた。
「とにかくヤツらは、僕に目をつけていた。やられたこっちの仲間にも、僕がどういう役を振られていたのか……吐かせられた人間もいたと思う。僕が何故この力を持つかまでは、父以外に誰も知らないけどね」
「アトレ……は? リージェイクを売ったんでしょ? 自分の知ってること、全部喋っちゃってるんじゃない?」
「彼は喋らない」
険しい顔をして、リージェイクはそう言い切った。
「どっちにしろ、敵がすでに知る以上のことを、アトレは知らないんだ」
「でも、自分の妹のためにリージェイクを……」
言い淀む。
アトレの選択は理解できる。
自分は絶対にそうしない、とは言い切れない。
それでも。
子どもを敵の手に渡すなんて……彼は躊躇しなかったんだろうか。
「彼は、自分にとって大切なほうを選んだ。責められることじゃないよ」
本人にそう言われたら、もう何も言えない。
仲間の裏切りで、リージェイクの悪夢は続くのに……。
母親を殺されただけでも、十分につらくて苦しい。
そんな状態で、さらなる苦痛を受けることになったのに……。
そして。
それはリージェイクが最初に話すと言った、彼自身の心と身体に刻まれる……悪夢だ。
「その……アトレって仲間が、つまり……」
「僕を敵に売った。父を裏切ってね」
「どうして……!? ずっと仲間だったんでしょ? 何で……!?」
「車の中で、アトレは僕に謝り続けたよ。彼が裏切った理由は、そのあとすぐに知った」
「理由って……どんな理由があったって……」
「妹がヤツらに捕まったんだ。母を助けに行く前の晩に」
薄く口を開いたまま、眉を寄せた。
「ちょうど、僕たちが拉致した男たちから母の居場所を……聞き出している最中に、アトレは敵からの連絡を受けた。そこでどんなやり取りがあったのか、詳しくは知らない。だけど……」
リージェイクが息を吐く。
「タイミングから、拉致された仲間がいずれ母の居場所を吐いて僕たちがそこに向かうことを知って……ヤツらは手を決めたんだと思う」
そう聞いて、アトレが何を選んだのか……僕にもわかった。
「アトレの妹を質に取ったのは、まだ若い彼なら父よりも妹を選ぶと踏んだからだろう。アトレの妹を拉致してすぐに、僕たちが母のところに行く……この偶然は、ヤツらにとって絶好のチャンスになった」
「何のチャンス……?」
「僕を捕らえるチャンスだ」
「何でリージェイクを? お父さんと取引するため……?」
「それもあったし、僕自身にも興味を持ったんだ」
リージェイク自身にって……。
「父が何故、まだ10歳の息子を仕事に連れているのか。その子どもが関わる仕事では、何故いとも簡単に見張りやガードを突破出来るのか。僕の役割を、知りたいのがひとつ」
やっぱり、継承者の力のこと……。
「あとは……?」
「僕が仕事に有利な道具になる理由がわかった時には、自分たちの駒にして利用するためだよ」
「そんな……じゃあ……でも……どうやって……」
思考が追いつかない。
いや……。
その先を、考えたくなかったのかもしれない。
「僕を手に入れることを、ヤツらがいつ頃から画策していたかはわからない」
曖昧な僕の問いには答えず、リージェイクが話を続ける。
「僕に意識を奪われた人間は、何をされたのか気づいていない場合が多いし。気づいていても、額に触られたから意識を失ったとは思わない。だけど、僕が原因だってことだけはわかる」
リージェイクが原因……。
「敵の中に、生きてそれを仲間に伝えた人間は何人もいたはずだ」
「伝えられなくしておけばよかったって……思った?」
殺しておけば、とは言わなかった。
人の命が軽視されるような世界は、どこか映画みたいでリアル感が薄い。
僕と同じ年頃のリージェイクが経てきたことは、想像すらしなかったもの。
リシールの生態みたいに……いや、それ以上に特殊な世界だと思う。
だけど。
リージェイクの話は現実にあったことで、彼がその中で味わった苦痛や悲しみは本物だ。
僕はそれを、ぼかさずに見なきゃ……。
「思わないよ」
リージェイクが見透かしたように口角を上げる。
「父たちも僕も、サイコパスじゃない。人を殺したい欲求はないからね」
「うん。わかってる」
僕も僅かに口の端を上げた。
「とにかくヤツらは、僕に目をつけていた。やられたこっちの仲間にも、僕がどういう役を振られていたのか……吐かせられた人間もいたと思う。僕が何故この力を持つかまでは、父以外に誰も知らないけどね」
「アトレ……は? リージェイクを売ったんでしょ? 自分の知ってること、全部喋っちゃってるんじゃない?」
「彼は喋らない」
険しい顔をして、リージェイクはそう言い切った。
「どっちにしろ、敵がすでに知る以上のことを、アトレは知らないんだ」
「でも、自分の妹のためにリージェイクを……」
言い淀む。
アトレの選択は理解できる。
自分は絶対にそうしない、とは言い切れない。
それでも。
子どもを敵の手に渡すなんて……彼は躊躇しなかったんだろうか。
「彼は、自分にとって大切なほうを選んだ。責められることじゃないよ」
本人にそう言われたら、もう何も言えない。
仲間の裏切りで、リージェイクの悪夢は続くのに……。
母親を殺されただけでも、十分につらくて苦しい。
そんな状態で、さらなる苦痛を受けることになったのに……。
そして。
それはリージェイクが最初に話すと言った、彼自身の心と身体に刻まれる……悪夢だ。
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