滅びろ人間!小児性犯罪者への復讐

Kinon

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第9章 受容する者

復讐が引き起こした悪夢

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 言葉を発せずにいる僕を見るリージェイクの瞳は、風のない真夜中の湖面のように静かだった。

「荒らされた部屋で、僕の連絡で飛んできた父と向き合った。一緒に行くと言った僕を、父は止めなかったよ」

「……お母さんを助けに……敵のところに……?」

「連れて行かなければ、僕はひとりでも行く。それを父はわかってたからね。危険だろうが何だろうが、ほかの選択肢はない。僕を入れた9人でいくつか目星のついている敵の拠点アジトを探し回った」

 見つかったの?

 そう聞くまでもないことが、リージェイクの表情に表れていた。

「どこにもいなかった。3日間。手がかりさえつかめないのに、ひとりやられて焦燥した僕たちは、敵の二人を拉致して……吐かせたよ」

 どうやって?

 これも、聞くまでもなかった。

「以前から……殴る蹴るはもちろん、刺したり撃ったりの暴力的な行為をする彼らを見知っていたけど。父と仲間たちの残忍さを、間近で見たのは初めてだった」

「怖かった……?」

「いや」

 リージェイクが否定する。

「不思議とね、恐怖は感じなかった。感じたのは、人間の強さと脆さ。そして、人はここまで残酷になれるんだっていう衝撃。好きでやってるんじゃないのはわかってたから、嫌悪感もなかった。ただ、これと同じことを向こうも出来る……その事実を再認識したよ」

 敵も味方も、同じダークサイドに生きる人間だから。
 リージェイクは、僕が全く知らない世界にいたんだ……。

「二人のうち、ひとりだけが母の居場所を知っていた。僕たちはすぐにそこへと駆けつけた」

 訪れた沈黙は短かった。
 もっと長ければいいと思った。

「使われていない何かの施設みたいな建物だった。退路の確保に3人残して、5人で細心の注意を払って中に入ったよ。父たちが……殺した敵の妻が、母といた。もうひとり、男が一緒に。その部屋に辿り着く前に、4人倒したかな」

「間に合った……?」

 その問いに、リージェイクは否定も肯定もせずに続ける。

「母はまだ生きていた。意識もあって、父と僕の名を叫んだよ」

 息を詰めた。
 周りの空気が、固まって重い。

「敵の男が構えた銃を撃つほんの一瞬前に、こっちのひとりがヤツを撃った。額に被弾して倒れる男の銃からの弾が、父の右腕のエイリフという仲間の足に当たった」

 まるで実況中継をしているみたいに話すリージェイク。
 その瞳は、目の前の僕を見ていない。

「残っている敵は、両手足を縛られた母を支えるようにして後ろに立つ女だけ。油断していた。撃たれた仲間に気を取られた数秒の間に、もう一発銃声が聞こえた」

 リージェイクの瞳が僕を映す。

「女が、背中から母を撃ったんだ。叫びながら駆け寄る父が、ナイフで女の喉を真横に裂くのを見たよ。そして、父の腕の中で死んでいく母をね」

 目を閉じた。



 感情を抑えたリージェイクの言葉が、その時の情景を僕の頭にイメージさせた。

 銃声と叫び声。
 ナイフの刃と血飛沫。

 リージェイクは……母親が殺されるところと、父親が人を殺すところを見たんだ。

 復讐が引き起こした……悪夢。



「僕たちは、母を助けられなかった。さらわれてから4日。ヤツらは、父が来るのを待っていたんだ。父の見ている前で母を殺すために……そう思った。最後に残った女は、投降すれば死なずに済んだかもしれないのに母を撃った。それが、自分の命と引き換えにした彼女の復讐だったんだろう」

「リージェイク……」

「ん?」

「大丈夫……?」

 心配そうに見つめる僕に、リージェイクは微笑んだ。

「いつもと逆だね」

「だって……つらいこと、思い出させて……」

「起きたことはつらい出来事だけど、思い出すのも話すのもつらくはないよ。僕の一部だからね。それに、まだ……続きがある」

 リージェイクは、仕切り直すように深呼吸した。

「あのあと。父がもう動かない母を抱いて、仲間のひとりが負傷したエイリフを支えて。もうひとりの若い仲間、アトレが僕の隣を歩いて出口に向かったんだ。外にいた3人に指示して表に回してあった車に、父たちは母とエイリフを乗せていた」

 僕に向けたリージェイクの目が、ゆっくりと瞬く。

「動ける敵はいない。母は死んだ。悲しみに沈む僕たちの警戒心は薄れていた。だから、突然……入り口付近にいたアトレが僕の口を塞いで建物の中に引きずり込んだことに、誰もすぐには気づかなかった」

「え……!?」

「アトレは片手で僕の口を押えたまま、抱えるようにして裏口に走った。彼は背が高かったからね。額に手は届かなかった。ドアの外に出ると、路地から現れた車から降りてきた男が僕の両手を後ろ手に縛り上げた。そして、車に乗せられ……僕は敵の手に落ちた」


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