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第9章 受容する者
明日の舞台確認
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小屋Aの中は明るかった。
今は昼の1時過ぎ。
ドアの横にある窓は小さめだけど、充分な明かりを取り込んでいる。
太陽の光は驚くほど強力だから。少しでも入り込む隙間があれば、昼間に人工の灯りが必要になることはない。
逆に、闇を作り出すのは困難になる。
明日ここに来るのは、だいたい4時半くらい。
陽が落ちるのが早くなってきたこの時期の日の入りは、5時半頃。
窓からの陽光だけで、問題なく作業が出来る明るさのはずだ。
そして……。
僕とヤツ、お互いの表情もしっかりと確認できるはず。
普段、ヤツがここで作業をする際は、暗ければ棚の奥にあるLEDカンテラを使うんだろう。
だけど。
僕の計画には、明るすぎないほうがいい。
やましいことをする時はもちろん、やましいことを考えるのも。
明るい空間では、何故か気が引けるものだから。
昨日来た時と変わらない屋内を見回した。
ここには、イスとかの座るものはない。
あるのは作業台だけ。
必然的に、会話は立ってすることになる。
南北に配された二つの窓を見やった。
窓から小屋の中にいる人間を撮影するとしたら……どこにいるのが撮りやすいかな?
作業台は真ん中にあって、南北に細長い。
つまり、作業台の東西どっち側かにいて、反対側に顔を向けて作業台に向かう。
南側の窓は、ドアのせいで中央じゃなく左のほうにある。
だから、この窓から見るなら、作業台の東側の立ち位置がベストだ。
ヤツが僕に何らかの『いたずら』をするように仕向け、その証拠アイテム……写真か動画データを作る。
それが、僕の計画の第二段階だ。
そのための第一段階の明日、僕はヤツの前で『無力で無防備な少年』を演じる。
ちょっとばかりおかしなことをされても、とまどうだけで抵抗出来ない子ども。
自分に向けられる性的な関心に、たとえ気づいても何も出来ず、大人に刃向かう勇気のない子ども。
何かあっても誰にも言えず、自分の言いなりになるしかない……ヤツがそう思うような、絶好のターゲットになるんだ。
この段階の失敗の要素はふたつ。
ひとつは、ヤツが少年に興味がない場合。
これはもう、どうしようもない。
少女にしか食指が動かないのか、11歳は育ちすぎているのか。
細身で小柄な僕は、外見上は1、2歳下に見られることもあるけど……どうだろう。
あと。容姿はあんまり関係ないかもしれないけど、見たまま外国人の子どもはマイナスだろうか。
何にしても、素材はこれでいくしかない。
二つめは、僕の演技力。
実際の僕はヤツへの怒りを胸に秘め、ヤツを破滅させようと画策している。
それを微塵も感じさせず、か弱く力ない無力な少年を演出しなきゃならない。
無防備な自分をヤツの前に晒すことに、嫌悪はあっても恐怖はない。
いざとなれば、継承者の力があるから、その点は安心だ。
本当の自分を気取られずに、ヤツが本性を表したくなる風情を醸し出す。
しかも。
ヤツへの好意というか、信頼というか……とにかく、明日以降も会う理由をヤツに受け入れさせるために。
僕がヤツを慕うような素振りを見せなきゃならない。
そうだ。
もうひとつあった。
三つめの失敗要素は、ヤツと子猫たちを分離させる理由だ。
明日。ヤツに自分への関心を持たせることのほかに、奏子と子猫をヤツから引き離すっていう目的を持ってことに当たる。
それは……子猫の存在がなくなっても、僕とヤツとの接点を維持出来るようにすること。
そのための策はすでにある。
計画失敗の三つの要素。
三つめは、うまくいかなければ次の作戦を考えるけど、先の二つがダメなら……計画そのものを練り直すしかない。
とりあえず、明日だ。
ヤツに対峙することを想像すると、胸の奥がゾクッとする。
恐怖でも嫌悪でも怯えでもないこの感覚は、強いていうなら期待と興奮だ。
憎むべき悪への復讐の始まりに、僕の中に棲むあの獰猛な何か……悪を壊したいと望む冷酷な生き物みたいな何かが、待ちきれないように足踏みをしている。
復讐への意欲をあらたにして、小屋を出た。
そのまま大通り手前の空き地まで、軍隊の行進みたいに力強い足取りで歩き続けた。
駐車スペースになっている空き地には、使われてなさそうなプレハブ小屋がある。
空き地に足を踏み入れた時、その前に立つ人影が振り向いた。
リージェイクだ。
僕を見て、ゆっくりとこっちに歩いてくる。
足を止めずに進みながら、さっきまでの攻撃的な気分がスッと収まっていくのを感じた。
今は昼の1時過ぎ。
ドアの横にある窓は小さめだけど、充分な明かりを取り込んでいる。
太陽の光は驚くほど強力だから。少しでも入り込む隙間があれば、昼間に人工の灯りが必要になることはない。
逆に、闇を作り出すのは困難になる。
明日ここに来るのは、だいたい4時半くらい。
陽が落ちるのが早くなってきたこの時期の日の入りは、5時半頃。
窓からの陽光だけで、問題なく作業が出来る明るさのはずだ。
そして……。
僕とヤツ、お互いの表情もしっかりと確認できるはず。
普段、ヤツがここで作業をする際は、暗ければ棚の奥にあるLEDカンテラを使うんだろう。
だけど。
僕の計画には、明るすぎないほうがいい。
やましいことをする時はもちろん、やましいことを考えるのも。
明るい空間では、何故か気が引けるものだから。
昨日来た時と変わらない屋内を見回した。
ここには、イスとかの座るものはない。
あるのは作業台だけ。
必然的に、会話は立ってすることになる。
南北に配された二つの窓を見やった。
窓から小屋の中にいる人間を撮影するとしたら……どこにいるのが撮りやすいかな?
作業台は真ん中にあって、南北に細長い。
つまり、作業台の東西どっち側かにいて、反対側に顔を向けて作業台に向かう。
南側の窓は、ドアのせいで中央じゃなく左のほうにある。
だから、この窓から見るなら、作業台の東側の立ち位置がベストだ。
ヤツが僕に何らかの『いたずら』をするように仕向け、その証拠アイテム……写真か動画データを作る。
それが、僕の計画の第二段階だ。
そのための第一段階の明日、僕はヤツの前で『無力で無防備な少年』を演じる。
ちょっとばかりおかしなことをされても、とまどうだけで抵抗出来ない子ども。
自分に向けられる性的な関心に、たとえ気づいても何も出来ず、大人に刃向かう勇気のない子ども。
何かあっても誰にも言えず、自分の言いなりになるしかない……ヤツがそう思うような、絶好のターゲットになるんだ。
この段階の失敗の要素はふたつ。
ひとつは、ヤツが少年に興味がない場合。
これはもう、どうしようもない。
少女にしか食指が動かないのか、11歳は育ちすぎているのか。
細身で小柄な僕は、外見上は1、2歳下に見られることもあるけど……どうだろう。
あと。容姿はあんまり関係ないかもしれないけど、見たまま外国人の子どもはマイナスだろうか。
何にしても、素材はこれでいくしかない。
二つめは、僕の演技力。
実際の僕はヤツへの怒りを胸に秘め、ヤツを破滅させようと画策している。
それを微塵も感じさせず、か弱く力ない無力な少年を演出しなきゃならない。
無防備な自分をヤツの前に晒すことに、嫌悪はあっても恐怖はない。
いざとなれば、継承者の力があるから、その点は安心だ。
本当の自分を気取られずに、ヤツが本性を表したくなる風情を醸し出す。
しかも。
ヤツへの好意というか、信頼というか……とにかく、明日以降も会う理由をヤツに受け入れさせるために。
僕がヤツを慕うような素振りを見せなきゃならない。
そうだ。
もうひとつあった。
三つめの失敗要素は、ヤツと子猫たちを分離させる理由だ。
明日。ヤツに自分への関心を持たせることのほかに、奏子と子猫をヤツから引き離すっていう目的を持ってことに当たる。
それは……子猫の存在がなくなっても、僕とヤツとの接点を維持出来るようにすること。
そのための策はすでにある。
計画失敗の三つの要素。
三つめは、うまくいかなければ次の作戦を考えるけど、先の二つがダメなら……計画そのものを練り直すしかない。
とりあえず、明日だ。
ヤツに対峙することを想像すると、胸の奥がゾクッとする。
恐怖でも嫌悪でも怯えでもないこの感覚は、強いていうなら期待と興奮だ。
憎むべき悪への復讐の始まりに、僕の中に棲むあの獰猛な何か……悪を壊したいと望む冷酷な生き物みたいな何かが、待ちきれないように足踏みをしている。
復讐への意欲をあらたにして、小屋を出た。
そのまま大通り手前の空き地まで、軍隊の行進みたいに力強い足取りで歩き続けた。
駐車スペースになっている空き地には、使われてなさそうなプレハブ小屋がある。
空き地に足を踏み入れた時、その前に立つ人影が振り向いた。
リージェイクだ。
僕を見て、ゆっくりとこっちに歩いてくる。
足を止めずに進みながら、さっきまでの攻撃的な気分がスッと収まっていくのを感じた。
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